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中編5
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幽霊の存在 四

「幽霊の存在 三」の続きです。

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明るい日差しがカーテン越しに届く。

気づくと朝だった。

ベッドの上に寝ていた俺は朝の日差しで目が覚めた。

違和感に気づく

それと同時に夜中の惨劇を思い出した。

伸びる手、えぐり取られた右目、全身からの出血・・・

右目、体全体を触って確かめる。

ない・・・

どこも、異状が・・・

右目はあるし見える、何より全身も無傷だ。

床にもベッドにも血一滴も付いていない。

「ゆ、夢・・・だったのか?」

ー夢ー

その言葉で終わらすにはあまりにもリアルな夢だった。

痛み、苦しみも現実におきているかのような生々しい感覚・・・

思い出すだけで吐き気が襲う。

そして自分に再び問う

ー夢だったのか?ー

「ようやく起きたかい?」

先生が入って来た。

まだ時刻も六時前

巡回の時間にしては早すぎないか?

「いやあ昨夜は驚いたよ。ベッドから落ちたみたいなんだが・・・」

ベッド?落ちた?何言ってるんだ?

意味が・・・わからなかった。

なんだ?その出来事・・・全然記憶にないぞ・・・

「たまたま近くを通りかかった看護師がいてよかった」

看護師?俺は・・・?

記憶がごちゃこちゃになっている。

それとはお構いなしに先生の話は続く

気を失ったあと看護師が通りかかったのなら凄惨な俺の状態に気づき・・・

そこまで考えて、やめた。

もしかするとあの時と同じ・・・

「こわい夢でも見ていたようだね。もう一泊するといい。精神的に今日、即退院では無理だろう」

俺は力なく頷き、先生はにっこりと柔和な顔を浮かべ病室をあとにした。

ゆめ、ゆめ、だった、のか・・・よかっ

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「・・・夢じゃないよ」

!!!?

謎の声にあたりを見回す。

誰もいない・・・

そ、そらみみ、か?

「・・・ゴメンネ。私のせいで・・・」

これは・・・空耳じゃない・・・

声としては耳から聞こえるではなく脳に直接聞こえる。

そしてこの声・・・

・・・リナ・・・だったっけ?

「そうだよ、今あなたの右目に憑依して脳に直接話しかけているの」

憑依?ああ確かあの時、

じゃあ、昨夜のことは・・・やっぱり・・・

「うん・・・現実に起きたことだよ」

あの状態からどうやったら無傷な状態にできるのか・・・

そこはあえて触れないことにした。

リナが知っているとは限らないし、今このことは知らなくてもいいことだ。

「なんで?笑っているの?」

どうやら不思議と俺は笑っていたらしい。

理由?

説明する必要ないだろ?

