短編2
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おーいこっちへ来い

昔の職場の同僚が語っていた海の話、

関西空港でのGraveyard shiftの流れ作業の仕事の休憩時間(午前二時半)に、年配の同僚たちがよもやま話をしています。これは月遅れのお盆の頃のお話です

この時間帯で働く人は何かを抱えている人が多かったように思います。お正月や月遅れのお盆はshiftに入る人が多かったです。書き入れ時ですから。

私はそのグループには入らなかったので、この話は横から小耳に挟んだ話です。

紀淡海峡の近くの岩場はアワビやサザエがたくさんいるそうで、同僚は、深夜そこで潜りのアワビ採りをしていたそうです。勿論密漁です。

このあたりは人の気性も荒いので漁師さんに捕まればそれこそ人怖の話になるのですが、

それは置いておいて、このあたりは太平洋と瀬戸内海の境目にある潮流れの複雑で急なところです。

泳ぎが達者な人でも溺れることもあり、方向を失うこともあるそうです。

そういう時は、水の中でいるのにかかわらず、

「おーいこっちや。こっちへ泳いで来い」

という声が何度も聞こえる。それにつられてそちらに泳いでいくと溺死することになるそうで、

その時は必ず声とは逆の方向に泳ぐと助かる、同僚は話半分にきいていたのですが、

ある時潮目に足を取られ上下左右の感覚も分からない状態になりました。

その時、

「おーい、こっちへ泳いで来ーい」

「おーい、こっちへ泳いで来ーい」

「おーい、こっちへ泳いで来ーい」

その声が聞こえた時思わずそちらに進もうと……しましたが。

その時急に聴かされていた話を思い出し、

反対の方にやみくもに手足を動かしていたら、

「おーい、そっち行くな。こっちへ泳いで来ーい、

みんな待ってるんや」

みんなって?その夜は連れは一人だけ、同僚は確信しました。

絶対そっちではない。

そして二掻きか三搔きするとあっさり岩場に手が触れました。

息も絶え絶えで岸に上がると、連れはまだ岸に上がって来ていません。

連れは二日後泉州のある漁港の岸に水死体で見つかったそうです。

その時、私はふと疑問に思ったのですが、

同僚は、その時漁港関係者や警察に連絡したのかどうかと、

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