最近聞いた話です。
ある日の夜、一人の女性が暗い住宅街を早足で歩いていました。
彼女は特に帰路を急いでいた訳ではなく、早足の理由は彼女の後方にありました。
女性から少し離れた位置にずっと大声で携帯で話をしている男性がいたのです。
(うるさいなぁ、もう少し静かにしてよ・・・)
しかし女性が歩くスピードを速めても、何故か男性もそれに合わせて着いてきます。
(ちょっと、なんなのよもう・・・)
ストーカーかとも思いましたが別に今日までそれ系の異変もなかったし、第一堂々としすぎていると思っていました。
すると、今まで知らないミュージシャンの話をしていた男性が大きな声で恐ろしい事を言い始めました。
「あぁ~襲いてぇなぁ~」
あまりの事に一瞬女性は足を止めかけましたが、すぐ後ろに男性が迫ってるのに気づき急いで歩きだしました。
「いや目の前の子がメチャメチャ可愛いんだよ。うん・・・そう・・・」
「大丈夫だって夜道だし、周りに誰もいないし」
「はぁ?知らねぇよ。何したって俺の勝手だろうが」
勘違いか何かかも、と思った女性の考えを否定するような言葉を男性は次々と浴びせてきます。
今すぐにでも逃げたいのに恐怖で早足で歩くのが精一杯だった女性を動かしたのは皮肉にも男性の一言でした。
「あぁ~もう決めた。襲うから。切るぞ、じゃあな」
それを聞いた瞬間、今まで縮こまっていた体が嘘のように跳ね上がり女性は猛スピードで走りだしました。
後ろを絶対に振り返らず唯々目的の場所へと向かって必死に走り続けました。
途中何度か転びかけましたが、その場所の明かりは徐々に見えてきました。
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「あっ、あった!」
背後から聞こえてくる男性の言葉を耳からシャットアウトし、女性はすぐにその場所に駆け込みました。
「いらっしゃいませー」
いつも聴き慣れている店員の声が聞こえ、ようやく女性はほっと一息つきました。
店の奥に進みながら外を見ると店から少し離れた位置で先程の男性がこちらをじっと睨んでいました。
(さすがにコンビニの中までは追ってこれないでしょ)
女性は仕返しとばかりに逆に男性の事を睨み返してやりました。
しかしその後、困った事になりました。
男性が一向に帰ろうとしないのです。
彼が何処かに行ってくれないと女性もコンビニから出る事が出来ません。
(でも待って・・・帰ったフリして何処かで待ち伏せしてくるって可能性もあるんじゃ・・・)
外に目を向けると男性はまだこちらの方を睨んでいました。
よく見ると何処となく狐に似た顔立ちなのがさらに恐怖を引き立てました。
怖くなった彼女は知り合いの男性に電話を掛け、家まで送っていってほしいと頼みました。
「解った。すぐ行くから待ってて」
友人の男性は快く了承してくれたので、すっと気持ちが楽になりました。
ですが外にいる狐顔の男性が目に入るとすぐに背筋が凍るような感覚が蘇っていきました。
女性は目を合わせないように雑誌で顔を隠しながら、只管友人が着くのを待ち続けました。
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それから数十分後。
女性の携帯に着信が入り、彼女は急いで電話に出ました。
「大丈夫か?もうすぐ着くから。もう見えるとこまで来てる」
電話の向こうから聞こえてくる荒い息遣いから、彼が走って向かってきてくれているのが伝わりました。
それがなんだかとても嬉しくて少し涙が出てしまいました。
コンビニの外を確認するとこちらに向かって手を振っている男性が見えました。
嬉しくて子供のようにはしゃぎながら手を振り返しました。
店の周りを見回してみると、あの男性はいつの間にかいなくなっていました。
もしかしたら何処かで待ち伏せているのかもしれませんが、友人が来てくれたお陰で女性はもう怖くはありませんでした。
「良かったぁ~。じゃあ切るね、すぐそっちに行・・・・」
その時女性はやっと気づきました。
ガラスに映った自分の後ろで見覚えのある服装の人が雑誌を読んでいるのを。
その人物がゆっくりと雑誌を下ろすと、そこにはニンマリと口角を上げた狐顔現れました。
あまりの事に女性が後ろを振り向けないでいると、ガラスに映った男性はゆっくりと彼女の耳元に口を近づけていきました。
「あんまり人を舐めた態度してるとさぁ~。俺みたいな奴は何してくるか解んないよ?」
外を見ると友人がこちらに向かって凄い形相で走ってくる様子が見えました。
しかしその直後、耳元で「残念、ゲームオーバー」という声が聞こえました。
その後、女性がそのセリフの意味を理解する事はありませんでした。
作者バケオ
半分位実話の話です。
妹の友人が体験した話を大げさにしてみました(もちろん実際は助かってます)
ただ本当に怖いのは「あたしだったら大声で下ネタ叫びながら走って逃げるね。相手も呆気に取られて追ってこなくなるよ!」と自信満々に言ってきた妹の方かもしれません。