プレーヤーの不調はあの日だけだった。
あの日以降はごく普通に使用出来ている。
『あれはただの不具合だった』
それだけでは説明が付かないことだったが、そう考える他なかった。
nextpage
ある金曜日のこと。
会議が長引き残業となった。
課長と同期の三人でパソコンに向かっている。時折会話を挟みながら仕事を進めた。
「ん?おい」
課長が訝しげな声を上げた。
パソコンがおかしくなったらしい。
nextpage
「あぁ、これはフリーズしてますね。」
同僚がマウスを動かしながら言う。
1度強制終了をする以外ないようだった。
保存は途中から行っていない。
「…今日は終電間に合わないかもな」
課長がぼやいた。
nextpage
当然、下の人間である自分たちは帰ることが出来ない。
仕事を済ませ、フォローするしかなかった。
nextpage
「ん?」
また課長が声を上げた。
「どうしました?またパソコンがフリーズしましたか?」
課長は後ろを振り返っている。
「いや…なんだ。誰かが外にいたような気がしてね…」
後ろはブラインドが降りた窓だ。さらに、ここは地上8階、ベランダもない。
気のせいだということで仕事に戻った。
nextpage
「何?」
今度は同僚が声を上げた。後ろを振り返っている。
「誰かが俺を呼んで、肩を叩いたんだ。女の声だった。」
それはありえない。ここにいるのは自分も含め3人だけの筈なのだから。
nextpage
…それからは何事もなく仕事は進み、終電が出た為、タクシーを利用する。
少しでも安く上げる為、自宅から少し離れたところへ停めてもらった。
ポケットに手を突っ込みそこから歩き出す。
nextpage
すると、ポケットの中に丸められた紙らしき物があった。
思い出した。
あの日、プレーヤーがおかしかった日にバックの中にあったメモ書きだ。
確か、丸めてポケットに突っ込み家に帰り着いた際にゴミ箱に入れた筈…。
(ゴミ箱に入れたの…勘違いか?)
その瞬間。
nextpage
視線を感じた。
とても鋭い視線だ。
前には1人の女がこちらに向かって歩いてきている。
(この人からの視線か…?)
そう思いながらも、自宅の方向が女がいる方だったので、自然とすれ違う形となる。
nextpage
そしてだ。すれ違った刹那。
《…っけ…ん》
耳に直接口を付けられたような位置で声が聞こえた。
あの日、電車の中で聞いたあの声だった。
すぐにすれ違った女の方を向いた。
nextpage
「嘘、だろう…?」
隠れる場所なんてない。
走っていったような音もしていない。
女の姿は…そこにはなかった。
「そうだ…これは見間違いさ。勘違いさ。」
そういうことで処理した。
そういうことで処理するしかなかった。
作者赤庭玖繰
どうも、こんにちは。
そしてお久しぶりです。
アカギユウです。
今回は前の話の続きとなります。
近日中と言っておきながら結構な時間が経ってしまい、申し訳ないです。
それでは、ぜひご覧ください。