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music:4
ーー目の前には、三つ目の封印の祠がある。
無意識に周りをキョロキョロする神山。
両手はしっかりと前田の腕を掴んでいる。
丸山は前田とアイコンタクトを取りながら、祠の戸へ手を伸ばした。
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shake
「.......あっっ!!!」
ビクッとなる丸山と前田の身体。
急に神山が大声を出したのだ。
当然それを前田が許すはずも無く、神山が叫んでから三秒もしない間に神山の頭を引っ叩いた。
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「おい、オッサン!
いきなり大声出すんじゃねぇよ!!」
丸山はビックリした拍子に肩が上がってしまったまま、二人のコントのような様子を固まって見ていた。
座り込んで痛そうに頭を抑えていた神山は、ゆっくりと立ち上がり持っていた「古文書」を取り出した。
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「す、すいません.....。
いえ、実はこの古文書にお札について書かれたページがあったのを思い出したんです。
確か、封印のお札についてと魔除けのお札についての説明があったかと......。」
それを聞いた前田の表情は徐々に歪み、また先程より強烈な一発が神山の脳天へお見舞いされた。
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「.....なんでそれをもっと早く言わねぇんだよ!!!
信じらんねぇグズ野郎だな、もうボケてんのか!?」
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散々な程に罵られた神山は、ガックリと肩を落として俯いてしまった。
半ばひったくるように神山から古文書を奪った前田は、お札のページを開いた。
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そこには、見本となるお札の図が書かれていた。
そして、そこにあった封印のお札の図は、確かに祠に貼ってあるものと同類の物だったのだ。
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「......成る程なぁ。
この祠に貼ってあんのが要するに封印専門のお札ってわけか。
んで、こっちのお札の図が魔除け....ね。」
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「なぁ、前田。
この封印の祠を解除する前に、魔除けのお札を作って持っていた方がいいんじゃないか?
もしかしたら、身を守ってくれるかもしれない。」
丸山がそう言うと、前田が古文書のページに書いてある文字を翻訳した。
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「あぁ、魔除けの札は持っていて損はねぇだろうな。
でも、ここにこう書いてあんだよ。
魔除けの効力はある程度の霊力にしか働かない。
魔除けの札の効力以上の霊力には、儀式を用いて鎮める必要がある.....
ってな。
恐らく、こいつが有効なのも最初のうちだけ....ってことなのかもな。」
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前田はそこまで言うと、背負っていたバックからノートとペンを取り出した。
そして、古文書に書かれた魔除けのお札を再現しながらノートに描き、二人へ差し出した。
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「簡易的ではあるが、こんなノートのものでも効力があるかもしれねぇからな。
......一応持っとけ。」
前田は書き終えたノートをバックへしまい、座り込んでいる神山の肩を掴んで起こし、睨みつけて言った。
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「さぁ、おじさま?
もう言い忘れたことはございませんよねぇ?
次大切な事を言ってなかったら、一番に死ぬのは貴方かもしれませんわよ....?」
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真顔で睨みながら言ったその言葉は、正直丸山ですら恐怖を感じてしまった。
当然、気持ち悪さが圧倒的なのだが、前田が言うことで冗談には到底聞こえないのだ。
ましてや昨日会ったばかりの神山には効果は絶大だったようで、神山は焦るように首をブンブンと縦に振った。
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「へっ......。
.....じゃあ頼むよ、丸ちゃん。」
「あ...あぁ。」
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丸山はもらったお札を握りしめ、慎重に祠の封印を解いた。
そして、中から少女の一部が納められた木箱を取り出す。
中には生々しくウジの湧いた足首が、腐臭を放って納められていた。
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「.....み....右足だ.....!!」
......これで、少女のバラバラになった身体のうち半分を回収したことになる。
同時に、少女の霊力が増したことを意味するが.....。
丸山と神山はキョロキョロと周りを見回しながら、「少女」がいないことを確認した。
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(と、とりあえず大丈夫みたいだな.....。)
どうやら少女の姿は無い。
だがこの時、お互いに確認は取らなかったものの、三人には共通して感じた身体の異変があった。
かすかに「目眩」がする、と......。
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music:2
目の奥からジンワリと、止まない目眩が視界を歪ませる。
.....気のせいなのかもしれない。
三人は皆そう思った。
だからこそ、誰もそれについて言う者はいなかったのだ。
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行動に支障が出るわけではない。
少女が姿を現したわけでもない。
......そうして、三人は軽くフラつく頭を無視して先へ進んだ。
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ザッ.....
