中編5
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あなたは許してあげる…

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この話しは、多分俺が幽霊らしきものが見えるようになったきっかけになった出来事…

小学校に入学したばかりの俺には、大好きな近所のお兄ちゃんがいた。

名前はたけちゃん。

俺の家の向かいの家に住んでいて、歳は俺よりも4歳上の5年生。

サッカーが上手くて、昆虫取りも上手くてしかも昆虫に詳しい。 近所の子供の尊敬のまとで、俺はいつもたけちゃんの後ろを付いて遊び回ってた。

俺の住む地域では、年に2回奉納相撲が開かれてた。

田植えが終わった後の豊作祈願。

収穫が終わった後の豊作感謝。

それは、豊作祈願相撲の日に起こった。

夕方から始まった相撲大会は、子供の部が終わり、大人の部が始まった頃だった。

『おいM(俺の名前)、すげぇいい場所見つけたから行こうぜ!』

たけちゃんだった。

俺『でも、こんな時間に外で遊ぶと怒られるよ。』

たけちゃん『大丈夫だって!うるさい大人は皆ここで相撲してるだろ!これが終わるまでに家に帰ってればバレないから!』

おバカな俺はその言葉に納得。

他の友達は、バレた時のことを気にして行かないって言うんで、たけちゃんと俺と二人でその場所に向かった。

着いた所は、相撲大会が行われてる神社から10分位離れた観音堂。

集落の外れにあり、少し寂しいところたが、よく昼間には遊ぶ所なんでそんなに怖いってイメージは持ってなかったんだけど、親からは

『観音堂の裏山は危ないから、山には入ったらダメ。』

とよく言われてる場所。

俺『たけちゃん、ここ入ったら怒られるよ。』

たけちゃん『大丈夫、俺いつもここに虫取に来てるから、慣れてるから!』

そっか、ここでいつもクワガタやカブトムシを捕まえてるんだ。さすがたけちゃん、勇気あるなぁ。

なんて感心しながら、観音堂の脇を抜けて裏山へ。

山に入って、しばらく進むとどこからか水の流れるような音が。

『マジで感動するぞ。いいかぁ!』

その音の正体は小さな川。それよりも驚いたのはその川の周りを飛び交うたくさんの光。

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蛍。

田舎町なんで、今までも蛍なんか毎年のように見てきてる。

でも、こんなにたくさんの蛍が飛び交うのを見たのは初めてだった。

川沿いに生えてる木なんて、まるでクリスマスツリーのように点滅。

子供心にも、何百匹なんて単位の数じゃないのはわかるほどの幻想的な世界。

しばらくそれを見て、さぁ帰ろうかってことに。

親には内緒だぞ、なんて会話をしながら森を抜け、観音堂へ。

すると足下に、ボールの様なものが…

拾いあげると、日本人形なんかが持ってる毬のようだった。

たけちゃん『なんでこんな所にこんな物落ちてんだ。なんか気持ち悪いなぁ!』

なんて言いながら、たけちゃんはその毬を持って家路に着いた。

俺達の家の近くが神社なんで、こっそり覗くとまだ相撲の真っ最中。

たけちゃん『な!大丈夫だっただろ!』

俺『うん!すげぇキレイな景色も見たし、付いて行って良かったよ!』

たけちゃん『じゃ、また明日な!』

俺『うん、また明日ね!』

これが俺とたけちゃんの最後の会話になった。

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その日の夜中、まだ12時にもなってなかったけど外が騒がしいので目が覚めた。

親父に聞くと、たけちゃんが家に帰ってないらしい。

俺は怖くなり、怒られるのを覚悟で二人で観音堂の裏山に蛍を見に行った事を親に報告した。

それからすぐに、たけちゃんは見つかった。

観音堂の御堂の中で寝てたらしい。

安心した俺も眠りに着いた。

夢を見た。

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観音堂の前を歩いてたら、声をかけられた。

年齢は中学生くらいかな?

