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music:2
丸山達三人は、村の西側に位置する「赤神トンネル」へと足を進ませた。
深く生い茂った木々をかき分けた先にトンネルはあった。
まるで、月日の経過により木々達が「そこ」への侵入を拒んでいるかのようだ....。
確かに、あの地図で場所を把握していなければ見つけることは困難だろう。
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「.....不気味....だな。」
丸山が当然の事を呟いた。
よく雑誌に、心霊スポットのトンネルの類は載っているが.....。
いざ、実際に殺されるかもしれない心境の中でこの「トンネル」はかなり気が引ける。
丸山は、なかなかトンネルへと入ることができなかった。
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「.....ウダウダしてらんねぇぞ、丸ちゃんよ。」
「あ.....あぁ、わかってる。」
前田に急かされ、丸山は四つ目の封印の祠が眠る「赤神トンネル」へと入っていくのだったーー。
*************
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music:7
sound:3
ピチャン.....
ピチャン...........
長い月日によって天井から浸み出した雨水が、水滴となって地面に水溜りを作っていた。
トンネル内には、水溜りへ落ちる水の音が響く。
深い闇、歪む視界、そして空気中に舞う埃のせいで、懐中電灯の明かりではかなり心細い。
先を照らすも、それら全ての障害により奥まで光が届かないのだ。
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「....くそっ。
視界が妙に悪りぃな。」
時折、前田がパシャンと水溜りに足を突っ込む音が聞こえる。
神山を背負っているせいで、余計に足場が安定しないのだ。
だが、非力な丸山は「交代しようか。」などとは言えず、終始申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
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「....へへっ。
こういう水溜りに足を突っ込むと、後日足が折れるとかってよく言うよな。」
前田が含み笑いを浮かべながら、ボソッと呟いた。
よくこの状況でそんなことが言えるものだ。
普通なら、なるべく怖い事を考えないようにするのが普通だろう。
当然、丸山はその言葉に多少なりとも恐怖を覚えたようで、余計に水溜りを避けながら歩いたのだった。
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.....2〜30mほど歩いただろうか。
トンネルが出口を迎え、その先にいくつも連なる黒ずんだ赤い鳥居が見えた。
その奥に、大きな祠が姿を現した。
祠の前には、怪し気に佇む「何か」を型取った石像のような物が置かれていた。
そして、その石像にはあの「封印のお札」が貼られている。
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「.....これ、赤神様....ってやつかな?」
丸山が、妙に嫌悪感を抱かせる石像を指差して言った。
石像は、パッと見はお地蔵様にも似たように見えたが、よく見ると表情がおぞましい。
目を見開き、薄ら笑いを浮かべているように見える。
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「.....とりあえず、お札取るぞ。」
丸山は、ビクビクしながら石像に貼られたお札を破いた。
....その時だ。
......ピシッ!
......ゴトッ
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shake
sound:18
「!!!!!!!?」
お札を破いた瞬間、石像の首に亀裂が走り、その場に首が落ちたのだ。
その何とも言えないおぞましさに、丸山は固まってしまった。
....だが、その様子を後ろで見ていた前田が、神山を背負いながら近づいてきた。
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「......けっ。
ったく気色の悪りぃもん置きやがって。
......どけっ!」
そう言うと、前田は首の無い石像を足で蹴飛ばした。
石像は後方へ転げ落ち、祠の支え技に激突して止まった。
流石に丸山も前田のこの度胸のありように引いてしまったが、同時に心強さのような、そんな安心感さえ感じてしまっていた。
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「恐らく、今この石像が置いてあった下に埋まってんだろ。
普通に考えりゃ、次は「胴体」だからな。
流石に祠の中にはぶち込めねぇだろ。」
そう言うと、前田は丸山の鞄に刺さっていた折りたたみ式のスコップを顎で差した。
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(.....掘れ...ってか。)
丸山は、スコップで祠の前を掘った。
10数センチ程スコップを刺した所で、固い何かに当たった。
周りの邪魔な土を退けていくと、茶色く湿った小さな木製の棺桶が姿を現した。
丸山は、精一杯の力で棺桶を土から出した。
棺桶の中央には、やはり封印のお札が貼られている。
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ごくっ.....
これを解除した瞬間から、封印は五つ解かれることになる。
そして、「少女」も霊力を相当取り戻すだろう。
そうなれば、果たして本当に生き残ることは出来るのだろうか....?
