僕には姉がいる。
影だけの姉だ。
生まれた時から僕と一緒にいる、親も知らない俺の大切な家族の一人だ。
そんな姉に一度だけ年齢を聞いたことがある。
「アンタ……女性に年齢聞くとはいい度胸ね」と、男性陣は聞くも恐ろしい復讐にあった。
人間ではないのだから長寿でも別に気にしないのだが、姉は気にしているらしい。
実体のない分復讐やらせりゃ世界の誰よりも人の秘密握るのが得意な姉だ。
どんな復讐を受けたかは、いずれ 閑話で話すとしよう。
さて、今夜も思い出話に花を咲かせよう。今日は姉さんの背格好についてだ。
~優 14歳・思春期まっしぐら中二~
「姉さん……やめて、ね?」
「ダメ♡男の子なんだからちゃんと練習しとかなきゃ」
「ダメだよ姉さん!もう、……」
「優、いいよ。受け止めてあげるから、」
そして、俺は、俺は……
……机の上のノートにペンを走らせるのだった。
「だから、もう時間がないんだよ!明日は数学のテストだよ!!もう0時じゃないか!勉強させてよ!」
「いいじゃ~ん。優も男の子なんだからアレの練習位しとかないと彼女出来た時に大変だよ。無理に硬派気取らないでこっちおいで♡」
チラリと覗くと姉さんは、M字開脚に胸と顔を強調するセクシーポーズ。普通の男なら空中で服を脱いで突っ込んでくだろう。……シルエットだけじゃなければ。
「影に欲情するわけないじゃん。俺を誘惑したいならシルエットじゃなくて人間の姿で来てよ」
「シルエットでいいじゃ~ん。ほら、影姉さんのセクシーポーズ♡これだけでナニのネタになるでしょ?」
ナニが何なのかは言わないでおこう。要するにナニである。
「でしょ?じゃねぇ!!なんで明日姉さん来ないんだよ!カンニングできないじゃん」
「カンニングは小学生まで!」
「本音は?」
「……見たい映画が有るのです」
ダメだこの姉早く何とかしないと……
*
何だかんだでテスト当日。姉さんがうるさくて結局あのまま寝てしまった。どうしよう、赤点は勘弁してほしい。放課後潰して補習なんてまっぴらごめん被る。
「テストくばるぞー。教科書しまえ。どうせ今更結果は変わらんぞ」
テストが回ってきた。……うん、全然わからん。
仕方ないのでわかる部分と記号問題だけ適当に書いて机に突っ伏した。いわゆるお手上げだ。平常点足せばそこそこ何とかなるかもしれないし。
目を閉じるとそこは暗闇、聞こえてくるのは時計の秒針とペン芯が紙に擦れる音だけだ。テストの時ってのは驚くほど寝られる。教師に注意されることもなく、しゃべる同級生もいない。あぁ、テストは嫌いだけどこの時間は好きだw
*
さてさて、どれほど寝てただろう。おかしいな。何時のまにかペンの音聞えなくなっている。みんな解き終わったのか?いや、秒針の音すら聞こえない。何かおかしい。
俺は頭を上げた。おかしいなんてもんじゃなかった。誰もいない。生徒どころか教師すらいない。それどころか俺が枕?代わりに使っていた解答用紙と筆箱すらなくなっている。
そして、何より時計だ。今日は数学と家庭科のテストで午前授業の日程だった。それなのに時計の針が刻んでいたのは[15.30]いくらよく寝てたからと言って。起こさない教師がいるか?答えは否。仮に起こさなかったとして、寝ている俺の下にある解答用紙を回収され、なおかつテスト後の生徒の歓声の呻き声を無視して寝ていられるだろうか?有りえない。
有りえない+有り得ない=異常事態……チンッ!
まぁ、そこでじっとしていても仕方ないので学校中を歩き回ってみた。折角の機会なので職員室で数学のテストの解答をご拝見させていただき、先生たちの机の中も漏れなく御開帳させていただいた。……流石に生徒指導の机から私物のエロ本が出てきたことには驚いた。
そんなこんなで校庭、体育館、旧校舎を含めすべての場所を回ってみたが見事に一人もいないこの状況。何より時間の変化がない事に絶望感を覚えた。時間が何とかしてくれるのではとの期待が音を立てて崩れていったのだ。しかも、学校から出られないと来た。外の風景が見えるのでもしやとも思ったが、正門から街の方に歩いているといつの間にか裏門に着いている。正規ルート以外も試したが結果は変わらなかった。
さて困った。夢じゃないのは明らかで解決の方法も見当たらない。ネットで見た異世界に行く方法でも試してみるか?いや、そもそもエレベーターがない。ならいっそ……死んでみようか?
