music:4
丸山は、寝る寸前まで少女の首が頭から離れなかった。
じ....っと見つめ、丸山を確認するように見ていた少女の目は、まるでビデオではなく、「すぐそこ」にあるような感覚でさえあった。
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ベッドへ入った丸山は、すでに先に寝ていた朝子を横目に、はぁー...と深いため息をついた。
ここ最近ため息の頻度が多い気がするのを、丸山は吐いた後でいつも思い出す。
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(本当に....あれは何だったんだろう。
俺の幻覚だった....のか?
いや、でもそれはさすがに...。
ここ最近は特にネタが無くって精神的に疲れてたとはいえ、この程度で幻覚を見たのだとしたら、それはそれでマズイだろ、俺。)
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ゴチャゴチャする頭。
丸山は、横になっても眠れる気がしなかった。
それでも不思議なことに、丸山は直ぐに眠りへ入った。
そして丸山は、この日を境に奇妙な夢を見続けることになる.....。
*************
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music:3
丸山は、ふと気づくと古い屋敷の前にいた。
いつものスーツを着て、直立不動に立っていたが、実際に意識がハッキリするまでは数秒かかった。
(ここは....?)
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屋敷には見覚えがある。
しかし、それがどこで見たものかがいまいち思い出せない。
屋敷の周りには何棟かの、同じように古い造りの建物。
周りは深い木々に囲まれていた。
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どこかの古い村のようだ。
風になびく木の葉が、サラサラと音を立てていた。
(....ん?)
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木々の奥、暗く深い闇の中に、小さな鳥居が見える。
不気味に佇む赤く汚い鳥居には、何故か真っ赤に染まった注連縄(しめなわ)が掛けられ、これまた赤い紙垂が付けられていた。
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「なんだ.....?あの不気味な鳥居。」
丸山は思わずボソッと声を出したが、見たことのない神具(神様を祀(まつ)る際に使われる器具、飾りのこと)が気になった丸山は鳥居へ足を動かした。
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鳥居をくぐると、そこには小さな神棚があり、何かを祀っているようだ。
だが奇妙なことに、神棚の殆どの箇所が赤く塗られているのだ。
更に、魔除けか何かの封印かは分からないが、お札らしき物ががまんべんなく貼られている。
普通に見れば、実に気味の悪いものだった。
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その光景に嫌な寒気がした丸山は、とっとと鳥居を抜けようと元来た道を歩きだした。
キィ.....
shake
sound:18
「!!!!?」
丸山の動きが止まる。
後ろの神棚から物音がしたのだ。
恐る恐る振り返ると、神棚の戸が開いている。
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「.....なんで...。」
見ると、戸に貼られたお札が破られている。
そうして開いた神棚の戸の中に、白い紙切れのような物が供えるようにして置いてあった。
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(....何の紙だろう。)
丸山はその紙がどうしても気になり、少し迷ったが結局見ることにした。
紙にはこう記されていた。
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6月10日
何が呪いだ。
あの子は何も呪われてなんかいない。
きっと、村長の婆さんが何か知っているに違いない。
儀式は10日後に決定したが、どうにか阻止せねば....
明日、婆さんに儀式について聞きにいこう。
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日記と見られる紙切れには、乱雑な文字でそう記されていた。
「ど、どういう意味だ....?」
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なぜ、こんな物が祀ってあるのだろうか。
奇妙な文章に疑念をたやしつつも、仕事柄気になったものはメモが無くても記憶できる能力に長けていた丸山は、メモの内容を概ね記憶した。
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鳥居から戻り更に周りを見渡すと、鳥居のあった場所の反対方向に、とても古いトンネルが見えた。
丸山はそのトンネルへ向かって歩き出した。
その際に、無意識による癖で胸ポケットへ手を伸ばす。
ヘビースモーカーの丸山は、いつもそこに煙草を忍ばせており、彼の胸ポケットに煙草がない事はほぼあり得なかった。
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「あれ、煙草がない。」
というより、気づけばさっきまで着ていたスーツが白い装束衣に変わっている。
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(ど、どうなってんだこりゃ?)
