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『割のいいバイトがあるんだけどどう?』
繁華街のとあるショットバーでバイトをしてる俺に声を掛けてきたのは教授だった。
教授というのは彼のアダ名…
ホントは助教授らしいんだが、飲み屋のお姉さま方には“教授”と呼ばれてるらしく、俺も店長からそう呼べと言われていた。
どうもそう呼ぶとご機嫌になり、結構お金を落としてくれるらしい…
俺『えっ、どんな仕事ッスか?』
教授『僕の専門は地質学なんだけど、今度フィールドワークで※※島に1泊2日で調査に行くんだ。
それのお手伝い。』
俺『いつですか?』
教授『来週の週末。土曜日の朝に出発。』
俺『でもそういうのって、学生さんと行くんじゃないんですか?』
教授『いつもは、学生を助手として連れて行くんだけど、今回都合が悪いらしくてさ。
他の子を連れて行ってもいいんだけど、過密日程だから慣れてない人だと足手まといになりかねないからね。』
俺『いやいや、僕もそんな事したこと無いですよ。』
教授『したことある人間なんかほとんど居ないよ。』
俺『じゃあなんで僕なんです?』
教授『君は○○学校の学生なんだろ?
じゃあアウトドアでの活動はお手のものだろう?
体力もありそうだしね。』
(なるほど、野外活動を頻繁にやってる俺の学校ならそういう活動には向いてるってことか)
教授『人間には、向き不向きってものがあるだろう。頭のいい人間はそれを活かせばいい。体力のある人間はそれを活かさなきゃ。』
(なんだろ、軽くバカにされてる気分…)
俺『あっ、でも俺、週末はバイト入ってますし…』
教授『マスター。いいかな?』
店長『あぁ、構いませんよ。』
そんなこんなで、俺は“教授”のフィールドワークに付き合うことになった…
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そして出発前日、俺は“教授”に会いに彼の大学に出向いた。
彼の助手である学生が迎えてくれた。
明日からの仕事に持っていくもの。
それを渡された。
かなりの量だ…
俺『これ、全部俺が持っていくの…?』
学生『はい、先生は自分の荷物以外は持たれないので…。資材一式を運ぶのも助手の役目なので…』
俺『そう…なんだ…。君がいつもこれ運んでるんだ…』
確かに、この生徒も体力はありそうだ…
俺『なんか、明日から用事があって行けないんだって?』
学生『あっ…、いや…、その~…』
???
俺『えっ、どうしたの?』
学生『すいません…、先生には内緒にしておいて貰いたいんですけど、ホントは用なんて無いんです』
俺『えっ?』
学生『前回、あの島に行った時に色々とありまして…』
俺『で、行きたくないと…』
学生『すいません‼』
俺『大丈夫、黙っとくから。』
今思えば、このときにもっとこの学生に詳しい話を聞いておけば良かったんだ…
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当日の朝、俺と“教授”は定期船に乗り島に向かった。
定期船と言っても、乗ったのは俺たちだけだった。
島に着き、役所の文庁舎みたいなとこで挨拶を済ませ、手配してあったレンタカーに乗り込む。
島内の色々な場所を回り、崖の下などを見て回る。
その崖にある岩や、地層などを調べるのが仕事らしい…
ひととおり、回ったあと山の中ほどにある駐車場に着く。
教授『ここからは歩きだ。足下の悪いところを移動するんで気を付けて。日が落ちるまでに済ませて帰って来よう。』
まぁ、俺は着いていくしか無いんでそれに従う。
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ホントに深い森…
今度の地層は、山の中なのかな?
なんて思ってた時だった…
教授『おかしいなぁ…、この辺りだと思ったんだけど…』
???
(もしかして迷ったの?)
