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俺はいわゆる売れない歌手だ。
はじめは路上で歌っていたが、
ある日昔からの友人に
「今は使っていないちょっとしたホールがあるから、貸してやるよ。」
と言われ、ありがたく貸りることにした。
ホールは駅からも近く、中もちょっと掃除すればすぐにでも使えるくらいだった。
今はそのホールを使って毎週歌っているが、やはり無名の俺には観客は多くは集まらない。
だが、このホールを使い始めてすぐの頃から毎回見に来てくれる女の子がいた。
毎回かかさず見に来てくれる人が1人でもいてくれることが嬉しかった。
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だんだんと観客が増えてきたある日いつものように歌い、簡単な後片付けをしている時、ふいに方を叩かれた。
そこにはスーツ姿の体格のいい男性がいた。
「ちょっといいかな?」
男性が言うには、男性は音楽プロダクションの関係者で、要は俺をスカウトしに来たそうだ。
俺はもちろん喜んで承諾した。
ついに努力が実ったのだ。喜ぶなという方が無理だ。
俺は再来週から音楽プロダクションの練習施設を使わせてもらえるらしい。
今まで歌ってきたこのホールを使えるのも来週が最後だ。
そう思うと少し寂しい気もした。
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最後のホールを使ったライブ。
やはりあの女の子は来てくれていた。
ライブ終了後、俺は女の子の元へ走った。
お礼が言いたかったのだ。
ここまでやってこれたのは
ずっと見てきてくれた女の子のおかげでもあるから。
女の子は出口ギリギリの所にいた。
「ねぇ、君!」
俺が言うと女の子は振り向いた。
近くで見るのは初めてだった。
色白で、薄ピンクの頬、そして薄い唇。
可愛い子だった。
「初めの時から、見に来てくれてたよね。俺、すごく嬉しかった。」
ありがとう。そう言おうとした時、
女の子は口を開いた。
『なんだ。見えていたんだ。』
次の瞬間、俺の目の前に立っていた可愛い女の子はいなく、代わりにボロボロの服を着た、血だらけの女がいた。
俺はそれ以上覚えていない。
その後俺は倒れてしまったそうだ。
後日、ホールを貸してくれた友人に聞くと、そのホールでは昔、事故がおきていたそうだ。
詳しくは聞けなかった。
だって、あの女は今でも俺の近くにいるんだもの。
作者もやし
売れない歌手のお話。