....丸山は、全身で震えた。
生きている心地がしない。
棺桶に貼られたお札が、まるで自分の命そのものにさえ感じてしまう。
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「.....おい、どうせやらなきゃいけねぇんだ。
さっさと終わらせて、ガッツリうめぇもんでも食いに行こうぜっ!!」
後ろで前田が励ました。
丸山は、震える手をギュッと握り、棺桶のお札に手を伸ばした。
....ビリッ......
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shake
「!!!!!!!」
破いた瞬間、三人をものすごい「霊気」が襲った。
同時に、先程より更に歪む視界。
鼓動が瞬時に高鳴った。
丸山は周りを見回したが、少女の姿は確認出来ない。
......だが、本能で分かる。
今、自分が避けられない「最悪の始まり」に足を踏み入れてしまったことを....!
....その時だ。
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shake
「うぁぁああぁあぁっっ!!!!」
sound:18
(...なっっ...!?)
前田に背負われていた神山が、正気を失ったように暴れ出した。
そして、前田の背中から落ちるようにして降りると、村の方へ走り出した。
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「.....おいっ、これはヤベェかもしんねぇぞ!!!
さっさとソイツ回収して、最後の封印を解きに行くぞ!!!」
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流石に前田も感づいたようだ。
この異常な圧迫感に。
この圧倒的なる絶望感に....!
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「で、でもどうやってこんなデカイ「胴体」運ぶんだよっ!?」
丸山が焦ってると、前田がポケットから丸まったゴミ袋を取り出し、丸山へ投げた。
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「とりあえず中身だけソイツに入れて、背負って来い!!!」
「う、嘘だろっ....!?」
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迫る恐怖。
そして同時に込み上げる焦り。
手が震えてうまく袋が開かない。
そのもどかしさが余計に丸山の精神を追い詰めていく。
どうにか開いた大きな袋に、ぐしゃぐしゃに腐敗した「胴体」を詰め込んだ。
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「うぉぇぇぇ...!」
その尋常ではない程の腐臭に、丸山は嘔吐した。
しばらく水しか口にしていない影響で、濃厚な胃酸が食道器官を焼くのが分かる。
そして、丸山は遺体を詰め込む際に恐ろしいものを目にしてしまった。
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shake
「....っっ.....!?」
.....それは、少女の「胴体」が先程まで詰められていた棺桶の蓋の裏。
そこには、まるで手首の無くなった腕を内側から押し付けたような跡が、茶色いシミとなって所々に付着していたのだ。
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(あ、あ、あり得ない....!!)
そう、この少女は儀式で首を落とされ、バラバラにされたはずだ。
そして完全に絶命してから発見され、それから封印のためにこの棺桶へ詰められた。
なのに、なんだこの跡は....?
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「....ま、まるで中で動いてたようじゃないか.....。
首も手足もない状態で.....!?」
丸山の足は大きく震え、どうにか手で支えて立っていられる程にすくんでしまっていた。
丸山は、バシッと力いっぱい自分の太ももを引っ叩いた。
そして、「胴体」を詰めた重たいゴミ袋を背負い、足を引きずりながらトンネルを抜けたのだったーー。
*************
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music:3
「ハァ....ハァ.......!」
二人は必死に「本家」の地下へ急いだ。
トンネルを抜けると、既に神山の姿は見当たらなかった。
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「.....くそがぁっ!!
どこ行きやがった、あのオッサンはよぉ!!!」
前田が周りを見回しながら叫ぶ。
だが、どこにも神山の気配が感じられない。
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「....ちっ、仕方ねぇ。
まずは封印の解除が最優先だ。」
「.....あぁ。
神山さん...頼む、無事でいてくれっ...!!」
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二人は姿を消した神山の無事を願った。
.......そして、最後の「封印」が待つ本家の屋敷へと辿り着いたのだった。
「.....よし、急いで封印を解くぞ。」
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二人は回収した遺体を持ち、「儀式部屋」から地下へと降りていった。
両手が塞がっていた前田は、地下の古びた引き戸を蹴破った。
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shake
ガンッ!!
戸が倒れ、奥から「最後の祠」が姿を現した。
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「おいっ!
