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中編4
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安部 零士の心霊事件簿

僕の名は安部 零士。どこにでもいる普通のサラリーマンである。

残業でボロボロになった身体を引き摺ってアパートに帰るのも、ふと思い付いてコンビニに寄り、発泡酒なんかを買って帰るのも、何もかも普通だが、一つだけ人と違う点がある。

「…まただよ」

僕は足を止め、溜め息をついた。

視線の先には、どこにでもある自動販売機。

その脇に、女が立っている。

ただの女じゃない。

彼女には、腕がついていなかった。両腕とも、引きちぎられたようになくなっている。

そう。僕には、この世ならざるものが見える。

(ついてきませんように…!)

僕は女の側を、なるべく彼女が視界に入らないようにしながら通りすぎた。

「…ふー。」

どうやら目はつけられなかったようだ。

「目をつけられると、厄介だからな。」

あの手のものに目をつけられた日には、それはもう大変だ。

夜は寝ないで夜通し奴らの相手をし、成仏を手伝う。

一睡もしてなくても、次の日の仕事は待ってくれない。

「ま、今日は恵まれてる方だな。見るだけで済んだし。」

僕はアパートへの道を急いだ。

「ただいまー。誰もいないけど。」

僕は無事部屋に帰りつき、明かりをつけた。

その瞬間、視界に入ったのは先程の女だった。

「うわ!?」

女はゆらゆらと揺れながらこちらに近付いてくると、顔をあげた。

「おぉっ!?」

僕は更に驚いた。

「…美人だ」

その女は、稀にみる美女だったのだ!

女は微かに唇を動かし、言った。

「あの…。さっきすれ違ったとき、私に気付いてましたよね?」

バレてた…。

「すみません…。今まで幽霊と関わって、ろくなことになった事がないんで。」

顔も見えなかったし。

「いえ、いいんです。私もあなたの事呪うつもりでついてきたんで。」

「は!?」

え、何で見ず知らずの幽霊から呪われないといけないの!?

「えっ、やめてよ、僕が君に何かした?」

「いえ、何も。」

「ひっでぇー、不条理だ!」

「幽霊ってのは不条理なものでしょ。」

「う…。」

そうだけどさ…。

僕は取り敢えず、彼女の話を聞いてみる事にした。

先程買った発泡酒片手に、質問する。

「えーと、まず聞くけど、君はどんな思いがあって幽霊になったの?」

「信じてた彼氏に裏切られたんです。本当、ムカつく!」

軽…。今まで会った幽霊史上最軽…。

「最初はその彼氏のとこに化けて出てやろうと思ったんですけど…。引っ越しちゃったらしくて見つからなくて。で、そこに通りかかった、背格好の似てるあなたを呪うことにしたんです。…あー、何か思い出したらムカついてきたわ。ちょっと祟っていい?」

「ちょっ、そんな軽いノリで祟るのやめてよ。」

黙って浮いてればただの美人な幽霊なのに…。

「…で!その腕はどうしたの?」

「あ、周りのもっと強い悪霊に食べられちゃって…。」

「ふーん。」

「あ、でも不便はないですよ?普通に念力みたいなの使えますから。…はっ!」

彼女が念じると、僕の持っていた発泡酒の缶が潰れて中身が吹き出した。

「わわっ、ポルターガイストすなっ!!」

僕は慌てて吹き出した中身を舐め、溜め息をついた。

(…何なんだ、この幽霊は!)

気を取り直して、次の質問。

「君の名前は?」

「美夜子です。貴船 美夜子。」

いかにも美人ネームだ。

「…じゃ、美夜子さん。今はどうしたいの?」

「あなたを全力で呪いたいです!」

「そーゆーことじゃなくて!嬉しそーに言うなっ!」

美夜子さんはつまらなそうに唇を尖らせた。

「…あ、まだそっちの名前聞いてないんですけど。女性を先に名乗らせるとか、礼儀のなってない人ね。」

「あ、すみません。僕、安部って言います。安部 零士です。」

「へー、安部 零士さん、ね…。」

「…何ですか、ニヤニヤして。気味が悪いです…。」

「私、幽霊なんだから。気味が悪くてナンボよ。」

本当、幽霊らしくないやっちゃなー。

「あのさ、あなたの名前、安部 零士って…。」

「あーもう!そのことに対するイジりとかそういうのいいから! 」

名前イジりは散々受けてきたけど、まさか幽霊にまでやられるとは。

「名前アベレージなくせに、全然平均的な人間じゃないのね。」

「うるさいな!塩かけるぞ、塩っ!」

「残念ながら塩ごときに負ける私ではありませんよー♪」

「く、くっそー!腹立つ!」

本当に、一体全体何なんだ、この幽霊は!

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