注意:(下世話表現有り)
…
駅前にあるその大きな公園は、この地域に住む住人にとっての憩いの場だ。
朝は老人、昼は主婦、夜は酔っ払いorスケベカップル達の溜まり場と言っても過言では無い。
これは夏の深夜の出来事。公園の敷地内に設けられた便所で舎弟分の龍と並び小便を垂らしていると、背後の個室からいきなりその愚音は鳴り響いた。
「ぶりぶり、ブウ!!びちびちぶりぶり、ぷぺっ!!」
「お、おい!くせえぞコラ!!」
ビールと焼酎で酔っ払った龍が、個室のドアに向かって空き缶を投げつける。
「ぷぴっ❤︎」
「くそ!!」
肛門で返事を返してきたソイツに龍はブチ切れてしまい、ガンガンと個室のドアを蹴り始めてしまった。
「さっさと出てこいやこの「糞」野郎が!!」
ガンガンガンガン!!!
しかし個室からの返事はない…
「おい龍、もういいじゃねーか止めとけよ!」
呑みすぎて少し眠たかった俺は、龍の背中を引っ張りながら帰ろうと諭した。
「で、でも兄貴…」
その時…
「ぶぅうう!!ぶぱあ゛ーああ!!!」
有り得ない程の愚爆音がトイレ中に鳴り響いた!
「あ、兄貴!こ、こいつやっぱり完全に俺達をナメてますよ!!」
流石の俺もプチンとこめかみが切れてしまい、たまたまそこに落ちていたバールを使って、その個室のドアを無理矢理にこじ開けてやった!
すると…
そこにはまさかの制服姿の女子高生が鎮座していた。
「あ、あれ?ご、ごめんなさい!」
龍は顔色を変えて後退りをはじめる。
しかし、俺は無表情でこちらを見つめるその女子高生に何か違和感を感じていた…
それはあれ程の爆音を鳴らしておきながらもパンツは下ろしていないし、これといった臭いもないのだ。
「あ、あの、こちらこそごめんなさい。失礼します… 」
彼女は軽く頭を下げた後、俺達の間をすり抜けて便所から出て行ってしまった。
だが、すれ違う時に仄かに香った腐臭… それにスカートの下からポタポタと垂れていた赤い血に俺は気が付いていた。
…
彼女が出て行った後の床には、点々と血の後が残されていた。
「おい龍、見ろよこの血!あの女どっか怪我してんじゃねぇか?」
「うわほんとだ!もしかして「あの日」じゃねーんすか?兄貴w でもあの娘めちゃくちゃ可愛いかったすね!デへへ!」
能天気なアホ面をかます龍とは対照的に、俺は嫌な胸騒ぎをおぼえた。
刹那!!
「ぶぅぶ!!ぶぶぶばぴい…ぶぴぃ!」
突然、もう一つの個室からその愚音は響いた!今にして思えば、ある意味それが始まりの合図だったのかも知れない。
「カランカランカランカラン…カシュカシュカシュ…ンジャパーーー!!カチャカチャ、…ンギィイイーー!!」
「ふう、ちょっと君達!さっきから一体何を騒いでいるんだね? 落ち着いて大便も出来ないな全く!フン!」
なんと、もう一つの個室から背広に身を包んだハゲたオヤジが、強烈な臭気と共に姿を現したのだ。
「龍、後は任せた…」
俺は、黒光りした鉄のバールを龍に手渡し便所を出た。
…
便所を出てから血を流していた女を探してみたのだが、なぜか何処にも見当たらなかった。
いつもは若者がたくさん屯している噴水辺りにも、今日は珍しく人っ子一人いない。
「おっかしいな、アイツどこ行ったんだろ?」
「ビュオオおお!!!」
背後からの急な突風に煽られて、俺はヨタヨタと傍にあったベンチに座り込んだ。
「う、うわあ!ビックリした!!!」
するといつの間に現れたのか、前髪をダランと垂らし俯いた先程のJKが目の前に立っていた。
「痛い痛い痛い…」
JKは脇腹辺りを両手で抑えながら痛い痛いと訴えている。黒髪の隙間から僅かに見える顔はとても青白く、心なしかブルブルと震えている。
「ど、どうした?!」
俺は彼女に駆けより紺色のブレザーを捲った。すると痛いと訴えていた横腹には果物ナイフが根元までグサリと突き刺さっており、白いカッターシャツは真っ赤に染まっていた。
「うわ!大丈夫かよお前?!今すぐ救急車呼んでやるからな!待ってろよ!!」
震える手でポッケから携帯を取り出したが、焦っているからか滑って中々上手く発信が出来ない。
よく見ると俺の両手もJKの血で真っ赤になっていた。
「おい!てかお前!それ誰にヤられたんだよ!?」
「……… 」
その表情は笑っているのか?怒っているのか?それとも泣いているのか?俺の目をただジッと無言で見つめている。
その時俺の電話の画面が光り「女々しくて」の着信音が鳴り響いた。
「だ、誰だよ!もしもし?」
「あっ兄貴?そこで何してんのよ!今すぐにそこを離れて!」
妹の夏美からだった。
「はぁ?お前急に何言ってんだよ?こっちはそれ所じゃねんだよ!もう切るぞ!?」
「だ、ダメだよ!今、兄貴誰かと一緒でしょ?危ないからその人からすぐに離れて!分かった?今すぐにだよ!!」
「離れろ?こいつ一体何言ってん…」