さっき回収した「胴体」を出せ。
俺がソイツから最後の玉っころを見つけ出す。
そのうちに残りの四つを箱にはめてみろ。」
「...あぁ、分かった!!」
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丸山は、内胸ポケットに入れた四つの数珠を木箱の穴へ押し込んだ。
「.....よしっ、ピッタリだ。
前田、こっちは終わったぞっ!!」
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丸山が後ろを振り返ると、ウジによって穴だらけになった「胴体」に前田が腕を突っ込み、グチャグチャと音を立てながら数珠を探している。
丸山はそのおぞましい光景を見てられず、すぐに目を逸らした。
そして前田が腐った「少女」の身体をほじくる音だけを、その耳に感じていたのだった。
.....数十秒ほど経っただろうか。
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「....あったぞ!!!」
前田が「胴体」から数珠を見つけ出し、それを丸山へ投げた。
.....その瞬間、階段を通じて地上から神山の叫び声が聞こえた。
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shake
「.....ぅぎゃぁぁあぁあああぁぁ!!!」
sound:18
「!!!!!!」
その声は、誰が聞いても只事で無いことが分かった。
神山の身に何かがあったのだ。
まさか、「少女」に襲われているんじゃ....?
丸山の頭に、「最悪の結果」が駆け巡る。
その時、前田が叫んだ。
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「お前は封印を解け!!!
俺はオッサンを助けに行く。
必ず生きて連れて帰ると約束したからな。
.....頼んだぞ!!」
「あっ、お、おい前....!」
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丸山の声に耳を傾けず、前田は猛スピードで階段へと走っていった。
そして立ち去る間際、丸山に向かって親指を立てた。
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「.....絶対にお前は生き延びろよ!」
そう言い、前田は階段をかけ上がって行った。
しばし相棒が消えていった階段を見つめ、丸山はギュッと目を瞑る。
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「信じろ....!!
前田なら、きっと大丈夫だ。
俺は今自分に出来ることをやり遂げる!!」
そして、丸山はとうとう「最後の封印」である木箱の穴に、五つ目の玉をはめ込んだのだったーー。
*************
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バカッ!!!
穴を全て埋めると同時に、破裂するように木箱が割れた。
そして、中から真っ黒な長く絡み合った髪の毛が飛び出した。
その髪の毛の中心に、何度も見てきたあの「顔」があった。
腐りかけてはいるものの、口も、鼻も、かろうじて形を保っている。
そのせいで、更にそれがあの「少女」の首だということを物語っていた。
......そして。
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shake
「あ.....あぁ.....!
......うそ....だろ。」
.....瞑っていた筈の目が、いきなりパッと見開き、ギョロっと丸山を睨んだのだ。
首から上しかないおぞましいその顔は、凶悪な憎悪に満ちていた。
見られているだけで、この少女が今「殺してやる」と言っているのが分かった。
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そして、次の瞬間丸山の首がものすごい力で締まっていったのだ....
shake
「ぐっ....ぁ...!!!」
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(な.....んで.....
なんで成仏しねぇんだよ!!?)
そう心で叫んだ時、恨みに満ちた少女の目を見て、丸山は本当の「真実」を悟った。
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......なぜ、成仏しないのか。
そんなもの、出来ないからに決まっているのだ。
どうして今まで気づかなかったのか....。
この少女の魂は、あの儀式の瞬間に「恨みの塊」へと変わり、そして赤神と共に封印された。
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そう、三人は勘違いをしていたのだ。
この少女が、赤神を解放させないために、世の中を危険に晒さないために自分達を邪魔しているだって?
.....違う。
この少女の魂は、既にそんな「良心」など残ってはいない。
だからこの少女は恩人である神山でさえ、手足をへし折ることだって出来た。
三人を邪魔をしていたのは、封印を解放することで自分の「魂」そのものが赤神に侵食されてしまうのを避けたかったからに他ならないのだ。
侵食されれば、少女は完全に自分の意思を失い、赤神そのものへ変わってしまう。
死ぬ間際に感じたあの「恨み」もろとも.....!
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そして今、「少女の魂が赤神と一つになる」前に、結果として自分の魂を赤神に喰わせる原因となった三人を殺そうと決めたのだろう。
(そ、そういう....ことだったのか....!!)
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あの飛び血のシミによって消えていた古文書の最後の文章は恐らくこうだ。
「ただし解除をすれば、二つの魂はいずれ一つのものとなり、生贄の魂は永久に成仏することなく赤神そのものとなる。」
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......あぁ、気づくのが遅すぎた。
丸山達は、甘かったのだ。
この少女の底知れぬ恨みを、あの儀式が今まで一度も行われなかった本当の意味を.....!!
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丸山は心から絶望し、全てが終わったと悟った。
.....自分の命はここまでだと。
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......だが、この時丸山の心にふと「妻」が思い浮かんだ。
そして、その妻のお腹にはこれから産まれてくる我が子がいると.....!
