近所の橋の下に爺さんが住んでいる。
痩せているのにお腹だけがぽにょっと出ているので
橋の下のぽにょと呼ばれているのだ。
ぽにょはいつも、自転車の荷台に大きな段ボール箱を積んで、いたるところに出現する。
近所のショッピングセンターで灰皿を開けてシケモクを拾ったり、自販機のおつり口の全てに指を突っ込んで確認したり、夜遅くにはその自販機のゴミ箱の中から缶を取り出し、コーヒーの底に残ってる飲み残しを一缶に集めて飲んだりしているのだ。
暑い日にはたまに、頭から水道水を被って洗ったりしてる。
一応洗濯とか風呂とかたまには入っているのか、あまり酷いにおいはしない。
ぼくは、いつもぽにょ自作の荷台のダンボールが気になって仕方ない。
ダンボールの後ろの部分につまみが付いてて、パタパタと開くようになっているのだ。
いったいあんな大きなダンボールに何を積んでいるんだろう。
ある日、ぼくが一人で公園のベンチでゲームをしていると、公園にぽにょが、自転車でやってきた。ぼくは、チラっとダンボールを見てすぐゲーム画面に目を戻した。
ゲームに夢中になっててわからなかったけど、いつの間にかぽにょが後ろから、ぼくがゲームするのを見ていた。ちょっとびっくりした。
「ぼうず、ゲーム面白いか?」
声をかけてきた。ぼくはおっかなびっくりで、頭だけでウンとうなずいた。
「ぼうずは、あの箱の中が気になって仕方ないんやろ?見したろか?ゲームなんかより、おもろいもんが入っとるかもしれんで。」
これはヤバイのだろうか。逃げたほうが良いのか。
でも、箱の中身はめっちゃ気になる。
ぼくは、一間置いて、おずおずと首を縦に振った。
「おっしゃ、ほな見したろ。」
ぼくはぽにょについて行き、自転車の手前まで来た。
「よく見るんやで。」ぽにょはそう言うとダンボールの後ろの取っ手をつまんで
上に上げた。
「うわあぁぁぁぁっ!」
ぼくは中身を見て尻餅をついた。その瞬間おしっこを漏らしてしまった。
ぽにょは腹を抱えて笑った。
「あかんぼうずやなぁ、お漏らししおってから。帰ってはよママに
パンツ洗ってもらわなあかんで。ほんでな、このことは警察に言うたらあかんで。言うたら殺すからな。ほなな。」
ぽにょは何事も無かったかのように、上機嫌で自転車をこいで行ってしまった。
箱の中には、小さなおかっぱの女の子の生首が入っていたのだ。
マネキンと言うには、あまりに肌質が生生しく、まるで生きている人間のようだった。
肌には弾力があり、目はまっすぐにこちらを向いていた。
ぼくはその日から、しばらく眠れなかった。あれは人形なんだろうか。
警察に言うなってどういうこと?
言ったら殺すって言われた。怖くて言えるわけが無い。
数日後、橋の下でぼくはぽにょの死体を発見した。
橋の下でぽにょは河川敷に倒れていた。
ぼくは恐る恐る近付き、「大丈夫ですか?」と声をかけたが反応が無かった。
これはやばい、そう思い、ぼくは携帯で救急車と警察を呼んだ。
救急の人が来て声かけて意識確認したり脈みたりしてたけど、だめみたいだった。
ぽにょは担架に乗せられ、頭まですっぽり毛布を被せられて運ばれた。
ぼくはぽにょを発見した時の状況や、ぼくの名前や住所を警察の人に聞かれた。
そしてぼくは恐る恐る警察の人に言ってみた。
「あの、自転車の後ろの段ボール箱の中に、女の子の生首が入ってるんです。」
警官は「えっ」と驚いたので、ぼくは説明した。
「以前、あのお爺さんに公園で声をかけられた時に見せられたんです。
ダンボールをめくると、生首が、乗ってたんです。」
警官二人は、自転車に近付くとダンボールをめくった。
そしてぼくに近付いてきて言った。
「ガラクタしか入っていなかったよ。見間違いじゃないの?」
そんなバカな!確かに見たんだ!
ぼくは駆け寄ってダンボールの取っ手を掴んでめくりあげた。
ほんとだ。鍋とかビニール、生活用品っぽいものがゴミみたいに詰め込んである。
とてもじゃないけど、あの日とは違う。あの日は生首一つしか入ってなかった。
あれから入れなおしたんだろうか?あれはやっぱり人形で、ガラクタの一部なのか?
ぼくは警察の人にいろいろ聞かれて、家まで送ってもらい、お母さんに事情を話してくれた。
お母さんは青ざめて、ぼくを心配している。
警察の人が帰っていき、お母さんが「大変だったね。でもよく通報したね、偉いよ。」
そう言ってぼくを慰めた。
ぼくは自分の部屋で考えていた。あのダンボールの中身が変わっていたことを。
じゃああの生首は?どこにいったの?
その時、ぼくの携帯が鳴った。
ぼくは気が動転していたので、番号もよく確かめずに電話に出た。
「もしもし?」
「ああ、ぼうずか?警察に言うたらあかん言うたやろ?かわいそうやけど、
約束破ったからしゃあないな。言うたこと忘れてないよな?ほなな。」
ぼくは、足ががくがく震えだして太ももを熱いものが伝わってきた。
またお漏らしをした。
もう一歩も外に出られない。
作者よもつひらさか