3月12日。
今日はタイムカプセルを開ける日だ。
だから僕は、朝も早くからこうして、山の中で土を掘り起こしている。
もうゆうに1時間も掘っているのだけど、僕のタイムカプセルは姿を現さない。
いよいよ、僕の願いは叶って、タイムカプセルはその時を迎えたのだろうか。
僕は言いようの無い興奮を覚えた。
君との約束。きっと叶えるから。
君は、生まれ変わることができるなら、綺麗なお花になりたいと言ったのだ。
君は自分を醜いと思っていた。
僕にとっては君だけが天使だった。
それなのに、君は自分の醜さを嘆き、毎日泣いていたんだ。
そんなことはないよって僕が言っても、君は全く聞き入れてくれなかった。
僕が言葉は君の耳には届かなくて、君が一番欲しかった言葉はついに君の思い人から聞くことはできなかった。
滅多に学校に来なかったけど、僕は消えてしまいそうな君のはかなさが好きだった。
痩せ細って、他の口の悪い級友からミイラだとか酷い悪口を言われて泣いている君を抱きしめたかった。僕は臆病だから、抱きしめることはできなかった。
そして君は何ヶ月も学校を休んで、ついには帰らぬ人となったのだ。
僕の世界のすべてが空を渡る荒れ狂う風のように咆哮した。
僕を打ち倒してしまいそうなほど荒れ狂った。
僕の世界は閉ざされ、僕もその日から学校に行かなくなった。
君のお葬式にクラスの皆が出席したみたいだけど、僕は行かなかった。
君の死を認めたくなかったから。
数日後、僕は君のお墓の前で君の名前をなぞった。
僕が君の死を受け入れた瞬間だった。僕はお墓の前で夕暮れになるまで泣いた。
やがて夕暮れは闇を連れて来た。僕は闇に紛れてある決意を胸にしたのだ。
「君の夢を叶える。」
僕は、納骨堂から君を連れ去った。
「君は僕のタイムカプセル。きっと夢を叶えるからね。」
何時間もかけて、この場所にタイムカプセルを埋めたのだ。
何時間経っただろう。土の中から白く細いものが出てきた。
僕は溜息をついた。
「まだ、土に還らないんだ。」
がっかりした。
君が土に還ったら、僕は花の種を蒔こうと思っていたのだ。
花が咲いたら移植して、ずっと僕が大切に育ててあげる。
君と僕はずっと一緒に時を過ごすんだよ。
その時まで僕はずっとこの土を掘り続けることだろう。
僕はその土をそっとまた埋め戻して、目印に大き目の石を置き、携帯で写真を撮った。
「また来年の今日来るね。」
僕は別れを告げ山を下りた。
「ねえ、母さん、人は土に還るんだよね。」
僕は母に聞いてみた。
「うーん、それが一番理想なんだけどね。」
母は家事をしながらほぼ生返事だった。
「どれくらいで土に還るの?」
僕がそう聞くと怪訝な顔で母が僕を見た。
「そんなの、わからないわよ。調べれば?」
もっともだ。
僕は、パソコンを開いて検索してみた。
「人骨が土に還るまでには、数十年から百年かかります。」
僕は、それを見て愕然とした。
そっか、そんなにかかるんだ。でも、条件によってかわるかもしれないし。
やはり、毎年見に行かなくちゃね。
僕は楽観的に考えた。
「あと100年か。生きられるかな。」
作者よもつひらさか