そんなこと口にして説明したら今度は顔真っ赤になるに決まってるからな。

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死後の世界。

そう、誰もが死んだ時にいく場所だ。

実際には何層にも重なっていて審査、選別され天国か地獄に行く。

天国と決まったものは歓喜の声をあげ、地獄を宣告されたものは絶望し絶叫する。

「終わりましたよ、閻魔様」

死神はいかにもかったるそうな口調で、仕事中の閻魔を呼び止める。

閻魔の仕事は地獄行きが決まったものを生死帳をもとに、ふさわしい地獄に案内するというものだ。

最近では地獄行きのものも増え、前は楽しみながら決めていたらしいが今ではもう退屈で仕方ないらしい。

「どうも、どうも、ごくろ~さん~おいそこの見習い!客間に案内して上げろ」

そばにいた見習いにそう命じると業務に戻ってしまった。

閻魔の前には一人の初老の男性

彼は顔を絶望の色に染め上げ、閻魔からの審判を待っている。

彼はどのようなことをしてここに今いるのか、そんなことには興味ない。

当人はどのような地獄に落ちるのか恐怖しているがこちら側からすれば大した事ない。

重罪人もギリギリで地獄いきになったものも同じだ。

「こ、こちらへ!案内、します!」

話を急に振られたせいか妙にきょどっている。

いや、閻魔の、せい、か・・・

見習いに言われるままついていく。

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見習いに案内された客間は綺麗に片付けられていた。

応接室を思い浮かべてもらえば一番近い。

ソファーに腰掛けると見習いはペコッとお辞儀してその場をあとにした。

もうここには二、三回来たことあるが、やはりこの客間は慣れない

周りには本棚を埋め尽くす量の本があるだけ。

窓もなにもない、音も何一つ聞こえてこない。

そして一人。

何日かすれば発狂してしまいそうだ。

「おまた~ご苦労だったね~」

バンッと扉いきよいよく閻魔は入って来た。

かとおもうともう対面に行儀悪く座っている。

パチンッと指を鳴らすと紅茶にクッキーなどの茶菓子がテーブルの上を埋め尽くす。

見習いはこんな簡単なもてなしもできんのかというように呆れ顔だ。

こりゃあとで『おしおき』だな・・・

「見させてもらったよ~やっぱ甘いねぇ~」

お菓子をばくばくとほうばりながら閻魔はニタァと笑っていた。

いちいち突っ込んでもこの癖は昔から治ることはない。

同期の私の前だろうが、上司の前だろうが。

こんな閻魔でも一応は閻魔だ。

それなりのキャリア、実力もある。

しかしこの見てくれから、どうやって閻魔に昇格したのかはどう考えても分からない。

「同期のよしみだから、敬語は免除してあげる。誰もいないしね」

結局だしたお菓子を全て平らげてしまった。

もとより食べる気はさらさらなかったが。

「甘い・・・とは?」

「したまんま、見たまんまの感想だよ~

憑依させたまではいいんだけどぉ~」

再び指をパチンと鳴らす。

今度はケーキのホールが何十個と並べられた。

ショートケーキ、チーズケーキ、モンブラン、チョコレートケーキ・・・

どれも美味しそうだがやはり食べる気にはならない。

「あのあとあの子『憑依反応』で出血したじゃん?

そのまま出血多量で死ぬことを私はえがいていたのになぁ~」

デザートフォークでケーキをばくばくと食べながら死神をじっと見た。

「・・・ッッ!」

一瞬死神の息が止まった。

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ただ見た、それだけ、

それだけの事。

なにもしてはいない。

「助けてやるという方法にあいつは生かすが含まれていたはず!それを!」

バンッと机を叩き立ち上がる。

「知ったことか!そんなちゃちいこと!」

閻魔も食べるのをやめて怒鳴る。

それも一瞬だった。

剣幕の表情は崩れ、ニヤニヤと笑っている。

「それともなにか?契約書でも書いたのか?

あんな簡単な誘惑に負けるあいつが悪い。

事が重要なら手順を簡単に踏むんだ」

顔を死神の数センチ前まで近づかせ今度は無表情になる。

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「それが、

契約ってものだろう?」

なにも言えなかった。

いや、反論の余地はある、しかし

「まあでもそれで得したのも事実なんでしょ?特にあなたにとって」

閻魔の言葉に死神はぴくりと肩を動かす。

なんでもお見通し・・・か

閻魔は水晶を取り出し見つめる。

そこには病室で笑う少年の姿があった。

閻魔はニヤァと笑う。

「で、いくらほど使ったの?

死んではないにしろ死ぬほどの出血量からの処置、

おまけに片目の喪失からの代用の目、

十、二十くらいじゃないわよねぇ~」

・・・

・・・

・・・

沈黙が流れた。

閻魔は死神に答えさせようとしているらしい。

実に、

嫌なやつだ。

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少年は知らない。

知る由もないし、知ったところでどうしょうもないこと。

ただ一人の死んだ魂を助けるために少年の払った代償はあまりにも大きすぎた。

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