教授『この辺りに海沿いに降りる道があったはずなんだけど…』
俺『教授、結構日が落ちて来ましたよ…』
教授『そうだなぁ…。予定は狂うけど、今日はここまでにして引き上げようか。』
俺『そうですね。正直結構疲れましたし…』
教授『早く引き帰そう。この辺りは島の端の方だから、周辺に民家もないし、迷ったら大変だ。』
俺『そんな辺鄙な所なんですね。』
教授『まぁ、もともとこの島事態が辺鄙なところだからね。民家なんかはさっき着いた港の周辺にあるだけだ。』
俺『マジですか?』
教授『迷ったら大変だぞ~、ここから港までは車でも30分ぐらいかかるからなぁ。』
(いやいや、笑い事じゃ無いでしょ!大丈夫か?)
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教授『おかしいなぁ… 帰り道は一本道のハズなのに…』
俺『冗談ですよね…?』
教授『・・・』
(うわ~、こいつマジだ。)
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…もうどれくらい時間がたったんだろうけど…
…もう足下も見えなくなってきた…
教授『失敗したなぁ。こんなことならテントでも持ってくれば良かったなぁ…(笑)』
(笑い事じゃねぇよ!何考えてんだ!)
俺『教授、この暗い中を懐中電灯だけで歩くのは危険です。とりあえず少し広いところに出て朝が来るのを待ちませんか?』
教授『熊とか出ないかなぁ…』
俺『熊は大丈夫だと思うんですけど、蛇とかの方が怖いですね。』
教授『嫌だなぁ…』
(それはこっちのセリフだよ…。来るんじゃなかったなぁ)
しばらく歩くと、小さな池のような所に出た。
その横は軽い崖のようになってる。
とりあえず崖の麓に行き、そこで休むことに…
落ちてる枝を集め、火を着ける。
教授『さすがに手際がいいねぇ。君と一緒に来て正解だった。』
(ハイハイ、どうでもいいよそんな事)
とりあえずある程度大きさまで火力を上げる。
『腹が減ったなぁ』
なんて話しをしてるときだった。
?『こんなとこで何をしとる‼』
!!!!!
声のする方に懐中電灯を向けると、そこには腰の曲がったお婆さんがいた。
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道に迷ったことを伝えると、
婆『そりゃ、難儀じゃったの~、こんなとこじゃ危ないから、わしの家に来るがえぇ。すぐ近くじゃから…』
教授『この辺りにお住まいなんですか?
この辺りに民家は無いと聞いていたんですが…』
婆『わしの家だけじゃない、10軒ほどじゃが集落があるわい。』
教授『そうなんですか!助かります。ご迷惑でしょうけどお願いします。』
そんな会話があって、お婆さんのお世話になることに…
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しばらく歩くと確かに集落が…
だけど、どこか不気味な雰囲気…
集落の中央の道路の両脇には松明が一定間隔でこうこうと燃えている…
婆『まぁ、あんたたちも悪いときに来んさった…
今日は葬式があるけぇ、たいしてもてなしも出来ん。飯も食って無かろう?』
教授『いえ、屋根の下で休めるだけでありがたいですから。』
婆『そうじゃ、あんたらも葬式に出りゃぁいい。
そしたら飯にもありつける。』
教授『いや、それはあまりにも失礼ですんで…』
結局、俺たちも葬式に参加することに…
葬式といっても、昼間のうちに式自体は終わってるのか、坊さんもいなかった。
ただ、故人の遺体の前でご飯を食べ、酒をのみ、話しをする。
正直、あまり喉を通らなかった。
遺体を目の前にして食事って…
ボ~ン ボ~ン
壁の時計が鳴った…
その場に居た参列者が一斉に立ち上がる…
どこかに出掛けるようだ…
俺『どこに行くんですか?』
婆『仏さんを海に帰すんじゃ。』
俺『海に?』
婆『全員で見送るしきたりじゃ、あんたらもついてくりゃいい』
まぁ従うしかないよな…
一行は遺体を戸板のようなものに乗せ、行列となって一本道を進んでいく…
婆『今から、家に着くまでは口を聞いてはいけねぇ。しゃべれば一緒に連れていかれる。』
黙って頷く…
道は山を下っていく…
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もうどれくらい歩いただろう?
