ー佐藤が中学三年の頃ー
佐藤は今飛行機に乗って窓の外の景色を眺めている。
佐藤「あーあ、眠いな…」
川田「どうした、寝不足か?」
友人の川田が佐藤に話し掛けてくる。
佐藤「まあな。」
佐藤はあくび混じりに答える。
川田「でも俺、北海道初めてだから楽しみだぜ。」
そう、今佐藤達が乗っている飛行機は北海道に向かっている。三年の学校行事の修学旅行に参加する為だ。
予定は三泊四日で、内容は同級生と北海道を旅して楽しむことだ。
池田「着くまでゲームでもしねぇか?」
今度はもう一人の友人の池田が話し掛けてきた。
川田は暇潰し、佐藤は眠気覚ましにやる事にした。ゲームはトランプのポーカーである。
佐藤「じゃあまずは手札を五枚…」
そう言いながら佐藤がトランプの山から五枚の手札を取ろうと手を伸ばしたその時…
?「助けて!」
佐藤「!?」
突然佐藤の脳裏に何かが語り掛けてきたのだ。驚いた佐藤は咄嗟に周りを見渡すが、誰がどこから語り掛けてきたのかは分からなかった。
川田「どうしたんだ?」
突然の佐藤の行動に驚いた川田が尋ねる。
佐藤「あっ、いや…何でもないよ。」
そう言って佐藤は再びトランプの山に手を伸ばして五枚の手札を取る。
佐藤「さっきの助けを求める声…あれは一体…」
それからしばらくして佐藤達が乗る飛行機は北海道の新千歳空港に到着する。空港内で点呼とオリエンテーションを終えてからそれぞれの班に分かれた。
ちなみに佐藤は池田や川田と同じ班である。そしてこの後はそれぞれの班で自由行動となっているので、佐藤達の班も北海道の色んな所を回ることにした。
佐藤「やっぱりさっきの声が気になるな…あれがもしも本当に俺に助けを求めているなら俺は何かに導かれているのか?」
佐藤はそんな事を考えながら池田達と共に北海道巡りを楽しんだ。
やがて全員集合の時間になったので、佐藤達は宿泊するホテルに集まった。
そして部屋に通される佐藤達。
川田「うわー、すげえ。超広いな!」
三人が泊まる部屋は大きかったので、川田も池田もハイテンションになっていた。
佐藤「さて、休むか。」
佐藤がくつろぐために荷物を下ろした時、再びあの声が響く。
?「来てくれたのね、直ぐに私を助けて!」
佐藤「だ、誰だ?」
佐藤は部屋を見渡すが、飛行機内の時と同様に誰がどこから語り掛けてきたのかが分からなかった。
川田「一体どうしたんだよ?行きの飛行機の時からお前変だぞ?」
佐藤は黙っていようと思っていたが、これ以上隠し通すのは無理だと判断して二人に全て打ち明けた。
川田「もしかして何かの霊がお前に助けを求めてるんじゃないか?」
佐藤「何かの霊…か。」
佐藤は川田の言うことも一理あると思って数珠を取り出した。
池田「やっぱ持ってきてたか。」
佐藤「ああ、俺にとっちゃお守りみたいな物だからな。」
そう言うと佐藤は取り出した数珠を使って霊視を始めた。
佐藤「……さっきの声の主が本当に霊なら霊視で見つけられる筈だ。」
そう思いながら霊視を続けると何かが佐藤の目に見えてきた。
佐藤「これは…この部屋か?まさか、あの声の主はこの部屋にいるのか?」
更に詳しく霊視すると部屋の掛け軸が見えてきた。
佐藤「まさか!?」
そこで佐藤は霊視を止めて部屋の掛け軸に目をやった。その掛け軸はこの部屋には一つしか無いものであり、大きさは普通の掛け軸と変わらなかった。
佐藤「これか…」
佐藤は意を決して掛け軸に手をかけ、勢いよく壁から外した。
するとそこには一枚のお札が貼られていた。どうやら掛け軸はこれを隠す為に掛けられていたらしい。
川田「お、おい。」
池田「それってお札!?」
川田と池田はお札を見ると後退りした。
佐藤「恐らく俺に助けを求めている奴はこのお札で封印されている筈だ。」
池田「まさかお前、それを剥がしてその封印されている奴を出す気か!?」
池田が恐れながら佐藤に尋ねてきた。
佐藤「いや、剥がしはしないよ。もうしばらく様子を見る。」
そう言うと掛け軸を再び掛け直す。
その後佐藤達は入浴の時間になったので浴場に向かう。
川田「俺達の部屋ってもしかして幽霊が出るのかな?」
川田が湯船に浸かりながら聞いてきた。
池田「あれがあんな所に貼ってあったからそうかもしれないな。」
佐藤「でも一体何が封印されているんだ…」
佐藤は体を洗いながら封印されているのが何なのかを考えていたが、結局何も浮かばなかった。
それからしばらくして次のクラスが入る時間になったので佐藤達は浴場を後にする。
川田「いやー、いい湯だったな。」
池田「そうだな。」
佐藤「夕食まで時間があるから部屋に戻ろうぜ。」
