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いるのよね。あなたみたいな。
「本物」
真っ白だったはずのハンカチは十字に黒く汚れていた。俺を守る術をかけたそうだ。だから、小夜子に返した途端、妹の希沙が飛び込んできた。
「あなた、お父さんと妹さんのためにアパート借りたでしょ」
「ああ」
「あんまりだからすぐ契約、破棄したわ。あなたの姉ですって言ったらすんなり信用してくれた」
故郷は廃村になった。そこを売り払って出てきたのはうちだけではないだろう。
「なに、言ってんだ」
「あなた、死んだ人が生きてる人と変わらずに視ることができるのね」
「東城」
「名前を呼んで。それだけで大丈夫」
小夜子の目を初めて見た気がした。右目が深緑色だった。
「目、きれいだな。小夜子」
バンッバンッバンッ
アパートを平手で叩くような音。ああ、これは。
「希沙だ。アイツは怒ると壁を叩く」
「嫌われちゃったかしら。まあ、構わないんだけど」
小夜子は細い白い指先で空中に何かを描いた。
玄関のドアを叩くのは、やはり希沙なんだろうか。
「お母様も、こんな感じだったんじゃないかしら」
だから、昔話をするときは決まりがあったのね。小夜子はそう言って微笑んだ。
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