おかしいな?死んでみるしか案が浮かばなくなってきた。この場の雰囲気と絶望感がそう感じさせるのかはたまた第三者の意思なのか。
「姉さん……」
俺はボソッとつぶやいた。
「優ちゃん、よんだ?」
学校の廊下の隅からひょこりと一人の女性が現れた。
そしてタイミングが悪かった。驚いた俺は足がもつれて廊下の床に鼻を打ち付けてしまった。
俺はすぐに起き上って姉さんの事を見た。……誰?
そこには、腰まで伸びたロングヘアーを付け根で結った綺麗な黒髪。そしてなぜか巫女服の大学生?ぐらいに見える綺麗な女性がいた。
「あの、どちら様?」
女性は唖然とした表情をした。……そして胸のあたりで握り拳を作って言った。
「てめぇ、14年間連れ添った姉を忘れるとはいい度胸ね!折角来てやったのに!」
姉さん?この知的美人が!?あのバカで厨二病であまつさえ変態な姉が?
「姉さん、服着てたんだね」
姉さんの影は服まで映してはくれない。ずっと裸なんだと思ってた。
「……もしかしてずっと裸だと思ってたの?」
俺はコクリとうなずいた。
姉さんが黙ってしまった。何だろうその可哀想なやつを見る目は。
「まぁ、いいよその件については帰ってからじっくり話そうか。早くしないと引き込まれかねないからね」
引き込まれる?何の話だろう?
姉がすっと手を差し出してきた?お手?
「さて、この世界を壊して脱出するよ。一緒に呪文を唱えてね」
姉が半ば無理やり俺の手をつかむ、指を絡めきつく握りしめた。これが俗に言う恋人つなぎか。そして、その手を空高く鈍色の空に掲げた。
「じゃ、行くよ!……バルs――」
「ってやめろーーー!!えらい人達に抹殺されるわ!このバカ姉!!」
まさか、姉の見てた映画って……うん、詮索はよそう。
「ハハハッ。いや~しっかり影響受けちゃってw」
うん、実体があっても姉は通常運転らしい。
「もう疲れた。早く家に帰して」
「はいはい、じゃ行くよ~」
姉はパンッと両の掌を打ち鳴らした。その途端世界がゆがんだ。
気が付くとそこは自分の世界の自分の教室。時間は午前。テスト終了の五分前。俺は必死になって記号問題と簡単な数式を書いた。
*
テストの結果は45点。ギリギリではあるが合格だ。テスト返却の際、教師が苦虫をつぶしたような顔になったのは内緒だ。これもあの不思議な体験のおかげである。そのせいで複雑な心境だ。
姉さん曰く、引かれやすい俺は学校に集まった、不の怨念にあてられて、精神だけ常世の世界に引き込まれてしまったらしい。姉が変な気配を感じて常世の世界に助けに来てくれなかったら。俺はあのまま屋上に向かっただろう。何故かは知らない。たぶん雰囲気にのまれたのだろう。
昼寝から異世界に飛んだ。やれやれ、ネットに上げても釣りの餌にもなりゃしないか。
それでも、良い魚が釣れた。生まれて初めて姉の姿を見ることができたのだ。裸じゃなくて良かったと心底安堵している。
それから、鏡を通して姉さんは俺の前にちょくちょく姿を見せるようになった。
姉さんのシルエットに本当の姿を重ねて少しムラッと来たのは俺の一生の汚点であり秘密である。
作者真苦楽
少しひyな話で申し訳ないです。
三話目の投稿となります。今回は居眠りのお話。
私も授業中よく居眠りをしますw
何故か教師の話は眠りを誘うんですよね、下手な睡眠薬より効くんじゃないでしょうかねぇw
少し、意識がない時に異世界に行ってします。はたまたそれは夢か現実か。夢だといいですよねみなさん。夢じゃなかったらもう二度と戻れないかもしれないんですから。
怖話の都市伝説の方にも異世界に行く方法で議題が上がってましたが非常に興味深いお話です。
皆さんは「胡蝶の夢」というお話をご存知ですか?今いる世界は現実か否か。それは誰にも分らないのかもしれません。
今読んでいるこのお話も、夢の産物なのかもしれません。
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