凄く綺麗なお姉さんだった。

綺麗な着物を着てた。

『ねぇ、この辺りで赤い色の毬を見なかった?

妹のなの。大事にしてたのにここでなくしちゃったってずっと泣いてるの。』

その後ろで妹らしき小さな子が膝を抱えて泣いていた。

俺『あっ、それなら知ってる。誰のかわからなかったから友達が持って帰っちゃった。でも、その子のだから返してあげてって頼んであげるよ!』

『ありがとう、あんた優しいね。』

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そこで目が覚めた。

もう外は明るくなり始めてた。

なんか外が騒がしい…

窓から覗くと、家の前に救急車が停まってた。

誰かを乗せて、救急車は出発した。

親父に聞いたら、運ばれたのはたけちゃん。

夜中に熱が出て救急車を呼んだんだって。

うちのかぁちゃん、救急車に乗り込むたけちゃん見たらしいけど、尋常じゃないくらい痙攣を起こしてたって…

意味のわからない事を呟きながら…

俺は朝ごはんを食べて、少し早目に家を出た。

たけちゃんの家を見ると、玄関の横に昨日の毬が転がってた。

これを拾って、集団登校の集合場所とは反対の観音堂に向かった。

そこにその毬を置いて、観音堂に手を合わせた。

なんで、そうしたのかは今でもわからない。

夢の中で約束したから?

とにかくそうしないといけない気がした。

その日学校から帰り、晩ごはんを食べた後親父にかなり怒られたのを覚えてる。

そして、たけちゃんがしばらく学校を休むというのも聞いた。

その夜、夢を見た。

あのお姉さんの所に、毬を持って向かう俺。

観音堂にお姉さんは居なかった。

その代わりに昨日後ろで泣いていた小さな女の子がいた。

俺『はい。毬を返して貰ってきたよ。○○ちゃんのだって知らなかったんだ、ゴメンね。』

女の子『ありがとう、お姉ちゃんには許してあげてって頼んどくね。』

俺『うん、ありがとう。たけちゃんも許してあげてね。』

その時後ろから、声が聞こえた。お姉さんだった。

うつむいて下を向いてるから、顔は見えない。

お姉さん『ダメだよ。たけちゃんは謝らなかったから… いつも言い訳ばっかりで…』

俺『許してあげてよ!たけちゃん凄くいい人なんだよ。』

shake

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お姉さん『ダメ!もうこの話しはおしまい。

あんたはいい人だから許してあげる!』

そう言って顔をあげたお姉さんの顔は昨日とは別人だった。

何十年たった今でも、あの顔は忘れられない。

顔中にひび割れが入り、眼は…

なかった。そこだけポッカリ穴が空いたように…

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そこで目が覚めた。

その日から、日常が戻ってきた。

だけど、たけちゃんは居ない。

まだ、入院してるらしい。

お見舞いに行きたかったけど、親にダメと言われた。

他の友達も同じだったらしい。

1学期も終わり、夏休みの始まった頃、たけちゃん家族は引っ越して居なくなった。

その時にチラッとだけどたけちゃんを見かけた。

ガリガリに痩せて、意味のわからない叫び声をあげてた。

何年か後、親父からたけちゃんは精神的な病気にかかって、両親は離婚。

たけちゃんはお母さんに引き取られ、お母さんの郷の近くの精神科のある病院に入ってるって聞かされた。

今、どうしてるかはわからない。

あの時毬を返しに行かなかったら俺はどうなってたんだろう?

たけちゃんが今では病気も良くなり、幸せに暮らしてるといいけどなぁ…

Concrete
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きょうかさん、コメントありがとうございます。
残念f(^_^; 怖かったのは画像でしたか…(笑)
次は話で怖がって貰えるような話を投稿してみます(笑)

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裂久夜さん、コメントありがとうございます。
多分そうなんだと思ってます。
今となっては確かめることも出来ませんが…

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