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私がその人に会ったのは、高校1年生の冬。
学校の帰りに、一人で空を見ている人が居ました。
それも、トイレの屋根の上で。
しかし、私が興味を持ったのは、彼にではなく、彼の周りに蠢く物体達に、だった。
それは、肩に乗っかかっていたり、頭の上、服を掴むもの…。
しかし、くっきり見えるのではなく、ぼんやりと…。
そんな彼に見入っていると、不意に声をかけられた。
「俺に何かついてる?」
付いてるんじゃなくて、憑いてるやん、と脳内で突っ込みつつ。
「いえ、何も」
と返すと
「ふぅん…」
と、鼻を鳴らし、少し笑みを浮かべた。
嫌な感じ、まるで全てを見透かされているような…。
そんなことを思っていると、彼が言う。
「見えてるな」
その時彼の顔に不意に腕が絡みついたのを見てしまい、ゾッとする。
「これから、こいつら置きに行こうと思うんやけど、付いてくる?」
突然の誘いに戸惑う。
「知らない人には付いて行くなって教わってるので…」
と返すと、ふふふと笑う。
もちろん彼がだ。
すると、彼は屋根から飛び降り、踵を返した。
すこし、迷った。
私自身彼に興味が湧いた。
あれだけの霊をどこに連れて行くのか。
そして、決める、彼を尾行しよう、と。
彼がその後向かったのは、近所の廃寺だった。
うへぇと声が出る。
ここには変な噂が満載なのだ。
薬の売買をする輩がいる、だとか
殺人現場だった、だとか
夜中に死んだ女の子が徘徊する、だとかである。
時計の針が6と12を指している。
周りには嫌な空気が満ちていた。
そして、私は彼を見失ってしまった。
途中から彼は寺の脇にある山道に入っていった、地元民である私もこんなものがあることは知らなかったのだが。
突然の、男の高笑いが聞こえる。
彼だろうかと思い振り向く。
男が走ってきていた。
それも、首から上がなく、腕には頭が抱えられた。
高笑いのように聞こえたのは奇声だ。
声は抱えられた頭の口から漏れている。
逃げる。
気持ち悪い、てか、早い。
どんどん距離を詰められる、後ろを振り向けないが、高笑いがすぐそこまで迫っていた。
「頭ぁ下げろ!」
声が聞こえた。
無意識に姿勢を低くした瞬間だ、高笑いが止んだ。
止む瞬間に、鈍い音がしたが、気が気でなかった。
「大丈夫か?」
顔を上げると、彼が立っていた。
その肩に女の顔が出て消えたので、ゾッとする。
「付いて来るんやったら言ってくれななー」
彼を尾行していたことはバレていたようだ。
まあ、来いよと言われ、付いて行く。
5分ほど山道を歩くと、広い場所に出た。
大きな杉の木が植えてあり、その根本にお坊さんが立っていた、その背後にはお地蔵さん。
「遅くなりました」
と行ったのは彼だ。
お坊さんが手を差し出す。
そこに彼が何かを手渡した、彼にまとわりついた気味の悪いものが消えた。
「どうやったらこんだけ集められるんだか」
とお坊さんは言うと、山の奥の方へ足を踏み入れ、その子の面倒見たれよ、と言い残し、山の奥へと消えていった。
彼も私の方を振り向き、ニッと笑ってみせた。
その日から私は彼を師匠と呼び、付きまとうことになるのだ。
ちなみに、師匠と私の兄が友人であることを知ったのは後日、彼が家にやってきた時に知る。
作者慢心亮
明らかに繋ぎである。