佐藤が部屋に戻る事を提案すると二人は一気に顔を曇らした。
池田「俺、まだここにいるよ。」
川田「俺も。」
二人が部屋に戻るのを拒んだので、佐藤はやむ無く一人で部屋へ戻ることにした。
佐藤「やっぱりあのお札を見た事であの部屋が気味悪いんだな。」
佐藤はそう考えながら部屋に戻り、再び例の掛け軸と向き合った。
佐藤「さて、どうするか…ここはやっぱり霊視か?それともお札を剥がすか。」
佐藤はあれこれ考えていたが、霊視をする事に決めた。
佐藤「よし、始めるか。」
佐藤は数珠を出して霊視を始めた。
佐藤「……駄目だ、何も見えない。さっきの声も聞こえないし。」
諦めて霊視を止めた佐藤だが、またもあの声が聞こえてきた。
?「早く助けて!」
佐藤「誰だ!どこにいる!?」
?「お札を剥がして!」
佐藤「お前は誰だ?やはりあのお札で封印されているのか!?」
?「そうよ!早く!!」
佐藤はお札を剥がそうと思ったが、相手が何者か分からないので思い止まった。
佐藤「剥がす前に聞くが、お前は何者だ?どうして封印されている?」
佐藤は謎の声の主に問いかけるが向こうからの返答はなかった。
佐藤「答えないなら剥がしはしない。」
そう言って佐藤は部屋から立ち去る。
そして丁度夕食の時間になったので、佐藤は食堂の方へ向かう。
佐藤「あの声の主が何も話さないって事は何かあるな…。」
ー食堂ー
佐藤「もうこんなに混んでるのか。」
着いた時には既に食堂は大勢の生徒でごった返していた。
池田「おーい、佐藤!ここだ、ここ!」
池田が呼ぶ方へ向かうと川田も一緒に座っていた。
佐藤「場所取ってくれてありがとう。」
二人に礼を述べて座る佐藤。
池田「所であのお札どうした?」
池田が早速お札の事を尋ねてきた。
佐藤「いや、別に何も…」
先生「よーし、全員集まったから静かにしろよー!」
先生が静かにするように言ってきたので、佐藤達はやむ無く話を中断する。
佐藤「とにかくお札は剥がしたりしてないよ。」
池田「わかった。」
その直後に食事係が「いただきます!」と言ったので、生徒達は食事にありつく。
夕食は北海道というだけあって、豪華な海の幸を使った料理でどれも美味しそうだった。
川田「すげぇうまいな!」
池田「だな!」
二人とも部屋のお札の事を忘れる様に料理を食べている。
それを見て佐藤も多少ほっとしたようだ。
佐藤「良かった。さっきはお札の事で暗くなってたからな。」
佐藤もほっとしながら料理を食べる。
食事はそれから三十分程で終わり、佐藤達は部屋に戻る事になった。
佐藤「ああ、美味かった。」
池田「俺、もう腹一杯で食えないぜ。」
等と他愛もない会話をしながら部屋に戻った佐藤達。
だが、佐藤は部屋に足を踏み入れた時に何か違和感を感じた。
佐藤「……何だ?この感じ……」
佐藤は違和感の正体が分からないまま部屋に入って腰を下ろす。
池田「取り合えずもう寝るか?」
川田「そうだな、そうしようぜ。」
二人がそう言って寝る準備を始めた為に佐藤も違和感の事を忘れて寝ることにした。
佐藤「まあ考えてても仕方ない。早く寝よ。」
そして就寝時間までまだあったが、佐藤達は眠りにつく。
それからどのぐらいの時間が経ったのかわからなかったが、気づくと佐藤は大きな池の前にいた。
佐藤「どこだここは?俺…確か部屋で池田達と一緒に寝てた筈だけど。」
そう思いながら池を見ていると、水面に泡が立ち始めて何かが出てきた。
佐藤「何だ?あれは。」
目を凝らしてよく見るとそれは一人の髪の長い女性だった。その女性は池の中から出てくると佐藤の方に向かってきた。
佐藤はまずいと感じて動こうとするが何故か体は動かなかった。
佐藤「くっ、体が動かない!」
佐藤が必死に体を動かそうとしていると女性は池から上がった。
そこで佐藤は初めてその女性の顔を見た。その顔の目がある所は空洞になっていた。
佐藤「こ、これは一体…」
佐藤が女性の顔を見て怯えていると女性は助けを求めるように歩み寄ってきた。
佐藤「く、来るな!」
佐藤は体を動かしたかったが、体はピクリともしなかった。
佐藤「くっ、何で動かないんだ!?」
佐藤がなおも体を動かそうとしていると女性はついに佐藤の目の前に到着した。
佐藤の体は一向に動かない。
女性は佐藤を見つめながら両手を伸ばしてきた。そして佐藤の両目に手をかけようとする。
佐藤「目を取られる!」
そう思ったと同時に佐藤は目を覚ました。
目を覚ました所は部屋のベッドの上であり、隣には川田と池田が寝ていた。
佐藤「今のは夢だったのか。」
佐藤は先程の体験が夢だということが分かるとほっとしたが、体は震えていた。