ザッ.........
.......足取りが重い。
徐々に三人には疲れが見え始めていた。
歩き始めた山道から今まで、実際かなりの距離を歩いている。
疲れが出るのは当然だった。
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「.....あそこがもう一つの封印の祠があった場所だ。」
丸山が、西側の少し小さな屋敷を指差した。
その横には、確かに小さな祠が見える。
三人は屋敷へ向かい、足を進めた。
......その時だった。
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(な....んだ......?)
......やはり、見える景色がどこかおかしい。
絶えず襲い来る目眩に、ここでようやくその「違和感」に気づいた。
......これは、気のせいなどではない。
異変を察した三人は、目眩で微かに歪む視界を細目で確認するように見た。
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shake
「!!!!!!!?」
(こ.....これは.....!?)
......そう、先程から感じていた目眩。
それは決して目眩などでは無かった。
村全ての「世界」そのものが歪んでいっているのだ。
草も、木も、屋敷も、微かではあるものの、ゆっくりとゆっくりと動いている。
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三人の常識ではあり得ない光景だった。
故に、三人はこれを「目眩」だと錯覚してしまったのだ。
そして一度意識してしまえば、何と不気味な光景だろうか.....。
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(...っ.....!
これは、封印の解除による影響なのか....!?)
まさに、異世界へ迷い込んだとでも言うのだろうか。
三人は、目の前の広がる異様な世界に唖然とした。
定まることのない視界のピントに、頭が徐々に酔い始める。
それでも、ここで立ち止まってなどいられない。
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「....おい、お前らもこの異常に気づいてんだよな.....?
ちっ、まるで船酔いみてぇだ。
.....勘弁しろよっ、あのクソガキ!!」
あからさまな苛立ちを見せる前田だったが、目頭を指でギュッと押し、自らの頬を軽く叩いて気合いを入れた。
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「おらっ、まだ半分だ。
とっととしねぇと、またあのクソガキが来ちまうかもしんねぇぞ?」
その言葉に、丸山と神山は少し焦ったように顔を歪め、足を急がせたのだったーー。
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三人は四つ目の祠がある屋敷へ到着した。
相変わらず視界がユラユラと僅かに揺れている。
段々と吐き気が襲ってくる感覚がある....。
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「......時間がない、解除するぞ。」
丸山は、急ぎながら祠の封印を解き、木箱を取り出した。
箱を開けると、左足首が納められている。
........そして、木箱を持ち去ろうとした瞬間だった。
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shake
「.......っっ......!!!?」
反射的に丸山と前田は後ろへ飛び退いた。
神山は立ち止まっている。
......いや、動けないと言うのが正しいだろう。
神山の後ろに、突如あの「少女」がピッタリとくっつくように現れたのだ。
そして、神山の様子がおかしい。
下を向いて俯いたまま、ピクリとも反応を示さない。
いつもの神山なら、自分の後ろに「少女」がいるというだけで失禁してもおかしくない状況にも関わらず....。
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「おいっ、オッサン!!」
前田が叫んだ瞬間、神山はゆっくりと二人へ顔をあげた。
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shake
「!!!!!!」
「神山.....さん.....?」
顔を向けた神山の顔は、とても正常とはかけ離れたものだった。
口は不気味に大きく開き、顔全体が青白い。
「生きている」人間の顔色ではない。
そして、目.....。
極限まで上につり上がった瞳のせいで、ほぼ白目というべきだろうか。
丸山はその時、あの儀式で見た「少女の首」を思い出した。
首が落ち、画面手前へ転がってきたあの時の恐ろしい「顔」とよく似ているからだ。
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(...まさ...か....?)
