「ただいまー!」
私たち家族がここに越してきたのは3月の半ば。
「お母さーん。今日のおやつなにー?」
新天地は山沿いということもあり、朝晩は冷え込むらしい。
「その前に、宿題でしょー?」
実際、フローリングだけの床は冷たくて厚手の靴下とスリッパが欠かせない。
「はーい。その前にうがい手洗いだね!」
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夢の新居は、平屋の一戸建て。
いまどき平屋。もちろん新築ではない。
ここは今は亡き夫の祖父が住んでいたところで祖父亡きあと数年は空き家だった。
それこそ、震災後の住宅難のときには借り上げ住宅として市に貸し出していたそうだ。
そのときに、義母たちが少しリフォームをしたようで床は全面フローリング、縁側を広くウッドデッキにしてある。
間取りは大小あるが一応、5DKといったところ。
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いろんな人の思いが詰まった家。
これは、そんな家でのお話。
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◇ ◇ ◇ ◇
「かずきー。お風呂入るよー。」
新居には追い炊き機能がないので、お風呂はまとめて入るようにしている。
「はーい。」
このお風呂もとても昭和の香りがする作りだ。
なぜか扇形の浴槽に、床は玉石モザイクタイル。
洗濯機置き場まである。
おまけに脱衣所なんてスペースはなく、お風呂の木戸を開ければそこは廊下で玄関から丸見え。
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それどころか、居間の障子戸を開ければ寝室、そこからさらに襖を開ければ奥の間までお風呂から見えてしまう。
どうせリフォームするなら、間取りを直せばいいのに…。
これじゃ友達呼んでお泊りなんてさせられないなー。
居間の向こうに続く部屋を見ながら内心毒づく。
子供が出来てからお風呂にゆっくり入ることを忘れた私はカラスの行水を済ませ、さっそく廊下で身体を拭く。
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寒いなー。
「かずきー。ちゃんと肩まで入りなね。」
引っ越したばかりの平屋は2DKのアパート暮らしに慣れてた私達には広すぎて、得体が知れない闇が広がっているようだった。
夫は三交代の仕事で今夜は夜勤でいない。
いくら省エネと言ってもやっぱり居間の電気は付けておけばよかったかな。
せめてテレビをつけて不気味さを誤魔化していたけど、お風呂から見える薄暗い部屋たちはやはり大人の私でも少し怖い。
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パジャマを着ながら目の端で影が動いた気がしたけど、きっとそれはテレビの明かりのせい。
「え……?」
息子が一点を見つめながら固まった。
「どうしたの?」
「今、押入れのふすまが勝手に開いた気がしたの…。」
「え?ふすま?」
やだ…ホントに開いてる…。
普段から押入れの襖は閉じるように心掛けてる。だって隙間って怖いから。
それなのに、開いてる。
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「あれ?お母さん閉め忘れたかなー?引っ越しの荷物片付けてたからね。」
「…そうなの?」
「そうだよ。それにテレビの明かりがチカチカして、今開いたように見えたんじゃない?」
「そうかな?……なんか怖いな。」
「気のせい気のせい!!かず!ほら!お風呂出たなら早く身体拭いて!早く着替えな!風邪ひくよ!」
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内心怖い私は、少し大きな声で息子を急かした。
自分の中の驚きを吹き飛ばしたかった。
だって、私も目の端とはいえ何か感じたから。気のせいなんかじゃなかったから。
これは始まりだった。
これから起こることの始まりだった。
◇ ◇ ◇ ◇
作者粉粧楼
元ネタはわが家です|ω・`)ノ
引越してから息子が少-し怖い言動をします。
おっかないです。
もちろんお話は脚色してます。
おっかないは方言らしいです。伝わりますかね?
間取り…伝わりますでしょうか。。。
廊下はあまりなく、部屋と部屋は障子や襖で仕切られてます。
昔ながらの平屋といった感じ。
記号など使って書いてはみたものの見づらかったので消しました。
そんなに怖い話じゃないんですが、なにせわが家の出来事なので当事者としては得体の知れない怖さがあります。
つづきます。