跡を付けられている・・・
そう感じたのは五日ほど前だ
バイトも終わり帰宅途中それは起こった
あたりはもう暗闇に包まれている
もう夜の23時
後ろから強烈な目線を感じる
足音は一切聞こえない
ただ
見てる
視線を感じる
パッと時折に後ろを見る
しかし誰もいない
走って家のアパートに駆け込む
はあはあ・・・鍵を閉めそのままその場にへたれこむ
何者なんだろう?
何度も姿を確かめようと後ろを振り向くが未だその姿を捉える事ができない
気のせい・・・何度もそう思ったが絶対に視線を感じる
時間は必ずあの時間
ほかの時間はなんともないのに
次の日バイト仲間の朋美と一緒に帰ってもらった
二人でいれば・・・そんな事思っていた時だった
また、感じる
「朋美・・・ほら感じない?視線・・・」
朋美はキョトンとした様子でそんなの感じてはないようだ
あたしだけ・・・
後ろを振り向いてみるも誰もいない
「来た道戻ってみる、何かわかるかもしれない・・・」
もうこれ以上こんなことで悩むのは嫌だ・・・
このままでは外に出られなくなる・・・
朋美にも一緒についてきてもらい来た道を戻る
角を曲がろうとした時だった
!!!?
そこには
マネキンがいた
服も何も身につけていないマネキン
肌色ではなく黒のマネキン
この角を曲がる時には・・・あったのか?
いや
この暗さとはいえそこまで風景に同化するのか?
しかもここはゴミ置き場でもなんでもない
いったい誰が・・・?
「なんか・・・不気味だね・・・」
と言いつつ、朋美はマネキンの関節をいじりはじめた
言葉とはうらはらに直で初めて触れるマネキンに興味深々なようだ
手足をありえない方向に曲げて
「へぇ~すご~い」
興味を持ち始めるとしばらく離れないのが朋美の癖だ
もう帰るか・・・
これが視線の正体なんて思いたくないけど・・・
数分間適当にいじって飽きたのか朋美はそのまま帰ってしまった
うちまでついて来てくれるんじゃなかったんかい!
そう思ってもしかたないか・・・
マネキンは変な格好のままその場に放置しアパートに向かった
結局それからアパートまで視線は感じなかったので結果オーライ?かな
翌日バイトに出勤すると朋美の姿がない
バイトが生きがいだった朋美が来ないなんて・・・
嫌な汗が背中を伝う
まさかあのあと・・・
嫌な妄想はどんどんと膨らんでいき収まりが効かない
どうしても気になってしまい店長に聞いてみた
朋美は今朝入院したらしい
今朝朋美の母親が娘の手足がおかしな方向に曲がっているのを発見
なんでも全身を複雑骨折していたらしい
「これは聞いたはなしなんだけどね・・・
手足の複雑骨折、事故ではああならないみたいなんだ・・・
なんて言うのかな・・・人の手を使ってバキバキに折られたみたいな・・・」
言葉が出てこなかった
あのマネキンの手足をいじったから?
だからあんなことに?
朋美を巻き込んでしまったショックで泣き出してしまった
その日は店長に送ってもらった
そして感じる
背後からはやはり強烈な視線
しかしここで言ってしまったら・・・
今度は店長まで・・・
確信ではないが人を巻き込みたくない
言いたくてたまらなかったがなんとかこらえアパートについた
店長と別れ自分の部屋に入り靴を脱ごうとした時
!!!
背後からの視線
でも・・・
後ろにはドアがあるだけ・・・
そうわかっているけれど
おそるそる後ろを見る
何もいなかった
フーと一息つくがまだ・・・強烈な視線を感じる
今度は真正面、すなわち・・・
「ど、ドアの・・・向こう?」
ドアミラーからその視線の正体を見る事ができる
ー見て確かめたい
しかし見てしまったら・・・
思ってはいるのに足が、目が、脳が言うことを聞かない
目をだんだんと近づけドアミラーを覗く
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そこにはあ
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「気づきましたか?」
ーここはどこだろう、私は?
消毒液の匂い・・・?病院だ
横にいるのは白衣を来た初老の男性
「あなたはまるまる三日眠っていたんですよ・・・」
ーみ、三日!あ、あのとき、うっ!
あたまを抱えうずくまる
脳に走る電流に思わず頭を抱える
「無理に思い出さなくても大丈夫」
優しい口調で話しかけてくるがそれは頭に入って来ない
なぜ・・・こんなところにいるのか・・・?
ここになぜ入院しているのか?
頭を巡らせ考えるも答えは見つからない
ーあの、とき
声を出そうとして気づいた・・・
声が、出ない・・・
「今は一時的なショックで声が出なくなっているだけで」
なんで?
「時間が経てばショックが和らいで出せるように」
どうなった?思い出せ!!私!!
目を閉じて必死になって思い出す
あの日、あの時
朋美、帰る、店長、マネキン、ドアみ
目をあけたその時
「ぁぁぁあああああああああああああああああああああ」
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あの黒いマネキンだ
でも一体じゃない・・・
病室全体に黒いマネキンがいた
言葉にならない叫びが病室をこだまする
「大丈夫!おちついて!」
取り乱し暴れる私を必死で落ち着かせようとしいる
それも黒いマネキンだった
作者酢物