佐藤「やけにリアルだったな。でもあの女性は一体…」
佐藤が女性の事を考えていると不意にお札の事を思い出した。
佐藤「まさか、俺が感じた違和感って…」
そう思いながらベッドから降りると直ぐに掛け軸の所へ向かった。
そこでようやく先程の違和感の正体が分かった。
佐藤「やっぱり…これだったのか。」
なんと例のお札を隠していた掛け軸が切れていたのだ。
佐藤「掛け軸の真ん中が切れてる…さっきは何ともなかったのに。」
不思議に思いながらも掛け軸を外す佐藤。するとそこで初めてお札の異変に気づいた。
掛け軸で隠されていたお札に穴が空いているのだ。
しかもその穴は二つ空いており、位置的にはまるで先程の夢に出てきた女性の両目の部分の様だった。
佐藤「何で穴が…まさか、さっきの夢はこれが原因か?ということは俺に助けを求めていたのはあの女性で、自分を封印していたお札に穴が空いたことによって封印から解放されたのか?」
佐藤はそう考えながらお札を見ていた。
佐藤「…………」
ー翌日ー
この日はホテル近くの博物館へ行き、昼まで見学した後はまたも各自自由行動という予定だ。
食堂で朝食のバイキングを食べていた佐藤は昨夜のお札の事を思い出していた。
佐藤「やっぱり気になる。何故あのお札に穴が空いていたんだ?しかもあの女性の両目の部分の形そっくりに。」
佐藤は頭を抱えて考え込んでいたが何も答えは浮かばなかった。
佐藤「霊視したいけど、あともう少し待たないと霊視は出来ないしな。」
池田「よぉ、どうした?何かあったのか?」
バイキングを取りに行って隣に座った池田が話し掛けてきた。
佐藤「……いや、何でもないよ。」
佐藤は話そうかと思ったが、気を悪くさせるといけないので黙っている事にしたのだ。
池田「そうか?」
池田は特に何も感じなかった様で、気にせずに朝食を食べ始めた。
それを見てほっとした佐藤も食べかけの朝食を食べる。
佐藤「とにかく後で霊視するか。」
そんなことを考えながら佐藤はパンを口に運んだ。やがて朝食も終わって佐藤は部屋に戻る。
佐藤「さて、早速霊視するか。」
佐藤は部屋に戻るなり掛け軸の前に立つと数珠を取り出して霊視を始めようとする。しかし、《全員、地下の大ホールに集合してください》とのアナウンスが流れたため、やむ無く霊視を中断して地下の大ホールに向かう。
《地下・大ホール》
佐藤が地下の大ホールに着くとほとんどの生徒が集まっていた。
佐藤も自分のクラスの列に並ぶとクラス委員が点呼を始めた。そしてそれも終わると全員集まった様で、先生が生徒達の前に立った。
先生「よし、全員集まった様だな。ではこれより向かう博物館での学習内容と諸注意を説明する。」
そう言って先生が話始めた。
その話は十分程で終わり、ようやく全員出発する事になった。
佐藤達が向かう博物館はホテルから歩いて数分の所にある大きな博物館だ。
ー二十分後ー
《博物館》
佐藤達は全員到着したすぐ後に博物館へ入り、館内の見学を始めた。
佐藤が館内の展示品を眺めていると池田が話し掛けてきた。
池田「なぁ、ここってどうだ?」
佐藤「どうって?」
池田「ほら、前にお前言ってたじゃん。こういう所は古い霊がよくいるって。」
佐藤は池田にそう言われて以前言ったことを思い出した。
佐藤「ああ、それなら確かに言ったけど。」
池田「で、どうなんだ?」
池田の質問に佐藤は館内をざっと見渡してこう答えた。
佐藤「すごい言いにくいんだけど…この辺は土地があまり良くない。だからこの館内にはたくさんの古い霊がいるよ。それに俺達が泊まっているホテルにもいつの時代のか分からない霊がいるし。」
池田「ホテルにいる霊って俺達の部屋のお札で封印されている…? 」
池田が恐る恐る聞いてきた。
佐藤「断定は出来ないけど恐らくな。」
池田はただ黙っているしかなかった。
佐藤「でも夢に出てきたあの女性は本当に俺に助けを求めてきた霊なのか?せめて声でも分かればな。」
そんな事を考えながら再び展示品に目を向ける佐藤。黙っていた池田も我にかえると展示品に目を向けた。
二人が一階の展示品を見学している一方で川田は二階の方の展示品を見学していた。
《二階》
川田「あーあ、何となく退屈だな。早く昼飯にならねぇかな。」
そう思いながら展示品を見ていた川田は急に目眩がし始めた。
川田「あれ?何か目眩が…」
やがて川田は立つ事もままならなくなり、倒れてしまう。
バタッ
「キャアーッ。」
川田が倒れたのを見た女子が叫んだ。
《一階》
先生「何だ?今の悲鳴は。」
二階から聞こえた悲鳴を聞き、一階にいた先生が反応した。他の生徒達も同じく聞こえたので何かあったのかと不安そうな顔をしている。
