これは、妹の夏美がまだ小学校低学年だった頃の話だ。
既に友達には見えない物が視えている事に気づいていた夏美は、その日も公園に居るはずの無い少年を眺めていた。
その少年はひたすらすべり台を登っては降り登っては降りを繰り返している。
時折、こちらをチラ見してくる少年に根負けし、「しょうがない一緒に遊んでやるかぁ…」と思った時、背後から夏美を呼び止める声があった。
「お嬢ちゃんそっちに行ってはならん… あの子に情をかけるとお嬢ちゃんの家族が悲しむ事になるからのぉ」
振り返ると、優しそうな顔をしたお婆ちゃんが夏美の手を握りながら微笑んでいた。
「夏美ぃもうすぐ出来るよ~」
砂場で遊ぶ双子の妹、美菜の声に振り向くと、そのすぐ後ろにあの少年が立っていた。
少年は両手を伸ばして美菜の首元に触れようとしている。
「ほら、アッチさいけーー!!」
お婆ちゃんが叫んだ。
「ほれ、お前はこっちさ来ては行けねーんだがぁ、はよ母ちゃん所に帰ぇれー」
美菜はお婆ちゃんの声も少年の存在にも気付いていない様子で、黙々と砂山作りに夢中になっている。
お婆ちゃんは夏美の手を強く握りながら言った。
「ほらの…相手にしたらいけん。あの子らは視えとる相手がちゃんと分かっとるよってにの…」
そう言うとお婆ちゃんは笑顔のままスウと消え、砂場にいた少年もいつの間にか消えていた。
これが多分、夏美が初めて「霊」をはっきりと意識した瞬間だった。
夏美の手に残ったお婆ちゃんの温もりは、その日の夜まで残っていたそうだ…
【了】
作者ロビンⓂ︎
妹、夏美の話が多いですが、決してシスコンでは無いのでどうぞご安心を…ひひ…