丸山は、疑問に思いつつもトンネルへ足を運んだ。
トンネルの上部中央には、
「赤神(せきがみ)トンネル」と書かれている。
....勿論、見覚えはない。
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(一体、ここはどこなのだろうか。)
丸山が、トンネル内へ入ろうとした.....その時だった。
shake
sound:18
「....はっ!!!!!?」
丸山は気づくと、小さな物々しい雰囲気の部屋に寝かされていた。
左側には何やら祈りを捧げ、お経のような言葉を発している老婆。
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(な、なんだ?いきなり....。
どうなってる....??
か、身体が...動かねえ。)
必死に動こうとするものの、赤装束の男達が手足を抑えていて身動きが取れない。
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「んだよ!てめぇらっ!!」
必死に叫ぶが、まるで聞いちゃいない。
周りには何十本と立てられた赤いロウソクが、不気味な炎を焚いている。
shake
「!!!!?」
おもむろに立ち上がった老婆が、赤い紙垂の付いた小太刀を一人の男から受け取った。
老婆はまた日本語とは思えない言葉を何度か発し、刃先を丸山へ向けた。
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(おっ....おいおい。
ふざけんなよ、くそババア。)
丸山は必死にもがいた。
だが無情にもまるで動かない身体。
老婆が冷たく此方を見下ろし、小太刀を振り上げたーー
*************
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music:2
shake
「.......うわぁ!!!」
丸山はベッドの上で飛び起きた。
その振動で、隣に寝ていた朝子が機嫌悪そうに睨んでくる。
「何なのよ、もう....。」
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「......ハァ....ハァ......。」
額から汗が垂れる。
息がなかなか落ち着かない。
それほどまでに、その夢は現実に近い感覚だった。
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(夢.....なのか?今の....。)
なかなかそれが夢であることを理解するのに時間がかかる。
shake
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「......つっ....!」
ふと痛みが走る手足。
確認した丸山は絶句した。
「.....夢じゃ....ねぇのかよ...?」
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手足には生々しい痣。
そこには、ものすごい力で抑えられたであろう何者かの手の跡が、しっかりと残っていたのだったーー。
*************
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music:4
2009年6月11日(木)
翌朝、丸山は目の下にクマを作っていた。
ボーっとする頭は、少しズキズキと痛みもある。
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「はぁ、朝から辛気臭い顔ねぇ。
そういうの、やめてよねっ!
こっちの気分まで下がるから。」
.....何かゴチャゴチャと朝子が言っているが、丸山はそんなことは耳に入らない。
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(そっか....。
今日の夢、あのテープの....。)
「いや...考え過ぎだな。」
丸山がボソッと呟いた言葉を聞いた朝子は、「ダメだこいつ」と言わんばかりの表情を浮かべ、そそくさとキッチンへ戻っていった。
テーブルに置かれたコーヒーをすする。
夢の内容を、不思議と少しの余白も無く覚えている。
不気味なくらいに鮮明に、だ。
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(ちょっと....前田に相談してみっかなぁ。)
あまり気乗りはしなかったが、前田はああ見えても頭の回転が早く、機転もきく。
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(もしかしたら、俺には出せない答えを導いてくれるかもしれない....。
なんて、期待はしないでおこう。)
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丸山の家は、埼玉県戸田市の某マンションだ。
会社のある東京都の板橋区は、比較的目と鼻の先にある。
車で20分といった所だ。
都内となると駐車場を含め全てが高くなるが、少しだけ離れた戸田であれば、一気に値は下がる。
ドーナツ化現象とやらの、いい例だ。
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戸田には、丸山と同じような考え方でマンションを購入する人間が多い。
丸山の住む308号室の隣のお宅も、もう一つ隣のお宅も、同じように都内に職場を持つ家庭だった。
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「車だけはいいものを!」と、妻である朝子に土下座までして購入したBMWだったが、実際は維持費も燃費もコンパクトカーの倍はかかる。
今となっては、その分安いのを購入してお小遣いを増やした方が良かったと、丸山は後悔していたのだった。
.....ローンが残っているので買い替えられないのは、言うまでも無い。
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国道254号線から少し外れた路地を抜けると、雑居ビルが何棟か並ぶ並びへ出る。
その一角が、丸山の職場であった。
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「おはようございまーす。」
いつも同様、心の少しもこもっていない挨拶をしながら会社のドアを開けた。
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「おっ、これはこれはネタ無し編集者さん。
もしかして、夜のネタも無しですか?