佐藤「今のは?」
池田「佐藤!行くぞ!」
佐藤「ああ!」
佐藤と池田も悲鳴を聞いて一階の見学を中断し、二階へ向かう。
《二階》
二人が二階に着くと大勢の生徒達が集まっていた。
池田「何だ、あの人集り?」
佐藤「行ってみよう。」
気になった二人が人集りを掻き分けて行ってみるとそこには床に倒れている川田がいた。そしてその側では添乗員の看護師さんが川田を抱き起こして呼び掛けていた。
看護師「川田くん、大丈夫?川田くん!」
佐藤・池田「川田!」
二人はすぐさま川田に駆け寄って呼び掛けてみるが、川田は目を覚まさなかった。
佐藤「一体どうして…」
池田「川田は何故倒れたんですか?」
看護師「それが分からないのよ。周りの皆に聞いても急に倒れたっていうし…」
佐藤は川田を一目見て、これは霊障だと判断した。何故なら佐藤には見えたからだ。倒れている川田の背中に張り付く小さな子どもの霊が。
佐藤「君、彼から離れなさい。」
佐藤は早速子どもの霊の説得を試みた。
子ども「やだ。だってこのお兄ちゃんにくっつきやすいんだもん。」
佐藤「確かに彼は君ら霊にとっては憑代みたいなものだろうからね。でも彼は君の運び屋じゃない、直ぐに離れなさい!」
佐藤は強めに言ったが子どもの霊は言うことを聞かなかった。
佐藤「なら仕方ない。力ずくでも切り離してやる!」
そう語りかけながら佐藤は数珠を出す。
すると子どもの霊は突然川田から離れて姿を消した。
佐藤「やれやれ…」
幸いにも周りは倒れている川田に注目していたので、佐藤が数珠を出した事は気づかれなかった。
そして川田はそれから直ぐに目を覚ました。
川田「あれ?俺、一体…」
目を覚ました川田は訳が分からず、はてな状態だった。
その後川田は念のためにと病院に送られたが、病院側から異常なしと診断されてホテルに帰ってこれた。
《佐藤達の部屋》
川田「じゃあ、俺にその子どもの霊が憑いてたってのか?」
病院から帰って来た川田は佐藤から子どもの霊の事を聞いて驚いていた。
佐藤「さっきも言った様にお前は霊に憑かれやすい様だから気を付けろよ。」
川田「でもどうすればいいんだ?」
川田は自分が霊に憑かれやすいと知ってあたふたしていた。
佐藤「取り合えず東京に帰ったら母さん達に頼んでお前用のお守りを作ってもらうよ。それで防げるはずだから。」
川田「でも修学旅行が終わるまで今日を入れて、後三日はあるぞ?それまでどうすればいいんだよ!?」
川田は少々涙目になっていた。
佐藤「大丈夫だよ、俺がついてるから。少なくともお前が俺から離れなければ俺が守れるよ。」
川田はそう聞いて少しほっとしていた。
池田「それより佐藤、この部屋にいるっていう霊の事はどうするんだ?」
池田がこの部屋にお札で封印されていた霊について話題を変えた。
佐藤「取り合えずあのお札とこのホテルの土地を俺が見たあの夢をイメージして霊視してみるよ。」
池田「あの夢?」
佐藤「あっ…」
佐藤はしまったと思ったが隠すのは無理だと判断して夢の事を話した。
川田「その夢に出てきた女ってこのホテルで殺されたのか?」
川田が夢の話を聞くなり佐藤に問う。
佐藤「いや、正確にはこのホテルが建つ前の土地で昔殺害された人だと思うよ。あの時は突然の状況に驚いていたからよく分からなかったけど、今思えばあの人は殺害されてからあの池に放り込まれたんだろうね。」
佐藤はあの夢を思い出しながら言った。
池田「じゃあ、取り合えず霊視だな。」
佐藤「ああ。」
数珠を出し、先程やり損なった霊視を始める佐藤。するとその目にこのホテルが建つ前の昔の土地の映像が映った。
佐藤「これは……」
佐藤の目に見えたのは一人の若い女性の姿だった。その女性の服装、髪の長さや色から夢で見た女性に間違いないと佐藤は判断した。
さらにその女性の目の前にはこれまた夢で見た大きな池があった。どうやら昔のホテルの土地にあの池があったらしい。
佐藤がしばらく見ていると池を眺める女性の後ろに突然一人の男が現れた。女性は男には気付かずに池を眺めているままだ。その間に男は徐々に彼女に近づき、彼女を後ろから押し倒した。
女性は突然の事に抵抗出来ずに男によって首を絞められ、絶命する。
さらに恐ろしい事に男は殺した女性の両目をえぐりとってその死体を池に放り込んだ。そして男はその場を立ち去った。
佐藤「………」
佐藤は殺人の瞬間の映像を見て呆然としていたが、はっとすると霊視を中断する。
それからしばらく佐藤は放心状態だったが、落ち着いてから二人に見た事を話した。
池田「うわー、そりゃ俺も見たくないな。」