丸山が感づいたその時、夢で聞いたあのおぞましい程に低く冷たい声で神山が言葉を発した。
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「帰れ.....帰れ.......帰れ...........。」
それは、夢の時よりも狂気に満ちているように感じる。
丸山は、その声にゾクっと全身が凍りついた。
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(俺だって、出来ることなら帰りてぇんだよ!!)
心でそう叫んだ。
依然少女は神山の後ろでジッと動かない。
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「帰れ...帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ.....。」
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神山は狂ったように言い続ける。
暫くすると、少女はスーっと神山を離れ、後ろへ消えていった。
その消える間際、「少女」が薄っすらニタァと笑うのが見えた。
......ピタッと神山が静かになった。
......刹那。
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shake
バキッ!!!!
ゴキッボキッ!!!!!
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「....なっっ....!!!?」
神山の両手両足が、捻れるようにへし折れた。
骨が皮膚から突き破り、神山は崩れるようにその場に倒れた。
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「か、神山さんっっ!!!!」
「オッサン!!!!」
二人は神山の元へ駆けた。
無残に在らぬ方向へ折れ曲がった手足は、骨が皮膚を突き破った傷口から流れた血液により真っ赤に染まっていた。
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「......くそっ...たれがぁ!!!
ここまで出来るのか、あのガキ!!!
まだ解いた封印は四つだぞ!!?」
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前田が地面に拳を叩きつけながら怒鳴った。
実際、丸山も同じことを思った。
.......まだ四つ。
それでも、少女は神山の手足をへし折るくらいの霊力を取り戻しているということだ。
そして、「帰れ」の言葉の後に神山の手足をへし折った意味。
間違いなく、「帰らねば、こうなる」ということを意味しているのだろう。
いや、もしこのまま先へ進めば.....。
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(殺す....ってことか.....。)
「....ふざけんなっ!!!
俺に....俺にどうしろって言うんだよっ!!!!
大体、魔除けのお札なんて意味無かったじゃないかっ....!!」
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いや、実際にはそうではない。
丸山達は気づかなかったが、魔除けのお札は効いていた。
だから三つ目の解除では、村が歪む程度で済んだのだ。
それでも、四つ目ではお札は効力を発揮しなかった。
.....つまり、お札では到底除けられない程の霊力、というわけだ。
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「くそっ....くそっ....!!」
封印を解いていけば、確実に「少女」が殺しに来る。
それでも封印を解かねば.....!
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神山は気を失っている。
すると、前田が倒れていた神山を持ち上げ、背中に背負った。
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「.....行くぞ、丸山。」
「..っ...!?
で、でもっ....!」
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「.....いい加減腹くくれ。
お前の気持ちは分かってるよ。
俺ぁ死ぬなんて真っ平御免だが、例え俺がくたばっても、お前だけは必ず生かしてやる...!
....子供の為にも、な。」
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前田の言葉に、丸山は涙を流した。
だが、親友である前田を失うことだって必ず避けなくてはならない。
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「......わかった。
じゃあ俺は、お前を必ず助けてやる!!
....当然、「生きて」だ!!」
丸山の言葉に、前田は少し驚いた表情を見せ、へっ.....と照れ臭そうに笑った。
そして、微笑みながら背中に背負った神山を親指で指差した。
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「このオッサンも....な。」
「....あぁ、絶対にだ!!!」
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二人は、左の拳と拳を合わせ、必ず生きて帰ると誓った。
そして、五つ目の封印の祠へと足を進めるのだったーー。
続く
作者鳴終魏-NAOKI-
このお話は、以前投稿させていただきました、
「赤い村-足音-」
の続編となります。
日々、皆様の暖かいご声援に、心より感謝いたしております。
これから物語は終盤へと向かいます。
それにより、皆様のご期待に添える内容とは逸れてしまうかもしれません。
それでも、皆様の「怖い」時間を作りたいと願い書いていきます。
どうか、暖かく身守ってくださると助かります^_^
また、誤字脱字、矛盾などございましたら遠慮なくご指摘下さいませ。
宜しくお願い致します。