えっ!むしろタネも無いですって!?」
カッカッカと、相変わらず嫌味と下品のオンパレードな前田に、朝一一発のゲンコツをお見舞いした。
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「いったっ!
馬鹿、冗談だっつーの、ムキになんなよ。
それより昨日のアレ、どうだったんだよ?」
「....あぁ。」
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丸山は力なく答えた。
それを聞いた前田は、何かを察したようにニッコリと笑顔を見せ、ドンマイと肩を叩く。
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「いや、つーかさ。
少しコイツのことで相談があるんだけど....。」
丸山はカセットテープを鞄から出し、前田へ見せた。
ほう、と言った表情を一瞬見せた前田は、すぐに仕事の顔になった。
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「分かった。
とりあえず、まぁ缶コーヒーでも買って見てみようじゃねーか。」
世の中の色んな情報を把握する必要のある雑誌編集社には、常に新しい情報が聞けるよう、各デスクの脇にテレビが置かれている。
だがそれとは別に、休憩室にある古いブラウン管のテレビは普段誰も使わない。
丸山と前田は、倉庫からビデオデッキを持ち出し、休憩室のテレビへ繋いだ。
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「一つ言っておくが、覚悟して見ろよ。
もしかしたら、だけど。
....その.....呪われるかも....よ。」
それを聞いた前田が、目をまん丸にして一瞬固まったが、すぐにブーっと吹き出し大笑いした。
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「ガッハッハッハッ!
おいおい、まじで大丈夫かよお前?
確かにオカルトは大好きだし信じてる俺とはいえ、まさかお前にそんなこと言われるとはなぁ。」
少しムッとなった丸山だったが、恐らくコイツを見せれば多少前田も大人しくなるだろう。
そんな期待が心にあったお陰で、ギリギリだが怒らずに済んだ。
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ガチャ...ウィーン....
ビデオをセットすると、昨夜見たあの映像が流れ出した。
最初は目をキラキラさせていた前田も、少女のシーン辺りから笑みが消えた。
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そして、最後のアレ。
昨夜見た、少女の首が此方をじ...っと見つめるシーンだ。
もう一度あれを見なきゃいけない環境に、丸山は少し鼓動が早まった。
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sound:18
「......えっ?」
おかしい、少女の首が画面手前へ転がり此方に顔が向く。
ところまでは昨日通りだったにも関わらず、依然として少女の目は上を向いて殆ど白目のままだ。
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(あれ、こっちを向くまでこんなに時間経ってたっけ....?)
結局、ビデオの少女は此方を向かずにテープが終わった。
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「ま、待て。
これ、昨日と違う。
き、昨日は、最後に....
最後にこっちを向いたんだよっ!」
相当に焦った丸山の口はうまく回らなかったが、必死で説明した。
その様子も含め、前田は缶コーヒーを一口飲んで「...ふーっ。」と息を漏らした。
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「丸山よぉ、このテープは昨日本当に一般投稿の段ボールから見つけたんだよな?
しかも、担当の高橋はそれに気づかなかった。
そうだな?」
こくっと頷く丸山を確認し、前田が続けた。
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「あのな、ハッキリ言わせてもらうが....
これは偽物じゃない。
俺はプライベートで腐るほどアイドルのアイコラを作成してきた。
その経験からして、これは合成じゃねーのが分かる。」
普段なら、普通にドン引きしている発言だったが、この時ばかりは丸山も突っ込む余裕は無かった。
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「んで?このテープの他にもあんだろ?
お前がそこまで思いつめてる原因がよ。」
丸山は、洗いざらい前田へ告白した。
ビデオがあり得ない状況でも流れたこと、夢のこと、腕についた痣のことも。
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「...はぁ〜.....マジですかぁ、丸山君。
これ、結構マズイと思うな俺は。」
ドキッとする前田の発言に、不安だらけの丸山はつい声を荒げてしまった。
「はっ?