川田「ほんとだな。」
川田も池田も佐藤の話を聞いて顔をしかめていた。
佐藤「残念ながらこれ以上は霊視できないな。取り合えず今の霊視で分かったのはあの女性は例の男に殺されたって事と、その殺害された現場がこのホテルが建つ前の昔の土地だって事ぐらいだな。」
腕を組みながら話す佐藤。
池田「所であのお札で封印されていたのはその殺害された女性なのか?」
佐藤「それはまだ分からないよ。でも現段階で考えたらそうだろうな。せめてあの殺人事件がいつ起きたのかが分かればそれを特定出来るんだけどな…。」
殺人事件がいつ起きたのかが分からないので悩んでいた佐藤だが、自由行動の時に近くの図書館で調べることにしてその場を終わらせる。
《一時間後》
ー図書館ー
自由行動の時間になったので、早速図書館で例の事を調べていた佐藤。最初は中々見つからなかったが、三十分程時間を掛けて探し、ようやく見つけることが出来た。
佐藤「あった、これだ。 」
佐藤が見つけたのはある事件の新聞記事のファイルで一面に大きく「連続女性惨殺事件」と載っていた。
その記事によると今から二十年以上前にこの北海道内で数人の女性が殺害されていたらしい。その手口は深夜に一人で出歩いている女性を殺害した後にその両目をえぐり取るという残虐極まりない物である。
佐藤はこの手口を見て、あの女性が殺害された事件はこれに間違いないと判断した訳だ。
更に詳しく読んでみると犯人は捕まったが、精神鑑定の結果によって入院という事になったらしい。だが、その犯人は入院している病院の屋上から飛び降り自殺した様だ。
佐藤「こんな事件があったのか…」
佐藤は新聞記事を読んで呆然としていたが、ハッとするとファイルを元の所にしまって図書館を後にした。
《ホテル》
ホテルに戻ってきた佐藤だが部屋には川田も池田もいなかった。どうやらまだ帰ってきていないらしい。
佐藤「仕方ない、しばらく待つか。」
そう言って腰を下ろす佐藤。その時、佐藤は部屋の何処かから視線を感じた。その視線がどこから来ているのか正確には分からなかったが、間違いなくこの部屋の何処かだと確信した。
佐藤「一体どこだ?誰が見ているんだ!?」
佐藤は部屋中を見渡すが、視線の正体も視線がどこから来ているのかも分からなかった。
佐藤「霊視したいけど数珠がないしな。」
そう、佐藤は今数珠を持っていない。と言うのも先程図書館へ向かう前に川田にお守りとして貸したからだ。川田達が違う所に行きたがたので佐藤がお守りに渡しておいたのだ。
佐藤「弱ったな…こんな事なら予備の数珠を持ってくるべきだった。」
佐藤は予備の数珠を持って来なかった事を後悔したが、修学旅行のしおりを書いて川田達が戻るのを待つことにした。
佐藤「あれ?何か眠い…」
佐藤は書いている最中に睡魔に襲われて眠りに落ちる。
それからしばらく経ち、佐藤が目を覚ますと外は真っ暗になっていた。どうやらもう夜らしい。
佐藤「あーあ、寝ちまったな。」
佐藤は眠い目を擦りながら立ち上がる。
佐藤「!」
佐藤は一瞬、背後に気配を感じて振り返った。
そこには例の掛け軸。
佐藤「今の気配…さっきの視線に似ていた…」
そう思いながら佐藤は掛け軸に手を掛ける。そしてそれを外したが、そこには例の穴が空いたお札があるだけだった。
佐藤「あれ?何もないな。別に変わった所はないし…じゃあ、さっきの気配は一体…」
佐藤は不思議に思いながらも気のせいだと判断して再び正面を向く。
その時、佐藤の目に信じられない光景が映った。
何と正面を向いた佐藤の目の前に髪が長くて両目がない女性が立っていたのだ。
それを見てあの女性だと分かるのに一分も掛からなかった。
佐藤「まずい、逃げないと…」
そう思って逃げようとしたが、夢の時と同様に体は動かなかった。
女性は佐藤が動けないのをいいことに徐々に接近してくる。
佐藤「くっ、こんな時に数珠があれば…」
佐藤は動けない状態で数珠がないことを悔やんだが、どうにもならなかった。
そして女性は遂に佐藤の目の前に立ちはだかる。
佐藤「今度こそ駄目だ…」
そう思って観念する佐藤。
女性は両手を伸ばして佐藤の両目に触れる。
そしてそのまま目を取ろうと手に力を入れて来たので佐藤の両目に痛みが走る。
絶体絶命のピンチに陥った佐藤だがその時…
川田「佐藤。おい、佐藤。」
突然川田の声がして佐藤は目を覚ます。
どうやら今のも夢だった様だ。
佐藤がそれに安堵しながら横を向くと自由行動から帰ってきた池田達がいた。
川田「一体どうしたんだよ?」
そこで佐藤は二人に今の体験を話した。
佐藤「……という訳なんだ。」
