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music:4
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丸山は大きな屋敷の前に立っていた。
空を見上げる。
雲ひとつ無い空間を、赤黒い闇が覆っていた。
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「.....ここは....?」
頭がボーっとする.....。
周辺の村の屋敷や風景が、どこか新しい。
どうやら、また夢の「赤忌村」へ来てしまったようだ。
だが、現実で意識を失う前後がイマイチ思い出せない。
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「確か.....俺は現実で宮坂家にあった祠の封印を解いていたはずだが.....?」
ボンヤリとする記憶は、どう頑張っても思い出すことは出来なかった。
それよりも、夢の中にいる以上何かしらのヒントを得る必要がある。
......そして、同時に死ぬことも許されない。
丸山は、残された四つの封印の祠を捜索することにした。
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(一つ目は森、二つ目は宮坂家にあった。
.....とすると、もしかしたら残りも何処かの屋敷にあるのかもしれない。)
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そう思った丸山は、一先ず周辺の屋敷を探してみることにした。
すると、各屋敷には必ず一つの赤い祠があることが分かった。
その中でも、封印のお札が貼られている祠が二箇所ある。
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恐らく、そこが残りの封印の祠で間違い無さそうだ。
だが、あと二つは......?
もしかしたら森の祠同様、屋敷周辺以外にもあるのかもしれない。
丸山は、更に周辺を探してみることにした。
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music:2
村は、生い茂る不気味な木々に囲まれた場所にある。
直径約500m程の範囲に、15棟程の屋敷が建てられていた。
どの屋敷も古く、木造で平屋であったが、全ての屋敷の玄関には赤い注連縄や紙垂が掲げられていた。
神山の話にもあったが、村全体が「赤神」の封印に携わっているのだろう。
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その中でも、実際に儀式を行うのが「姪黒家」の人間だと言っていたが.....。
丸山は、村を捜索していて気づいたことがあった。
封印の祠のある屋敷の表札が、どれも「姪黒」であることに.....。
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(......なるほどな、実際に封印を守っているのは姪黒家の人間というわけか。
宮坂勇樹も、姪黒家の親族だと言っていたしな。
それで、宮坂家にも封印の祠があるわけか......。)
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そして、丸山は一つの疑問に気づいた。
唯一、あの本家と思われる「儀式を行った屋敷」にのみ、封印の祠が無いのだ。
屋敷の周辺を何度も確認したが、見当たらない。
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「どういうことだ.....?」
ここまで捜索して、見落としている筈は無い。
そうなると、考えられることは一つしか無かった。
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「屋敷の......中か....!?」
丸山は、本家であろう一番大きな屋敷へ走った。
実際、もうだいぶ時間が経っているように感じる。
また現実へ引き戻される前に、あと一つは確認したいのだが.....。
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shake
バンッ!!!
丸山は本家の屋敷の引き戸を開け、中に入った。
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(どこだ.....?
どこかに、きっと祠のようなものがある筈だ。)
......ところが、どれだけ探してもそれらしいものが見当たらない。
広い屋敷とはいえ、屋敷内の隅々まで探すのにそう時間はかからない。
ましてや祠のような、見れば一発で分かるようなものを見落とすことなど、絶対にあり得ないだろう。
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「......くそっ。
.....どこにも見当たらねぇ。」
最後に、丸山はもう一度「儀式部屋」を探してみることにした。
ここに手がかりが無ければ、諦めるつもりだった。
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スー......
部屋の襖を開ける。
狭い空間に、何十本と置かれた赤い蝋燭。
中央には「生贄」となる者を寝かせるための台のようなものが置いてあった。
いつ見ても現実味の湧かない、不気味な空間だ。
ゴト.....
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「........ん?」
不意に、台の近くにある蝋燭の一本が倒れた。
特に揺らしたわけでも、ぶつかったわけでもない。
ただ自然に倒れたのだ。
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妙に感じたが、立っていたバランスがたまたま悪く、自然に倒れることはあり得ないことではない。
この蝋燭も、それだったのだろう。
そう思い、丸山は蝋燭を拾おうとした......その時だ。
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「....っ...!?」
丸山の手に、微かに当たる風。
当然、窓が開いているわけではない。
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(なんで.....風が....?)
風を辿って行く。
すると、風は台の方から流れていることが分かった。
台の下の方から、僅かに感じる程度の風が出ているのだ。
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「ま.....さか.....?」
丸山は慌てて台をどかした。
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shake
「!!!!!!!」
......階段だ。
そこには、地下へ通ずるであろう階段が姿を現したのだ。
階段は人一人がやっと入れるくらいのスペースしかなく、一切の光を拒否しているかの如く真っ暗だった。
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(......この先に...祠があるのか?)
