「創太、お前、何つけてんの?」
俺は創太の頭の上に何かがついているのを見つけた。
髪の毛ではなさそう。緑色の、何か、草のようなものがついていたのだ。
「え?どこどこ~?」
創太は、髪の毛をくしゃくしゃと手でほぐした。
「取れてないよ。」
俺が指摘すると、創太は
「とって、とってぇ~。」
とつむじを突き出してきた。
俺はげんなりした。これが、かわいい女の子ならうれしいのだけど、相手は180cmもある大男だ。
俺は仕方なく、その緑色のものを指でつまみ、すてようとした。
ところがその緑色のものは、しっかりと創太の頭皮にくっついてとれない。くっついているというより、根付いている感じだ。
「お前、髪の毛一部だけ緑に染めたの?」
俺は創太にたずねた。
「そんなことするわけないじゃん。俺がそんなキャラに見える?」
創太は怪訝な顔をした。創太はサラサラの黒髪が自慢なのだ。
そう言われてみればそうだなと思った。
「痛いかもしれないけど、我慢しろよ。」
俺はそう言うと、草に似たものを思いっきり引っ張った。
いたっ!
叫んだのは俺のほうだった。一瞬、ちくりと痛みが走り、何か棘が刺さったような気がしたのだ。
創太はキョトンとしていた。
「どうした?取れたの?」
それはまだ、創太の頭の上に根付いていた。
「お前、引っ張られて痛くなかったの?」
創太に聞くと、眉がハの字になった。
「は?なんとも?本当に引っ張った?」
どうやら創太は感じていないようだ。
「鏡、みてみ?」
俺は信じない創太と一緒にキャンパスのトイレに向かった。
「ほら、頭の上に、つっ立ってる。」
俺が鏡を指差すと、創太は
「なんにもついてないじゃん。ははーん、さては俺をからかってんのかよ。はいはい、わかった。俺はアホ毛マンだ。わはははは。」
と言いながら、行ってしまった。
あいつ、目が悪くなったんだな。あれが見えないなんて。
だけど、何故、あれは引っ張っても取れないのだろう。
俺が無理やり取ろうとしたとき、見た目棘はなかったのに、急に指に痛みが走った。
次の日、創太の頭上の緑は伸びていた。蔓の様なものが、伸びて下まで垂れるほどに。何かがおかしい。俺はまた指摘すると、しつこいぞ、と嫌な顔をされた。その日から俺は、いたるところでその緑を目撃することになった。
キャンパスを歩く、女の子、大学教授、テレビを見ると、タレントまでその緑のものがはえていたのだ。最初は指摘していたが、どうやらこれは俺だけに見えるらしく、俺はだんだんと皆から疎外されていった。
あいつはおかしくなった。そう噂されるようになったのだ。
創太などは、真剣に俺に心療内科にかかるように忠告してきた。
俺は正常だ。日々の生活はまったく支障なく過ごせているし、不安になることもない。ただ、不安があるとしたら、世界中にはびこる、あの人に生えている植物のようなものだ。
創太はだんだんと、人がかわったようになった。すこしずぼらでだらしなく、適当なところが憎めないやつだったのに、なんに関しても理論的で完ぺき主義になって行った。表情も乏しい。創太だけではない。他の寄生されたやつも、無感情になって行った。あの植物に寄生された人間はおかしくなっていった。寄生されたお笑いタレントは次々と辞めて行った。まるで人が、機械の一部になってしまったような、そんな錯覚に襲われそうだ。俺は、大学に行かなくなり、引きこもるようになった。創太の頭に花が咲いた時に、俺はもうダメだと思った。あれが育って種を撒き散らす前に、俺は家に引きこもったのだ。
俺は寄生されない。寄生されてたまるか。
俺は家から一歩も出ない生活を続けた。
そして、ついに恐れていた事態が起こった。
俺の部屋に食事を運んで来た、母親に芽が生えていたのだ。
あいつらは、抜こうとすると棘を刺し、攻撃してくる。
俺が寄生されない方法はただ一つだ。
俺は台所から持ち出した包丁を深々と母親に突き立てていた。
***************
俺は刑務所に収監されている。
母親殺害は、世間を大いに騒がせた。
だが、その話題も次の事件が起きればもう人にあっという間に忘れ去られてしまう。
今、俺は全身を蔦に覆われた看守によって面会部屋に向かった。面会は父だと思ったが、全く予期せぬ人物だった。
一国の首相である。
俺は手かせ足かせをされ、椅子に座らされている。首相は、人払いをして俺と二人きりになった。
「どうやら、君は見える立場の人間らしいね。」
全身、つたに覆われ、部屋中につるを伸ばした首相が俺に話しかけてきた。人間とは思えないような機械的な声だった。俺は黙っていた。
「我々は、太古よりこの地球に存在した、知的植物生命体なんだ。人は強欲でね。いろいろな資源を掘り起こそうと、いたるところを掘りつくした。まあそのおかげで我々は太古の眠りより、覚めることができたのだ。我々は人に寄生し、無駄の一切ない人間を作り上げる。人間というものは、食と排泄を繰り返さなければ生命を維持できないものなのだけど、これが我々との融合によって、その無駄な作業は半減されるのだ。所謂ハイブリッドというわけだな。太陽の光と水、少量の食物で体が維持できればこれほど理にかなったことはないと思わないかね?だから、君も観念して、ハイブリッドになりたまえ。」
そう言うと、首相は立ち上がり、俺につるをからめてきた。
「やめろーーーー!」
俺は椅子から立ち上がり、部屋中を死に者狂いで逃げ回った。
すると、ドアが開き、蔦だらけのSPや看守が俺を取り押さえた。
そして、俺は、生い茂る植物に侵蝕されていった。
作者よもつひらさか