佐藤が一通り話すと二人共あんぐりと口を開けていた。
池田「マジで体験したのかよ!?」
佐藤「ああ、夢だけどリアルだったぜ。」
そう話す佐藤の体は微かに震えていた。
川田「どうする?これ、使うか?」
そう言いながら川田が数珠を返してきた。
佐藤「ああ、ありがとう。よし、霊視してみるか。」
数珠を受け取ると佐藤は早速霊視を開始した。
佐藤「……うーん、どうやらあの女性はもうここにはいないようだな。」
佐藤はそう言って霊視を中断した。
川田「あのお札に封印されていたのはやっぱり佐藤が夢で見た女なのか?」
佐藤「ああ、それは間違いない。あの女性の気配がまだ残像としてあのお札に残ってるから。」
池田「一体どこに行ったんだ?」
池田が一番気になっていた事を聞いてきた。
佐藤「残念ながらそれは分からないな。結局声も分からなかったから俺に助けを求めてきたのと同じ奴なのかも分からないし。」
佐藤はそう言うとため息を吐いた。
それからしばらくして入浴の時間になったので、佐藤達は準備をしてから浴場に向かう。
《浴場》
佐藤「それにしてもあの女性が本当に俺に助けを求めていたのか?確かにあの助けを求める声の主はあのお札で封印されているって言ってたけど…でも、そうすると一体どこに行ったんだ?それにどうしてお札に穴が…」
佐藤が湯船に浸かりながら色々な事を考えていると不意に頭の中に声が聞こえてきた。
?「いくら待ってもあなたが助けてくれなかったから、私はなんとか自力で封印から解放されたわ。」
佐藤「!その声…お前はあのお札で封印されていた女だな!そしてお前は二十年前に殺害された…」
?「そうよ。私は二十年前に殺害された被害者の中原真理子(なかはらまりこ)よ。ようやくそこまでたどり着いた様ね。」
声の主がやはりお札で封印されていたあの両目がない女性だと言うことがはっきりしたが、まだ佐藤には疑問が残っていた。
佐藤「じゃあ、聞こう。中原さん、あなたは何故封印されていたんですか?」
佐藤が一番疑問に思っていた事を聞いた。
すると中原真理子はこう話始めた。
中原「私はこのホテルが建てられた十五年前から今回の様に助けを求めていたわ。でも、私はいつも宿泊客に怖がられるだけ…私はただ、助けてほしかっただけなのに。それなのに誰もそれに気付いてはくれず、皆気味悪がるだけだったわ。そしてホテルの人は五年前、遂に私を営業の為にあのお札で封印したのよ!!」
そう言って中原はシクシクと泣いていた。
佐藤には彼女の声しか聞こえなかったが、彼女からは怒りや憎しみよりも悲しみの気持ちが強く感じ取れていた。
佐藤「成る程、そういう事だったんですか。」
佐藤は納得すると次の質問をしようとしたが、そこで先生に早く上がれと言われてやむ無く浴場を後にする。
風呂から上がった佐藤は一人で部屋に戻ると再び彼女との対話を始めた。
《佐藤達の部屋》
佐藤「遅くなってすいません。では、今度は別の質問をします。あなたはどうやってあの封印から解放されたんですか?あのお札には穴が空いていましたが、あれは一体…」
佐藤がそこまで言うと中原は答え始めた。
中原「私はずっと出たいと強く願っていたわ。そしたら何故か知らないけど、あのお札の封印から解放されたのよ。あの穴は私が出る時に空いたけど。」
佐藤はそう聞いて恐らく彼女の祈りが通じたんだろうと推測した。
佐藤「今、あなたは何を望みますか?」
佐藤がそう聞くと中原は佐藤の思いもしない事を言ってきた。
中原「そうね…あなたの両目が欲しいわ。」
佐藤「えっ!?」
佐藤は中原が言ったことに驚いてしまって唖然としていた。
中原「私の望みを叶えてくれるんでしょ?だったら私に早くあなたの目を頂戴。」
佐藤「中原さん、落ち着いてください。いくら何でもそれはできません、僕に出来るのはあなたを成仏させてあげる事だけです。ですから成仏を…」
中原「嫌よ、私は目がほしいの。だから早く…」
中原は佐藤の意見を否定して一方的に佐藤の両目を欲しがる様にすがってきた。
佐藤は説得するのは難しいと思って数珠を出す。
佐藤「言うことを聞かないならあなたを再びどこかへ封印しますよ!」
佐藤が強くそう言うと中原はそれを拒み、気配を消してどこかへ行ってしまった。
佐藤は助かったと思ったが、今後彼女はどうするのか少々気になっていた。
《食堂》
先程の部屋での一件から数分後、佐藤は夕食の時間になったので食堂に来ていた。するとそこには既に池田と川田が来て座っていた。
川田「遅かったけど何かあったのか?」
佐藤「大丈夫、何でもないよ。」
佐藤はうまくごまかしたつもりだったが二人には見え見えだった。
