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携帯電話の調子が悪く、勝手に電源が落ちるようになった。再起動しないから不便極まりない。ゲームの途中だとかなり頭にくる。いらぬ問題が生じて、たかがゲームなのにケンカしたり。メッセージを送って謝ったり謝られたり、まあ、それも悪くない付き合いではあるが。
仕事に終われ、携帯電話をいじる暇はなかった今日、いつ落ちたか分からない電源をいれる。起動するまでまた鞄に放り込んでコーヒーを飲んだ。昼食を済ませて屋上で飲むのが日課だった。他の社員もにこやかに休憩を楽しんでいる。
「佐奈川さん、今日、行きません?」
飲みに。合コンか、久しぶりだな。頷いて見せると声を掛けてきた女子社員はニッコリして背中を向けた。携帯電話を取り出して着信やメールを確認する。と、また電源が落ちた。溜め息をついて再起動させる。無言の留守番電話が二件と友人からのメールが三件。ゲームからのメッセージ通知が二件。無言は無視した。番号も非通知だっからどうしようもない。メールとメッセージに返信してからコーヒーを飲み干した。
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多少の残業をこなしてから教わったレストランに向かう。女子社員からのメールで相手らはエステティシャンだというのを知った。手練手管みたいなエロい妄想を抱えてレストランに入る。
「佐奈川さん、こっちです」
女子社員が軽く手を上げて呼んでくれた。店員の案内に従う。
エステティシャンなのは本当のようだ。三人の女性は皆、綺麗所であった。男どもは皆知った顔。同じ会社の他部署の奴ら。合コンでしか会わないが。遅れたことを詫びて席に着く。慣れたもんですぐに打ち解け、いい盛り上がりをみせた。ちょうど目の前にいる彼女が好みだった。まあ、ヤらせてくれればそれでいいのだ。特定の恋人が欲しいわけでもない。
しなやかな指先に色気が宿り始めた頃、雪屋橋と名乗った彼女を連れて店を出た。少しふらついては腕に絡まってくる辺りはオーケーサインだと受け取る。ホテル街に向かおうとしたら止められた。
「あの、アタシ、O県から出張してて。ホテル、いらっしゃいませんか?」
一瞬の躊躇は彼女の胸の谷間に埋めた。二つ電車で移動した駅前のホテルだった。フロントには寄らず真っ直ぐに部屋へと向かう。乗り込んだエレベーターの中で腰を寄せてみると彼女はワインが匂う唇を押し付けてきた。潤ませた瞳は俺を見ている。
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部屋に入るとシャワーを浴びたいと言う彼女に従った。バスルームから聞こえる水音に卑猥さが混じって、体が熱くなるのが心地よかった。
思い出して携帯電話を取り出しすと、やはり電源が落ちていて再起動させようとしたが、終わってからでいいかなと思い止まった。鞄に締まってスーツを脱ぐと彼女がバスタオル一枚で現れた。こそばゆいが、きれいだよなんて囁きながらバスタオルを剥ぎ取る。張りも弾力もバッチリな胸に埋もれて行こう。
汗だくになるほどの気持ちよさに何度も求めた。彼女は貪欲に応えてくれた。
「やっと」
「え、何?」
「やっと会えた。いつか会えるように、いつも呼んでた」
「ごめん、知り合い、だった?」
この際、元カノでも構わない。もう一度、もう一度。快楽の海は深い。
「アタシは知ってる」
射し込んだままの股間に激痛が走る。彼女は手を伸ばして根本をぎゅっと握りしめている。
「欲しかったの、ずっと。どうしたら手に入るかいつも考えていたわ」
痛みの隙間から流れ込む彼女の囁きに反応するバカな体。彼女は俺を丸ごと飲み込むかのように話し出した。
昔から俺を見ていたこと、付き合ってきた恋人のこと、親のこと、友人のこと。現在、恋人を作らずに適当に発散して仕事に夢中になっていること。
ゲームの中にいることも。
「仕事中に携帯電話の電源を切っているのは今日、気がついたわ。試しに電話してみたの。昼休み、あの女の子と話している時に電話を使ったでしょ。あの時、メッセージもらったのはアタシなの」
どうやらゲーム内で仲良く話していたのは彼女だったらしい。三人に成り済まして俺との会話を楽しんでいたのよと笑った。ケンカもしたわね。謝りのメッセージは大事にとってあるわ。そう言ってから締め上げていた俺の股間から手を離した。
「ベットの上で貴方が気持ち良くなれるように、ねえ、気持ちよかったでしょう?」
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「嬉しい。気持ちって通じるのね。会わなくても」
まず、携帯電話を解約しに行かねば。そう決意して彼女から離れた。
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作者退会会員