な、何がマズイんだよ!?
単なる偶然だろ?
こんなたまたま見つけたビデオに、何が出来るっつーんだよ!?」
前田は、それを目をつむって静かに聞き流し、缶コーヒーを一口飲んだ。
そして、丸山に「あくまで個人的な解釈だが」と前フリを入れ、説明をした。
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「いいか。実際に、この世には霊も呪いも存在すると俺は思ってる。
普通の人間が知らない常識が、実際この世にはたくさんある。
お前も編集者なら分かるだろ?
そして、この映像はイタズラじゃない。
これは俺のお墨付きで確実だ。
そしてお前の言ってた最後、じっと見られてたんだろ?
恐らく、それはこのガキんちょがお前に決めたってこった。
あと、夢のことなんだが...。
これはあくまで俺の予想だが、その夢に出てきた日記の記帳日が6月10日っつーのは、偶然じゃない。
分かってんのか?
昨日も6月10日なんだぜ?
それに、お前は夢の最後にこのガキと入れ替わったように儀式にいた。
そして、ヤられる前に目が覚めた。
恐らくそれは、まだ儀式まで10日あるからだろう。
.....つまり、だ。」
前田は、パンッと丸山の目の前で手を合わせて微笑んだ。
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「お前の余命はあと10日だ。
あ、いやもう一日経ったから9日だな。」
丸山は口を開いたまま、呆気に取られていた。
前田の言っていた言葉が頭で処理できない。
実際、いきなりそんなことを言われて信じられるわけがなかった。
それでも、いつも確信をつくことを言う前田が言ってるという事が、丸山を更に焦らせた。
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「つ、つ、つまりだ。
俺はど、どうすりゃいいんだよ!?
余命があと9日だと!?
ふざけんなよっっ!!」
怒鳴る丸山の言葉を、前田は意外にも真顔で聞いていた。
そして、そのまま丸山の目をじっと見つめて言った。
前田の、真顔で相手を見て話す時は、まず間違いないことを丸山は過去の経験で知っていた。
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「お前、恐らくまた同じ夢を見ることになるだろう。
その時に、出来る限り情報を集めてこい。
まず、この村を割り出さなきゃ話にならんだろ。
俺も、もう少しビデオを確認してみる。
お前の聞こえたっつー「探せ」って言葉の意味も分かんねえからな。
あと、お前明日から会社休め。
奥さんにはバレないよう、家へ連絡入れないように俺が社長に言っとく。
ついでに、俺も休み取るからよ。」
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前田の言葉を聞いた丸山は、心から前田を尊敬した。
だがそれと同時に、高鳴る恐怖と焦りがこみ上げる。
「あ....ありがとう。」
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丸山は、実際には運がいいとも言えた。
身近な存在に前田という存在がいたことだけでも、十分に精神を保つことができた。
もし、これをたった一人で背負っていたとしたら、10日後に生きてる事など皆無に違いない。
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丸山は、仕事が終わると同時に家へ直帰した。
内心、徹夜をしてでも村の捜索をしたかったが、寝ないことには村のヒントを得られない。
せかせかと動く旦那を不思議そうに見ていた朝子を放置し、丸山はさっさとベッドへ入った。
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(恐らく、前田ならあのテープから何かしらの情報を得てくれるはずだ。
俺は、あの村で出来る限りのヒントを得よう。
あと、夢の法則についても把握しとかなきゃダメだな....。)
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様々な思いや感情が頭を回り、すっかり目が冴えきっていた。
それでも、不思議と丸山はすぐに寝てしまった。
そして丸山の手足には、相変わらず不気味な手の痣が目立っていたのだったーー。
続く
作者鳴終魏-NAOKI-
このお話は、先日投稿させていただきました、「赤い村-始まり-」
の続編となります。
書きながら内容を考えているので、矛盾点、誤字脱字、不明な点などございましたら、遠慮なくご指摘ください。
また、ご感想もお待ちしております^_^
どうぞ、一読していって下さいませ。