(死ね...ない.....!!
俺は、絶対に死ぬわけにはいかないっ.....!!!)
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......そう心に誓った時だった。
集めた少女の遺体に異変が起きた。
シュゥゥゥゥ........
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sound:18
「!!!!!!」
腐りかけだった肉片や血が、浄化されるように溶けていっているのだ。
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(ま....さか......!!
赤神との融合が始まった....のか....?)
だが、同時に丸山の意識が遠いていく。
首を絞める力は以前弱まらない。
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(も、もう.....
ダメ....だ....。)
全ての景色がグルグルと回り、やがて丸山の視界は暗い闇で満ちたのだったーー。
*************
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music:2
チチ.....チ.....
「.....はっ!!!?」
丸山は、暗く冷たい空間で目を覚ました。
周りを見渡すと、後ろの階段の上から僅かな光が差し込み、そこから鳥のさえずりが聞こえてきた。
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「助かった....のか.......?」
目の前の祠には、白骨化した少女の頭蓋骨が置かれていた。
木箱の中の「一部」達も、同様に全て白い骨と化している。
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......これで、結果的に赤神は世に放たれてしまったのだろう。
そして、どこかで違う誰かに寄生してしまったかもしれない。
......それでも、丸山はこうして生きている。
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(終わっ....た.....?
生き.....延びたんだっ.....!!)
だが、感動するのはまだ早かった。
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「ま、前田っ!!!
神山さん!!!」
丸山は地上へ走った。
きっと、あの二人は生きている。
そう心で信じながら.....!
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「前田ぁーーーー!!!!
どこだ、前田ぁーーーーー!!!!」
丸山は必死に叫んだ。
空は、すっかり青空が広がっている。
あぁ、久々に青い空を見た。
後は前田達が無事でいてくれさえすれば....。
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「.....あっ!!!」
その時、村の中央にそびえる太い木の根元に、前田が座っているのが見えた。
神山の姿はないようだが.....。
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「ま、前田!!!!」
丸山は前田の元へ走った。
返事がないが、きっと気を失っているだけだろう。
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丸山は、座りこむ前田の両肩を掴んだ。
前田の周りには、おびただしい量の血痕が広がっている。
丸山の心に焦りと不安がよぎった。
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shake
「おいっ、起きろ前田!
終わったんだよっ....
俺達は生き延.......!!!!」
そう言った所で、丸山はあまりにも残酷な光景を目の当たりにした。
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........ボトッ
shake
(!!!!!!!!!?)
丸山が肩を揺らした振動で、前田の首が地面にボロリともげ落ちたのだ。
コロコロと地面を転がる前田の首を、丸山はただ呆然として眺めた。
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.......しばらく、丸山は前田の首を見つめていた。
そしてようやく、その残酷な「現実」が丸山の心を襲った。
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「前....田.......?
あぁ....そんな......。
shake
う.....うあぁあぁああああぁあぁぁぁあぁあああ!!!!」
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丸山は泣き喚いた。
その場に何度も拳を叩きつけ、頭を叩きつけ、拳と額がボロボロになっても、ずっとずっと泣き続けたのだったーー。
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(間に....合わなかったんだっ...!)
.......どれ程涙を流したのだろうか。
既に涙は枯れていた。
だが、涙を枯らしても前田を失った現実を受け入れることは丸山には出来なかった。
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丸山はゆっくりと立ち上がり、フラフラと歩き出した。
アテがあるわけじゃない。
ただ、前田の死体をこれ以上見ることが出来なかったのだ。
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そして、しばらく村の中を彷徨っていると、宮坂家の前で血まみれで死んでいる神山を発見した。
(神山....さん......。)
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丸山の目には既に流す涙などは残されていなかった。
だが、無残に死んでいる神山を見た途端、丸山の心はとうとう「崩壊」した。
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.....そして、その場に倒れこんだ。
かろうじて妻と子供のことが頭にあったおかげで、丸山は最後の正気を振り絞り、携帯の110のボタンを押し、そして意識を失ったのだったーー。
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2010年4月某日ーー。
あのおぞましい日からおよそ10ヶ月もの月日が経過していた。
丸山はあれから精神的に大きなダメージを負い、約半年もの間精神病院へ入院した。
しばらくは警察の事情聴取に追われつつも、妻と子供への想いから必死にリハビリを受け、精神は劇的な回復を見せたのだった。
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......そして今、丸山はとある産婦人科の陣痛室にいる。
昨日、破水を迎えた朝子を病院に送り届けた。
しばらく陣痛に苦しむ朝子を、丸山は必死で励まし、支えた。
本来なら出産の立ち会いを希望していたが、あれほどおぞましい一件の後だ。
大量の血を見る可能性がある出産を見るのは避けるよう、精神科の医者からストップがかかってしまったのだった。
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隣の分娩室では、今なお朝子の苦しそうな声と助産師の声が行き交っている。
.....丸山は願った。
両手を合わせ、神に祈るように願った。
(どうか.....