すると、突然物強い力で手首を掴まれた。
…/k#@…$=^…<☆¥…
掠れた声でブツブツと何かを呻くJKに電話を奪われ、俺の開閉式のガラケーは彼女の手によってバキン!と真っ二つに折られてしまった。
「あっ!お、おいてめえ何してくれてんだよこの野郎!!」
ううう悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい…
そう呻きながら俯いていたJKが顔を上げた瞬間、唇の両端からドロリと大量の赤黒い血が顎へと流れ落ちた。
「ひえ!!」
「兄貴いいいーー!!!」
その声に振り向くと、便所の方から全速力で走って来る龍の姿が見えた。
「やべえよ兄貴!あのオヤジ!絶対に頭おかしいよ!うわぁ来た!来た!ひょええええ!!!」
龍はそう叫びながら、俺の背中に隠れた。
「おい龍!何だよしっかりしろよ!何があった?」
しかし、龍は何かに怯えている様で、トイレを指差しながらただガタガタと震えている。
見ると、先ほど便所で会った糞オヤジが全速力でこちらに走って来ていた。手にはあの黒いバールを持っている様だ。
「あ、兄貴!ひゅんません!あ、アイツ、めひゃめひゃ強へえんだひょ!!」
龍の顔をよく見てみると、鼻がグネリと曲がって前歯が全て無くなっていた。
それを見て、JKがフラリと音も無く近寄って来た。
憎い憎い憎い…アイツが憎い…
その目は、既に基地ガイと化したあの糞オヤジを見据えている。
「…憎い?お前あのオヤジが憎いのか?お前アイツと知り合いなのか?」
JKは頷いた。
ダダダダダダ!!
「おいこら糞ガキ共ぉ!今すぐブチ殺してやるからそこで動かずにジッとしてろー!ぶははははは!!!」
オヤジはいとも簡単に鉄のバールをブンブンと振り回し、笑いながら飛び掛かって来た。
「おい姉ちゃん!危ないからちょっと離れてろ!!」
俺はポッケから特殊警棒を素早く取り出すと、出会い頭に超カウンターでオヤジの右膝の皿をぶち割ってやった。
「うぎゃっほほう!!!」
オヤジはもんどり打って倒れた。
俺は、すかさずそのまま寝技に持ち込み、両肩両足の関節を外し、大腿骨、恥骨、鎖骨…そして全ての指の骨を念入りに警棒で叩き割ってやった。
…
「うぅ痛てぇ…骨が…骨が痛ええよう…俺が悪かっよ、助けてくれよう…うう… 」
あれ程強気だったオヤジが、骨を折られたショックで戦意喪失状態になり、大の字になって子供の様に駄々をこねながら泣いている。
「もう大丈夫だ、これでこいつは動けねえ!」
するとJKは、オヤジの顔面をガン!と右足で踏みつけてこう言った。
「コイツが殺したのよ…私のママも…パパも弟も…私もね!悔しい悔しい!!!」
「えっ殺した?ど、どういう事だよそれ? えっ?お前ってもしかしてもう死んでんのか? 嘘だろおい… 」
ビュオオおお!!
すると、本日二度目の激しい突風が辺りに吹きすさび、バサァ!と龍の顔面に数枚の新聞紙が張り付いた。
「あ、兄貴!ちょっとこの記事見て下さい!!」
龍から新聞を奪い取り、二面の見出しを見た俺は愕然としてしまった。
『 恨みの犯行か?一家惨殺!容疑者は未だ逮捕されずに逃亡中!』
被害者の白黒写真は紛れもなく、今ここにいるJK本人だった。俺はその瞬間、今までの全てを理解した。
「お、お前これ…」
彼女はコクリと頷いた後、表情は先程までとは違う穏やかな笑顔へと変わった。
ありがとう
彼女は確かにそう言った。
そして彼女はもう1人では無かった。
俺は一瞬、見間違いかと思い目をゴシゴシと擦ってみたが、どうやらそれは幻覚では無かった。
彼女を中心として両側から肩を抱く中年男性と中年女性。そして年端もいかない野球帽を被った幼い少年の姿…
4人共、とても満たされた穏やかな表情で真っ直ぐに俺を見つめていた。
ぷう❤︎
その愚音が、感動的で神秘的なエンディングの静寂を、一瞬にして切り裂いた。
「てめえらこれで終わったと思うなよ…絶対に許さん!俺をここまでコケにしてくれた償いは必ずして貰うぞ!こ、殺してやる…殺してやる!!!」
糞オヤジが、肛門で最後の悪足掻きを見せて来た。
「……… 」
俺はJK家族とアイコンタクトを取った後、二度と口が聞けない程のキツいトドメを刺した事は言うまでも無いだろう。
…
数分後、赤いサイレンと共に夏美達が現れた時にはもう家族の姿はどこにも無く、少年が被っていたカープの野球帽が気絶したオヤジの頭の上に落ちているだけだった。
…
俺はため息を1つ吐き、何かこの胸に痞える複雑な気持ちを整理する為に、夜空を見上げた。
「…Fカップはあったな」
4羽の大きなコウモリ達が、電柱と電柱の間を忙しなく行き来している。
「…惜しい女を亡くしたな」
俺の魂の叫びは。
誰にも届く事はないだろう…
【了】
作者ロビンⓂ︎
この話も過去の復刻版の一つです。下品な描写の数々、本当に申し訳ない!…ひひ…