丸山は、懐中電灯を持っていない。
とてもじゃないが肉眼で行けるような明るさでは無く、手探りで行く程の危険は犯せない。
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(ど、どうする......。
念のため中を確認したいが....
どこかに明かりになるようなものあったか.....?)
そんな事を考えていたのも束の間、丸山の足元に蝋燭が転がっているのが目に入った。
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「はは....!
あるじゃねーか、こんな所に....!」
スーツの胸ポケットからライターを取り出し、一本の蝋燭に火を灯した。
だが、赤い蝋燭なだけに余計に不気味さを増している。
それでも、この仄暗い闇の階段を降りる他に丸山に残された道は無かった。
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ごくっ.....
なかなか一歩が踏み出せない。
夢の中でも死ぬ可能性がある上、頼りになる前田もここにはいない。
......たった一人でも、行くしか無いのだ。
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頼りない蝋燭を階段へ向ける。
ボォっと照らされる地下への階段は、10段程降りた先で右にカーブしているように見える。
どうやら、L字の階段のようだ。
入口自体、一畳程のスペースしかない。
上から見ると、まるで何かの口のようにも見える。
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「......くそっ!
ダメだ、頭がマイナスにしか働かない。
......行くっきゃねぇーんだ!
覚悟を決めろ、俺!!」
丸山はピシッと片手で自分の左頬を叩き、カッと目を見開いた。
......そして、大きく開いた地下への階段へ進んだのだったーー。
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ギシ.....
ギシ.......
木製の階段は、一歩降りる度に軋む音が響いた。
横幅は肩幅よりせいぜい10cm程しかなく、実際に降りてみるとかなり窮屈に感じる。
一歩ずつ降りる程、埃っぽい木の臭いが鼻をついた。
もうすぐ中間のカーブへ差し掛かろうという時だった。
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sound:18
「!!!!!!?」
急にズンと重くなる空気。
皮膚に直接まとわりつくような、ネットリとした凶悪な「霊気」。
一瞬にして丸山の全身に悪寒が走る。
ひた...
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shake
「......っ....!?」
ひた......
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.....足音だ。
下の方から、一歩ずつゆっくりと誰かが上がってくる。
いや、誰かではない。
この身の毛もよだつ感覚....。
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(あの......「少女」だ.....!)
ひた.........
徐々に近づく不気味な足音。
それに伴い、空気が段々と重くなっていくのがわかる。
肺がうまく酸素を取り入れることが出来ない。
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ひた...............
足音が、すぐそこまで上がってきた。
(マズイ....!)
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丸山はすぐさま引き返すため、振り返ろうとした。
.....が、身体が動かない。
ガタガタと全身が震え、蝋燭の明かりが揺れる。
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ドクドクドクドク...
心臓が尋常じゃないほど高鳴る。
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(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ......!!)
焦りが頂点へ達した。
更に金縛りは全身に及び、視線や瞼すらも動かすことが出来ない。
ひた..................
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shake
「!!!!!!」
蝋燭の灯りに照らされて、少女が階段の先から顔を出した。
ニタァと微笑みながら、此方を確認するように見ている。
そして目線は此方へ向けたまま、また一歩、また一歩と丸山へ近づいてくる......。
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フッ......
丸山の震えと地下からの風に煽られ、蝋燭の明かりが消えた。
不意に広がる漆黒の闇。
だが「アレ」はまだ目の前にいるのが、五感の全てで分かる。
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ひた............................
丸山は咄嗟に目をギュッと瞑った。
実際、目を瞑った所で意味はない。
開いていても、何も見えないのだから。
それでも、何があってもこれ以上少女を見たくないという気持ちがあった。
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シーンと奇妙な静けさが空間包む。
......そして丸山の耳元で、少女のおぞましい程の低く冷たい声がした。
「か.....え..れ.....!」
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shake
(!!!!!!)
そして次の瞬間、グラァっと脳みそが揺さぶられるような感覚が襲う。
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「ぐぁっ......!?」
.....気づくと、手足が抑えつけられる感覚。
耳には老婆のお経のような声が聞こえた。
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......まただ。
またあの儀式のシーンだ.....!!
目を開けると、老婆が小太刀を振り上げていた。
そして、それを丸山の喉へめがけ勢いよく振り下ろす。
刃先が丸山の喉に触れた刹那ーー。
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「......はっ!!!?」
「あっ!!
....ま、丸山さんっ!!」
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神山の声だ。
起き上がると、神山が涙目で此方を見ている。
その奥で、煙草を吹かしている前田がいた。
前田は丸山を横目に見ると、へっ....と微笑むようにホッとした表情を見せた。
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「あぁ、丸山さんっ....!
