走り出した列車内には、いつものように 会社、学校へと急ぐ人々が揺れていた。
「へ〜っくしょん、ゔっぐしょん、あ〜」
顔を少し歪めた中年の男が、クシャミ青年を一瞥してからハンカチを出し顔を拭った。
「・・・」
しばしの沈黙の後、その向かいに座る 男が静かに口をひらいた。
「兄ちゃん、ええ事、教えたるわ クシャミ する時はな、口に手を当てなあかんやん」
「・・・」
「ん? なんか、ワシを睨んどるけど、、 わかった! これは、おっちゃんが悪いわ、兄ちゃん、小学校中退で教えてもらわれへんかったんやろ、穴の空いたジーパンはいて、苦労してるんやな」
「・・・」
「何やて、ダメージ???そないに、性格にダメージ受けたんか?前頭葉にか?まあ、よろしいわ、後で相談にのったるわ」
思わず吹き出した女性が、素知らぬふりでコンパクトを開けた。
「・・・」
「アンタ、なに笑っとんねん、アンタや アンタ! 顔にクレンザーか何か知らんけどチカラの限り塗りたくっとる姉ちゃん、 オノレは左官屋か?そないな、ブサイクな壁、塗ったかて一緒や」
「おっ睨んどる、日本語、分かんのやな ほんなら、アンタにも、教えたろ化粧ゆうもんは、人前でしたらあかん、それが、 み・だ・し・な・み・ちゅうもんじゃ わかるか?お・も・て・な・し・ちゃうぞ」
化粧女は堪えきれず叫ぶように、言葉を返した。
「おじさん、私は誰にも迷惑かけていないし漫才みたいな、言い回しに少し笑っただけじゃない何が、み・だ・し・な・み・よね、この、ひ・と・で・な・し・」
「姉ちゃん、うまい切り返しやな、コラ、そこの優先席で、携帯いじくっとるオバハン、あの姉ちゃんに座布団一枚、渡したれや」
「・・・」
「エテ公が、玉ねぎの皮剥いとるみたいに携帯さわってけつかって、そこは、優先席やて電源をお切りになって、て文字読めんか? 格好だけや無く頭もエテ公なみやな、、」
すると突然、車内アナウンスが流れた。
「本日は○○電鉄を御利用いただき、誠に ありがとうございました。間もなく○○駅に 到着いたします」
関西弁の男はそのアナウンスを聞くと さらに大声で喋り始めた。
「もう時間です、この列車は3両編成ですがこの車輌は何号車でしょうか? 答えは入り口の上のプレートにあります」
乗客全員が見上げると(反省)と書かれた 文字が目に入った。いぶかしげな表情をしている乗客達を後目に男は喋り続けた。
「あんなぁ世の中にはバランスっちゅうもんがあんねん。良い子、悪い子、普通の子って具合に、数の制限があるんよ。今回、しょうもない奴を間引かな、あかんかってん。 最後のチャンスが、反省や。まぁ今回も反省の色、無しちゅうことで、駅の手前で、この車輌ごと消えます。以上、説明終了です」
クシャミをかけられた中年男が、すがるような目つきで聞いてきた。
「貴方は誰なんですか?私にはチャンスを貰え無いんですか?消えたら、私達はどうなるんですか?」
「質問1の答え、個人情報ですので控えさせて頂きます。質問2の答え、貴方はいつも、相手が言い訳がかなわない事でいじめていましたね。出身地や家柄、容姿、そして人種、そりゃいじめられる本人の責任じゃないでしょう。そうゆうのを卑怯者と呼びチャンスはありません。 質問3の答え、あなた方の存在そのものが消えます。まぼろしぃ〜とう事で 周りの人々の記憶からも消えます」
駅の手前で暗い穴がゆっくりと広がり列車から切り離された車輌はすべり込むように静かに車内の叫び声を包み込んだ。
身体が斜めに半分消えかかった、クシャミ青年が最後に叫んだ。
「なんで関西弁なんだよ」
彼の消え残る左耳には、、、「おもろいやんか」と言う声がこだました。
作者神判 時
言わずと知れた創作です。文章の書き方を勉強する積もりで書きました。ご指導、助言や叱責をお待ちしています。お読み頂き、本当にありがとうございました。