波の音が聞こえる…
潮の香りがする…
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海に出た…
入り江のような場所…
足下は岩場のようだ…
入り江の向かい側は、崖が見える…
崖の根元… 海と接する場所は洞窟になってるみたいだ…
崖の中ほどに松明が見える…
周りを明るく照らしている…
崖には、岩をくりぬいて仏様が掘ってある…
すごく異様な景色だ…
遺体を担いだ者たちは海に入っていく…
胸まで浸かった所で、戸板ごと海に流す…
遺体はゆっくりと洞窟に向かって流れていく…
洞窟の入口まで来たところで、海の中に沈んで行った…
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これはなんなんだ?
この時代、こんな送り方って有りなのか?
そんな疑問を口に出すこともなく、来た道を引き返す。
お婆さんの家に着き風呂は断り、眠りに着く…
“教授”は一言もしゃべらなかった…
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翌朝、目が覚めた…
身体中が痛い…
それよりもこれはなんだ?
家の中の様子が昨夜と全く違う…
荒れ果てた室内…
蜘蛛の巣だらけの天井…
周りの民家も同じだった…
生活感は全く感じられない…
昨夜周囲を照らしていた松明の形跡もない…
当然のように誰も居ない…
あるのは、数件の廃墟…
俺たちは、ひととおり周囲を見て回ったが、何も見つけることは出来なかった。
教授『よくわからないことになってるが、昨夜のあの場所は素晴らしい!』
俺『はッ?』
教授『私が昨日行こうとしてたのはあの場所だ
前回来たときは山の上からあそこを見つけたんだが下に降りる道を見つけた途端に、不気味な声や物音が聞こえて降りるのを断念したんだ!』
俺『その話し聞いて無いですよ…』
教授『言えば来なかっただろう?』
(そりゃそうだ…)
教授『さぁ、あの場所へ行こう!』
俺『本気ですか? ヤバいんじゃないですか?』
教授『こんな明るいうちからお化けは出ないさ。』
教授『それに私はここからの帰り道を知らない。
ただ、あそこからの帰り道ならわかる。前回途中までは行ってるから!』
これまた従うしかない…
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そこには思ったよりも早くたどり着いた…
昨日松明に照らされて見えたあの景色…
今日は朝日に照らされてはっきりと見える…
ただ…
崖に彫られた仏様なんかどこを探しても見つからなかった…
その下にあったはずの洞窟も…
俺たちの立っている場所から、崖までの距離は20m位。
見落とすはずもない…
教授『そんな馬鹿なことは無い…
何か仕掛けがあるのかも… 』
教授は何度もその崖に向かって石を投げた…
(おい、こいつアホか!何やってんだ…)
教授『駄目か…。よし次に来るときは潜る用意をしてこよう!今回はこれで帰ろう。』
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その後、俺たちは無事に漁港にたどり着いた…
教授は今回の成果をまとめると言って、民宿の部屋にこもった…
俺は納得出来ない疑問を民宿の主人にぶつけた…
あの集落がなんなのか?
あの葬式はなんなのか?
消えた石仏は?
消えた住民は?
その答えはこうだった…
その集落は、何年も前に誰も住むものが居なくなった集落…
最後まであの土地に住んでいたお爺さんは、亡くなってから1週間ぐらいたってる状態で見つかったらしい。
死因は不明…
石仏は誰もその存在を知らなかった…
昔は海に死者を帰すという風習があったらしいということ…
ここまで聞いても、結局よくわからなかった…
そしてその日の夕方、俺と教授はその島を後にした…
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その後、どうなったか俺は知らない…
教授は再びあの地に行ったのか?
あの場所に潜って何かを見つけたのか?
常連だった教授は、ショットバーに2度と来ることはなかった…
教授が消息不明になったと、彼の助手の学生から聞いたのは半年もたった頃だった…
俺の頭の片隅には葬儀の最中にお婆さんの言った言葉が引っ掛かっている…
『この爺さんが最後の1人だから…』
作者烏賊サマ師
初めてのフィクションです。
長くなっちゃいました(^_^;)
途中で飽きちゃうだろうなぁ(^_^;)
読んでくれた人に感謝です(^o^ゞ
#gp2015