出迎えてくれたのは中年の女性だ。
「いらっしゃい。妹ちゃんから話は聞いてるわ。赤ちゃんも眠ってるし先ずは寝かせてあげて。あなたの話はそれから聞くわね。」
子共を敷いてもらったお布団に寝かせ、別部屋で隣家のことと自分が見たものを話した。
先生(本人は名前で構わないと言ってくれたが、舌を噛みそうな珍しい名だった為妹と同じく先生と呼ぶ事に)は私の目を見つつも、別の事を考えているようだった。
そして分かった事を教えてくれた。
「貴方や妹ちゃんが見たのは、おばあちゃん本人よ」
「私が見たのはもっと若い女性でしたよ?」
「正確にいうと…おばあちゃんの嫉み怨みの塊ね。人って強い怨み辛みを持つと思っても無い事をしてしまうから…可哀想に、その方は天国には行けないわ。」
「始まりは、彼女が若い頃…つまり貴方達が見たくらいの年齢時にご家族に対して持ったものだった。あの方の家族は生きてらっしゃるわ。でも、あんなのがいたら視えなくても側になんていたくないでしょうね…それで、本人の意志関係無く徐々に良くないものが大きくなって…おばあちゃんが亡って怨み嫉が独り歩きしてる。貴方が羨ましくて、側に行きたいみたい。」
「びどい!私が何したっていうの!」
「落ち着いて聞いて。あれは言わば残留思念よ、幽霊のようには払えないの。ほっといても膨らんだ風船が萎むように小さくなって消えてしまう。膨らましてた本人が亡くなったからね。でも、それまでが厄介よ。引越しても逃げられない、貴方本人に目を付けてるみたいだから。」
「私はこの家から離れられないから、やり方を教えるわね。」そう言って私にお札を渡してくれた。
「これを必ず全部屋に貼ってね、その女が貴方を見れなくなるわ。後は私が引き継ぐから、それが終わる迄外に出ては駄目。」
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私達は自宅に帰ると、早速お札を貼って回った。主人に電話で事情を話し、当分ビジネスホテルに泊まるようお願いした。子供は預けるには幼すぎるので一緒に。
妹は家に泊り込みで、私が行けない買物等をしてくれた。とても助かったし、何より心強い。
「一戸建てを持てた気分!」
とはしゃいでいたが、たまにあの女が窓から私を探しているのが視えるらしい。
それも段々頻度が減って、1週間後には妹の携帯に先生から連絡が来た。
先生は引き継ぐと言っていたが、どういう事なのだろう。
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暫くたって、おばあちゃんの娘と名乗る女性が挨拶に来た。遠方に住んでいたが、隣家の整理等しに来たらしい。お騒がせし申し訳ないと言う。
至って普通の女性だ。
私は女性に話がある、と引き止め家にあがってもらった。
女性は戸惑ってる様子だったが、私は信じて貰えない事覚悟で、今までの恐ろしい出来事を話した。
何故自分があんな目に遭ったのか知りたくての行動だ。
女性は暫く下を向いていたが、こう話してくれた……
「貴方の話は信じます。私が幼い頃、両親は仲が良かった。大手企業に勤め優しい父とお嬢様育ちのおっとりな母。でも父が浮気をし母と大喧嘩した事があった。一方的に激しく父をなじる母を見て、幼かった私は意味も分からず父の味方をしてしまった…次の日朝起きると、母は昨日の事が無かったかのような穏やかだった。それ以来喧嘩も無く普通の日常だったが、私が家に帰ると時々母の口端に血が付いてる事があった。飼ってもいない猫の毛が落ちてる事も…
探し物があって母の箪笥を開けた時、父の名が描かれたり○ちゃん人形が出て来た、画鋲が全体に刺してあって、母は未だ父を許してないと感じた…母といるのが苦痛になって大学生になると家を出て疎遠になった。父はあの喧嘩以来ほとんど家に帰って来ず、私達家族は生きてるのに、ばらばらだった。」
「今日家を整理して驚いた、1階は母の私物で埋まっていたが2階は家具が置いてあるのみ、未使用の家具のようだった。もしかしたら…私と父の部屋用に空けていたのかも…」
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あのおばあちゃんは、根っからの悪人では無いと思う。
それでも、一度深く人を怨みすぎて人生の歯車が狂ってしまった。
同じ女性として、母としておばあちゃんには深く同情している。
先生は行き着くのは地獄と行ってたが、私はおばあちゃんが天国に行ける事を今は強く願っている。
作者アプリコット
勝手に②を作りましたが、読んで頂き本当にありがとうございます☺︎