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大学2年生の時のこと。季節は冬
ここは、K県Y峠
夜景が綺麗なことから、カップルから人気のあるデートスポット
けれど、もう一つ、別の顔がある。
実は「心霊スポット」としても、有名である。
お決まりの「私」と彼氏の「Hさん」は、夜景を楽しむ為に来たのとは、少し違う目的で来た。
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Hさんは一度、友達とこの峠に来たことがあり、その時に鹿を見たというので、私は「鹿を見たい」と言い出し、まだY峠に行ったことがない私には丁度良い機会だと考え、Hさんはついでに夜景も見ようとY峠へ連れ出してくれた。
整備された道とはいえ、険しい。
走り屋の人達が好んで使う理由も分かる。カーブがキツい分、運転のテクニックやスピード競争などにも使われる。アニメの◯文字Dに取り上げられるのも分かる。
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険しい道を乗り越えると、駐車スペースがあり、そこから夜景を見れる。
カップルで夜景を見るという行為自体、初めてであり、緊張しつつも、テンションが上がっていた。
私:「わぁ〜…」
H:「夜景は、初めて?」
私:「うん!(^^)」
H:「そうか(^^)」
夜景は綺麗だった。まるで、蛍の群れを見ているような気分だった。
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夜景を十分堪能した後、車に戻り、お目当ての鹿を見に行った。
多くの登り坂があり、クネクネと曲がる。
ふと気付いた。
山が「閉ざされている」ことに。
夜だからかもしれない。けれど、何というか…山に歓迎されてない気がするのだ。
ちょうどその頃からか、山の中の雰囲気がざわつき始めた。
何か、見られているような…品定めされているような…そんな嫌な視線を感じた。
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結局、お目当ての鹿は見つからず、そのまま下って帰ることに。
長らく道を下ると、小さな橋が見えた。
標識に「◯◯橋」と書いてある。
何気なしに私は「◯◯橋〜」と呟いた。
そうしてそこから小さい橋がいくつもあり、私はその橋の名前を順番に呟いていく。
途中にトンネルがありそのトンネルを通る。
また、橋の名前を呟きながら、真っ暗闇の進行方向を見つめる。
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すると、もう一つのトンネルが見え、そこを通る。
H:「あれ?」
私:「どうしたの?」
H:「トンネル、一つしかなかった筈なのに…」
私:「え………?嘘でしょ?」
H:「…もしかしたら、俺の思い違いかもしれない。けど、友達と来た時には、トンネルは一つだけ通ったんだよ。」
私:「じゃあ……今、私達が通ってるトンネルって、何?」
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彼は無言でスピードを上げる。
トンネルは通り過ぎて、また元のクネクネした坂を下っている。
蛇のようにずっと蛇行しながら、下へ下へと進む。
すると、彼が話し出した。
H:「おかしい。ここは、こんなに長く下る場所じゃない。」
私:「そうなの?」
H:「あぁ、この道は別の道かもしれないけど、どう考えても、2時間はかかり過ぎてる。」
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確かにそうだ。
私達が夜景を見れる場所に着いたのは、8時30分から9時の間くらい。今は11時近い。
確かにおかしい。
すると、また小さな橋が見え、△△橋とあり、名前を呟いた。
また次の橋、次の橋、次の橋…
順番に呟いていくと、妙な名前の橋があった。
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「地獄沢橋」とあり、呟いた。
その橋を通り過ぎた後、彼は、仕切りに車の窓のロックやドアのロックを気にし始め、ミラー越しに後ろを見て、スピードを上げた。
私:「ねぇ…もしかして…」
H:「今、俺たちはちょっとヤバいかもしれない。」
私:「どうして?」
H:「囲まれた。」
私:「え…?」
H:「牡丹、窓の外を見るな。これ被ってろ。」
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渡されたのは、上着と膝掛け
これを頭から被れとのことだった。
私:「なんで?」
H:「いいから」
彼は、ある音楽をかけ始める。
◯飢魔IIのお前も△△にしてやろうか〜‼︎のあの歌をかけ始めた。
彼がこれをかけ始めたということは、彼が本気の力を使う準備をして、気張っている時なのだ。
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急いで膝掛けと上着を被る。
私が知ってる彼ではなく、別の彼がそこにいた。
表情がガラリと変わり、眉間に皺を寄せている。
言われた通りに被ると、車体が揺れ始めた。
車はスピードを上げ、更に揺れる。
しばらくすると、車内の空気が急速に冷え込み、彼はしきりに私を呼んだ。
H:「牡丹、大丈夫ー?」
私:「うん。」
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H:「牡丹ー」
私:「なにー?」
H:「もうちょっと待っててなー」
私:「はーい」
H:「牡丹ー」
私:「…なにー?」
H:「苦しい?」
私:「ん、大丈夫…」
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何でしきりに私を呼ぶんだろう?
何かあるんだろうか?
いや、何かあるに違いない。そう考えていた。
車体の揺れが段々少なくなり、考えているのも束の間、何やら光が入り込んできた。
外灯である。だが、峠はまだ抜けていない。
さっきよりも息が苦しくなっているけど、我慢するしかない。
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H:「牡丹ー」
私:「……」
H:「牡丹ー」
私:「!なに?」
H:「もう少しで峠抜けるから、頑張って」
私:「うん…」
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どれくらい経っただろう…。ずっと上着と膝掛けを被っているから分からない。かなりの時間、車で走っていた。車が1台2台とすれ違い、灯りもある道路に出た。
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H:「もういいよ、取って」
私:「うん…」
上着と膝掛けを取ると、あの冷たい空気はなくなっており、普通になっていた。
新鮮な空気を吸い込み、少し背もたれに寄りかかる。
H:「大丈夫か?ごめん、苦しかったでしょ?」
私:「大丈夫…」
H:「顔、赤くして…。相当苦しかったんじゃない?」
私:「……うん。」
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何処かで休むことになり、コンビニを見かけたのでそこで休むことになった。
飲み物と熱冷ましのアイスを口にして、少し休憩
私:「何だったんだろうね、さっきのやつ。」
H:「明日、Y(※蟲〜解〜参照)に聞いてみる。」
そうして、私達は帰った。
時刻は、午前2時を過ぎていた。
Y峠に行ってから5時間経っており、何故こんなに時間が経っているのか、戸惑った。
それだけではなく、車を降りた時、後ろの車窓を見たら、べったりと手形がたくさんついていた。
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〜数日後〜
Yさんからの連絡があったことを彼は告げた。内容は、私が橋の名前を順番に呟いたことがキッカケで、「別の道」への扉が開いたという。あらゆる条件が揃わないと、まずそういうことにはならない。今回は私にも原因があるとのことで、少しお咎めを受けた。
長い下り坂だったのは、もう一つのトンネル自体が「別の道」への入り口だったからだ。
時間のズレが生じたのは、別の道が存在している空間の時間の流れからくるものだった。
彼が私に上着と膝掛けを被れと言ったのは、私が見てはいけないモノを見て、怯えないようにする為。もし見たら怯えて、更に呼び寄せて私の中に入り込んでしまう可能性があるから。頻繁に私を呼んだのは、車の中にまで入り込み、私に触れようとしたからであった。呼びかけに反応がある度に守ってくれたのだ。
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後日、来た道を通ったが、前のような現象は起こらなかった。
小さな橋も来た道に沿って行ったが、時間は1時間から1時半弱で、その間に通ったトンネルは一つだけだった。
そして「地獄沢橋」という名前の橋は、見当たらなかった。
作者退会会員
こんばんは。
心霊スポットに行ったことありますか?
気軽に、行っちゃダメですよ。