どうか無事に産まれてきてくれっ......!!)
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.....そして。
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「ほぎゃぁ....!
ほぎゃぁ.......!!」
shake
「!!!!!!!!」
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分娩室から聞こえる産声。
(産まれ....た.....?
俺の....子が.....!!!)
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丸山はその場に泣き崩れた。
感動したからだけではない。
その時、様々な感情が一気に押し寄せたのだ。
大切な親友と、神山を失って得た自分の人生の、心から望んでいたこの瞬間....!
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「....ありがとう。
ありがとう、ありがとう.....!!」
丸山は、死んだ二人に心から感謝し、そして誓った。
二人に繋いでもらったこの命をかけて、自分の子供を一生守っていくことを....!
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コンコン.....
「失礼します。
旦那さん、もう大丈夫ですよ。
元気な女の子です、ぜひ抱いてあげてください。」
助産師が、分娩室から顔を出して言った。
とうとう、待ち望んだ我が子に対面するのだ....。
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(女の子ということは娘か....。
俺の、俺の娘なのか.....!)
分娩室のベットには、疲れきった表情の朝子が泣いていた。
そしてその朝子の腕の中で、天使のように可愛い娘が元気に泣いている。
.....そして、当然丸山も泣いていた。
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「ふふっ、泣き虫家族ね...。」
朝子が、力ない声で笑って言った。
丸山は、小さく震える朝子の手を握り、泣きながら頭を下げた。
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「ありがとう....。
よく....よく頑張ってくれたっ....!」
その言葉に、朝子はもう一度ニコっと微笑み、嬉しそうな声で丸山に言った。
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「ほらっ、あなた。
.....あなたの娘よ、優しく抱いてあげて?」
「あ...あぁ。」
丸山は、落とさないように慎重に慎重に娘を抱き上げた。
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......その時だ。
あれほど泣き喚いていた娘が、丸山が抱いた瞬間にピタッと泣き止んだ。
「あらっ、もうパパだって分かってるのかしらね!」
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隣で見ていた助産師の女性が、笑いながらそう言った。
だが、丸山はこの時奇妙な感覚に陥ったのだ。
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泣き止んだ娘は、じ.....っと丸山を見つめている。
その目は、まだ光すらも見えていないにも関わらず、しっかりと丸山の「目」を捉えているのだ。
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ゾクっと丸山の背筋に悪寒が走った。
それと同時に、朝子が丸山に抱き上げられた娘を見て妙な事を言い出した。
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「.....あらっ?
この子、耳の裏に赤い変わったホクロのようなものがあるわ。
こんなにハッキリ四つ綺麗に.....
まるでひし形みたい。」
shake
「!!!!!!!!」
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丸山は、じ.....と見つめる娘から何故か目が離せない。
......そして娘は丸山の目を見つめながら、ゆっくりと微笑んだのだったーー。
【終】
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あとがき。
長い長いこの「赤い村」シリーズを読んでくださいまして、本当にありがとうございました。
そして、お疲れ様でした^_^
皆様のたくさんのご声援のおかげで、最後まで書き切ることが出来ました。
心より、感謝申し上げます。
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また新しい物語が思いつきましたら、更新していこうと思います。
その時は、またどうぞ宜しくお願い致します。
最後にもう一度、ありがとうございましたっ!!o(^▽^)o
では、失礼いたします.......。
作者鳴終魏-NAOKI-
このお話は、以前投稿させていただきました、
「赤い村-本家-」
の続編であり、最終話になります。
今まで、本当にたくさんのご声援をありがとうございます。
このお話を少しでも怖いと思っていただいた方、面白いと思ってくださった方、そして読んでくれた全ての皆様に、心より感謝申し上げます。
誤字脱字、矛盾などございましたら、遠慮なくご指摘下さいませ。
ありがとうございました。
また、お会いするその時まで.......。