良かった....あのまま目覚めないんじゃないかと心配しましたよ....。」
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shake
「.......つっ....!?」
立ち上がろうとした瞬間、右腕に痛みが走った。
見ると、腕にはくっきりと「少女」の掴んだ手の跡が赤黒い痣となって残っている。
ジリジリと痣が痛むのと同時に、丸山はようやく意識を失う直前の事を思い出した。
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「そっか.....俺、少女に襲われて気を失ってたんだな....。
心配かけて悪かった。
俺、どれだけ眠ってた?」
丸山が尋ねると、前田がゆっくりと近づいてきて丸山の頭をガシッと掴んだ。
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「馬鹿野郎、五時間は眠ってたぞ。
.....かといってお前放置して俺たちだけで捜索はできねぇし、一人ずつなんて危険なマネもできねぇからよ。
まぁ、どちらにせよオッサンが頼りねぇから無理だけどな。」
それを聞いた瞬間、丸山にフツフツと焦りの表情が浮かびだした。
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(ご.....五時間...だって....?
そ、そんなに眠ってしまったのか....!?)
「い、今何時だ!!?」
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慌てて丸山が尋ねた。
すると、うすら笑いを浮かべていた前田がスッと真顔になり、ボソッと言った。
「.......一時だ。」
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ドクン.....
丸山の心臓が大きく脈を打った。
毛穴が広がっていくのが分かる。
焦りと不安がひしめき合い、視界が泳ぐように定まらない。
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(一時....。
ってことは、日を...またいだってことか....?)
その事実が意味すること。
そう、全ての作業を終わらせなくてはならない最終日に入ったということだ。
どんなことがあろうとも今日中に、封印を解き少女の身体を集め、成仏させる必要がある。
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丸山は、こんなにも長い時間気を失っていた自分をぶん殴りたい衝動にかられた。
しかし、少なくとも無駄ではない。
丸山は、二人に夢で見た全てを口早に説明したのだったーー。
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2009年6月14日(日)
「......よし、祠の位置を少しでも知れたのはデカイ。
時間がねぇからな、早く探すぞ。」
一通り説明が終わると、前田が急かすように立ち上がった。
そして、三人は祠のあった南側の屋敷へと歩き始めた。
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「み、宮坂さんの....
丸山さんに言った「帰れ」っていうのは....
どういうことなんでしょう?」
屋敷へ向かっている途中、ふと神山が二人へ尋ねた。
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「あぁ、そいつぁ恐らくあのガキの言葉で間違いねぇだろうな。
赤神に操られていない、本音だ。
まぁ意味はそのまんまだろうなぁ...。
「封印を解くな、このまま帰れ」って言いてぇんだろ?」
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前田が神山の方を向かずに、少しめんどくさそうに答えた。
当然、丸山も前田と同じ意見だ。
もし、あの「探せ」の言葉が赤神の意志だとするなら、少女としては今丸山達の行動を見逃すわけにはいかないだろう。
それでも、従うしかない。
封印を解かなかった先に待つのは、「確実なる死」なのだから。
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「......あそこだ!
あの屋敷の裏に、封印の祠がある。」
丸山は、一棟の屋敷を指さした。
屋敷は宮坂家と同じくらいの大きさだろうか。
古びた玄関の片隅には、夢で見たものと同様の「姪黒」の表札が、傾いた状態で掛けられていた。
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(....そういえば.....。)
......ふとその時、丸山は右腕に残る痣を見て思った。
今まで、幾度となく現れた「少女」。
それでも、一度だって丸山に「触れた」ことなどあっただろうか。
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.......あの時、何がいつもと違っていた?
答えは簡単だ。
そう、あの時丸山は封印を一つ解いたのだ。
そして、解いた直後に「少女」は現れた。
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(やはり.....。
封印を解く毎に霊力が高まっているのか....!)
今まで一つの封印しか解いていなかった。
だから、少女は姿を見せることしか出来なかった。
だが、丸山が二つ目の封印を解いた。
そして、丸山に触れることが出来る様になった.....。
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(もしそうなら.....。
またこの屋敷の封印を解けば、更に強い霊気で襲ってくるかもしれない.....。
今度は、触れられるだけでは済まないんじゃないだろうか....?)
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丸山の額から汗が垂れる。
考えれば考える程、嫌な予感は増していった。
目の前に近づく三つ目の封印の祠を前に、丸山は不気味に残る「赤黒い痣」を見ながら、小さく震えていたのだったーー。
続く
作者鳴終魏-NAOKI-
このお話は、以前投稿させていただきました、
「赤い村-捜索-」
の続編となります。
日々、皆様の暖かいご声援に感謝いたしております。
お時間が許す限り、どうか一読願えれば嬉しいです^_^
誤字脱字、矛盾等ございましたら、遠慮なくご指摘下さいませ。
宜しくお願い致します。