池田「それでごまかしたつもりか?何かあったぐらいは俺らにも分かるぜ、佐藤?」
佐藤「うっ…」
佐藤は仕方ないと思ったが、話すのは食後に部屋へ戻ってからだと二人に言ってその場を終わらせる。
池田「それにしても腹減ったぜ、早く食いてぇ。」
川田「ほんとだな。」
二人が話しているとやがて全員揃ったようであり、夕食が始まった。
それが終わると佐藤達は満腹状態で部屋に戻った。
そしてしばらく休んでから佐藤は二人に先程の一件を話した。
池田「そうか、そんなことが…」
池田は佐藤の話を聞くとしんみりとしていた。怖いと言うよりも悲しいと感じていたのであろう。
川田「でも佐藤、本当に大丈夫なのか?その女、またお前の目を取りに来るんじゃ…」
川田は池田と違って怖がりながら佐藤に聞いてきた。
佐藤「そうかもしれないけど、俺なら大丈夫だよ。この数珠があるから。」
そう言って佐藤はニッコリするが、内心は不安であった。
やがて就寝時間になったので、佐藤達は寝る準備をしてから床につく。
佐藤「取り合えず数珠を用意しとくか。」
数珠を持って眠りに落ちる佐藤。
しかし、その夜は何事もないまま朝を迎える。
《翌朝》
この日も晴天で日光が部屋の中を照らしていた。
佐藤「結局夢にも出なかったから大丈夫かな?」
そう思いながら着替える佐藤。
川田「なあ、佐藤。」
後ろから声を掛けられて振り向くと川田が立っていた。
佐藤「おはよう。どうした?」
佐藤が挨拶して尋ねるが、川田は元気がない様だった。
佐藤「どうしたんだよ?」
佐藤が強めに聞くとようやく川田は口を開いた。
川田「助けてくれよ…」
佐藤「えっ?」
川田「俺、このままじゃ死ぬかも…」
佐藤は川田の言った衝撃的な発言に驚いてしまった。
佐藤がどういうことか詳しく話せと言うと川田は座ってこう言った。
川田「昨夜、俺の夢の中に佐藤が言ってたあの女が現れてこう言ったんだよ。『佐藤が両目をくれないから俺を連れて行く』って。」
佐藤「………ほんとか?」
佐藤は川田が話した事に驚いていた。
川田「頼むよ、助けてくれよ…」
佐藤「分かった、何とかしよう。」
そう言ってこの場を終わらせるが、佐藤は正直どうすればいいのか分からなかった。
佐藤「弱った…どうすればいいんだ?ここはやっぱり彼女を成仏させるか?でも昨日の感じからして恐らくまた拒むだろうからな…除霊で彼女を封印するのも忍びないし。 」
佐藤は正に八方塞がりという状況の為に為す術がなかった。
その後の朝食時にも考えていた佐藤だが、やはり何もいい考えは浮かばなかった。
佐藤「とにかく川田を守らないと…いつ、どうやって連れて行くのかは分からないけど守るしかない。 」
佐藤はそう硬く心に誓った。
ちなみに今日は北海道の牧場を一日見学するという予定であり、朝食後に佐藤達は早速バスに乗って牧場を訪れた。内容は主に牛の乳しぼりやバター作り、それに牛や馬とのふれあいである。
川田「俺、乳しぼりもバター作りも初めてだから超楽しみだよ!」
川田は牧場に着くなりハイテンションだった。それは池田も同様であり、着く前からかなりワクワクしていた。
だが、そんな二人と違って佐藤だけは暗い感じだった。無理もない、佐藤には川田を守るという使命があるからだ。それもいつ、どこからどうやって川田を連れて行くのかも分からない相手からだ。
佐藤「せめてあいつがどんな方法で川田を連れて行くのかさえ分かればな…」
佐藤は頭を抱え込んでいたが、何も考えは浮かばなかった。
その後に牧場へ入り、佐藤達は早速最初にバター作りを始めた。バターを作るのを生徒達は楽しんでいたが、佐藤は周りを注意深く見渡していた。
佐藤「奴が本当に川田を連れて行くならやっぱり今みたいに俺や川田の注意が逸れている時だろうな。」
そう思いながら見渡していたが、結局中原の霊が現れないままバター作りは無事に終了した。
佐藤「取り合えず今は大丈夫そうだな。」
佐藤は無事を確認すると一安心した。だが、やはり油断は出来なかった。何故なら油断すればたちまち中原が現れる気がしてならなかったからだ。
佐藤「次は乳しぼりか…ここもよく警戒しておくとしよう。」
その後佐藤達はバター作りの次にやる予定だった牛の乳しぼりをするために移動した。
それからしばらくして牛の乳しぼりを体験出来る所に着くと係員による乳しぼりの説明が行われた。
係員「乳しぼりで注意するのは…」
係員が説明している中、佐藤は霊感を用いてりを警戒していた。
佐藤「これで奴が現れたら直ぐに分かる筈だ。さあ、来れるものなら来てみろ!」来たらこの数珠で追い払ってやる!
だが、中原の霊は現れなかった。川田にも何の異常も見られない。
佐藤「おかしいなぁ…」
佐藤は中原の霊が現れないのを不思議に思っていたが、気配を消して近くにいるかもしれないと思いながら周りに集中していた。
その後ようやく乳しぼり体験が行われて佐藤達の班にも乳しぼり体験の番が回ってきた。
佐藤「順番は最初が川田で次が池田、そして最後が俺か。」
順番を確認しながら考えていた佐藤だが、一つ困った事があった。
それは佐藤が乳しぼりを行っている時に川田がノーガード状態になってしまう事だ。もしも中原がその隙を突いてきたら厄介である。
佐藤「弱ったな、どうすれば…」
佐藤がふと前を見ると川田が座っていて、池田が乳しぼりをやっていた。どうやら佐藤が考えている間に川田が乳しぼりを終え、次の池田に回ったらしい。そしてその次は佐藤の番であるので心配していた時がいよいよやって来てしまった訳だ。
佐藤「まずい、直ぐに池田が終わって次の俺に回る。こうなったら…」
悩んだ末、佐藤は川田に自分の数珠を持たせた。勿論誰にも気づかれない様に。
佐藤「いいか川田、この数珠をしっかり握って持ってろよ。俺が乳しぼりを終えてこっちに戻るまでは絶対に手離すなよ、いいな?」
川田はコクリと頷き、手渡された数珠をしっかり握りしめた。
係員「では次の人!」
乳しぼりを終えた池田が戻ってきたので佐藤は立ち上がり、牛の所まで近づいて乳しぼりを始める。やがてそれも終わると佐藤は直ぐに川田の所に向かった。
佐藤「何か変わったことはなかったか?」
川田「ああ、何もなかったよ。」
それを聞いて安心した佐藤はそっと川田から数珠を返してもらう。
それから三十分後に佐藤達のクラスの生徒達全員が乳しぼりを終えた所で昼食の時間になったので、予定通りBBQをすることになった。
川田「ああ、腹減った。」
池田「BBQか…楽しみだな!」
佐藤「そうだな。」
佐藤達は早速BBQの準備にかかり、肉や野菜を焼き始めた。
肉も野菜もいい焼き加減で美味しそうな匂いが漂っていた。
川田「もういいんじゃないか?食おうぜ!」
そう言うと川田は焼けた肉にかぶりつく。
池田「ずるいぞ!よし、俺も!」
池田も川田と同じく肉にかぶりつく。
佐藤「この肉、結構うまいな。よく焼けてるし。」
佐藤も上機嫌で肉を食べていた。
そんなこんなでBBQは楽しく進み、それから一時間程でそれも終了した。
川田「ああ、食った。美味かったな!」
池田「ああ、さすが牧場の肉だけあって結構イケてたな!」
二人は上機嫌で話していたが、佐藤はまた周りを警戒していた。
佐藤「いつ現れるか分からないとなるとやっぱり油断出来ないな。」
中原の霊は未だに現れていなかった。
佐藤「今からしばらくの間は自由行動だし…よし、霊視で探してみるか。」
佐藤は川田達と共に人気がない所に行き、そこで数珠を出して霊視を行った。
佐藤「……!いた。ここは…」
川田「どうしたんだ?」
川田が心配して尋ねると佐藤は突然霊視を止めて立ち上がった。
佐藤「川田!逃げろ!!」
川田はその言葉を聞くや否や駆け出していった。その後を池田もついていく。
一方で残った佐藤は数珠を持って襲ってきた中原の霊と対峙していた。
佐藤「とうとう現れたな、中原真理子!」
中原「くっ、あともう少しで連れていけたのに…」
中原は鬼の様な形相をしながら佐藤に襲いかかるが、佐藤は数珠で金縛りをかけて動きを封じる。
佐藤「最後のチャンスだ、成仏を望むならその手助けをしてやる。それが嫌ならどこかに封じ込めるぞ!」
佐藤が金縛りをかけながら言うと中原は渋々成仏を受け入れた。
中原「分かったわ、成仏させて。でも封じ込めるのだけは…」
佐藤「よし、それじゃあ道を示そう。」
佐藤が数珠を持ったまま手を合わせると光が現れた。中原はそれ目掛けて上がっていった。
中原「ありがとう。」
佐藤「ふぅ、ようやく終わったか。」
浄霊を終えた佐藤は力が抜けて座り込んだ。
佐藤「疲れた…ここまで疲れたのは初めてだ。」
それからしばらく佐藤は動けなかったが、池田と川田がやって来るとようやく体を動かす事が出来た。
その後佐藤は川田達に中原真理子を成仏させたことを話した。それを聞き、川田は安堵の表情をしていた。
そして安心した佐藤達は自由時間を利用して牧場の至る所を回ることにした。
ソフトクリームを食べたり馬や牛とふれあったりして佐藤達は大いに楽しんだ。そう、先程までの出来事を忘れるように。
ー翌日、修学旅行最後の日。ー
この日は飛行機に乗って帰るだけなので佐藤達は荷物を纏めるとホテルを後にした。
川田「色々あったけど、楽しかったな。」
池田「ああ、ちょっと早かったけどな。」
佐藤「そうだな。」
こうして佐藤達は修学旅行を終え、東京に帰る飛行機に乗った。佐藤はまたあの声が聞こえる事が無いことを祈りながら眠りにつく。
作者おにいやん
遅くなりすぎてしまって申し訳ありませんでした。今回は佐藤渉が中学三年の頃の修学旅行の時に体験した話です。
長い上に駄文が多かったでしょうが読んでくださりありがとうございました。