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久しぶりの投稿…
俺が学生時代の話し…
前にも書いたように、俺の通う学校はキャンプなんかの野外活動を頻繁に行う学校だった…
その時も、夏休みの小学生を引率しての海釣りキャンプに2泊3日で瀬戸内海に浮かぶ島に行っていた…
島に着いたのは正午前だった…
船を降りて、キャンプ場となる野営地に向かっていた…
(あ~、なんか居るね…)
野営地の入り口近くの小高い丘…
そこには、古めかしい祠がある…
その祠に向かう石段の登り口…
一人の男が座ってる…
歴史の教科書で見かけたような姿…
琵琶法師って言うのかな?
頭はスキンヘッド、手元には琵琶らしき楽器を持って、目を閉じて朗々と唄ってる…
唄っていうか、浪曲? 詩吟?
とにかく、時にはボソボソと、時には叫ぶような大声で…
とりあえず害はなさそうなのでほっておく…
野営地に着き、まずはテントの設営…
その後、自己紹介を兼ねたオリエンテーリングを済ませると魚を採るための仕掛けづくり体験…
仕掛けと言っても、ペットボトルを切り貼りするだけの簡単なもの。
それを海に沈めて、翌朝まで放置しておく。
その後は自然観察、ネイチャーゲームと初日の予定を消化していく。
その間もずっと、彼の唄は聴こえている…
絶え間なく延々と…
周りの小学生やスタッフ仲間には聴こえてないようだ…
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ひととおり行事を終え、夕食の時間。
食事を終えると、キャンプ恒例の怪談ばなし…
子供達は話しを聞きながら、
『怖~い!』
とか
『もうトイレに行けない~!』
なんて騒いでる…
そんなことよりもすぐ近くに居るよ…本物が…
なんてことは言えるはずもなく、心の中でつぶやく…
そんな時間を過ごし、子供達を寝かしつける時間…
それを済ませると、今度はスタッフミーティング…
ミーティング中も、彼の唄はずっと聴こえてくる…
うるさい…
もはや、ミーティングにも集中出来ない…
憎き頼朝がどうのこうの…
大相国様の無念をどうのこうの…
俺もさすがにイライラしてくる…
ミーティングを終え、眠りにつこうと横になる…
キャンプの朝は早い…
子供達は6時起床。
我々スタッフは、下準備のために5時起床…
(早く寝よう…)
(うるさい…)
(寝れやしない…)
俺は起き上がり、タバコを手にする…
「どうした?トイレ?」
スタッフ仲間に声をかけられる…
「お~、ついでにタバコ吸ってくるわ」
と嘘をつく…
「風があるみたいだから、火の始末気をつけて」
とスタッフ仲間…
「お~、わかってる…」
そう言って、外に出る…
(風なんか吹いちゃいない…)
周りの奴等には、彼の唄が風に聴こえてるようだ…
タバコに火を着けながら、彼のところに向かう…
近づくほどに、肌がピリピリしてくる…
まるで、全身に静電気を浴びてる感覚…
やはり彼は石段に居た…
相変わらず、目を閉じて唄ってる…
「なぁ、うるさくて寝れんのんだけど…』
・・・
・・・
「おい、無視すんなや、聞こえてンだろ」
・・・
・・・
「なぁ、あんた1日中こんなことして楽しいか?こっちからしたら迷惑以外の何物でもないぞ!」
俺の口調も少しずつ荒くなる…
「おい、聞いてンだろ! 無視すんなや!」
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『うるさ~い!』
・・・
キレやがった…
「はぁ!なにがうるさいじゃあ!そりゃこっちのセリフじゃ!ってかお前目ぇ見えとんか?ほっそい目ぇつむっとるから、盲目かと思っとったわ!」
こっちもキレた…
さらにまくし立てる…
「お前さっきから聴いとると、平家側の人間か?ここは平家になんか縁のある土地なんか?どっちにしろこんなとこでなんぼ声を張り上げても誰にも聴こえて無いんじゃ!このボケぇ!」
あっけにとられたような顔で俺を見てやがる…
「なんじゃこら!その有るんか無いんかよくわからんほっそい目で何見とんじゃ!とにかく唄うんならよそでやれ!俺がこの島におる間は黙っとけ!わかったか!」
何か言おうとして口を開こうとしてる…
「わかったかって聞いとんじゃ!返事ぐらいせぇや!」
奴の言葉をさえぎる…
黙って頷いてきた…
「わかりゃエエわい!」
そう言い残してその場を後にした…
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翌朝まで奴の唄が聴こえることはなかった…
(どっかに行ったかな?)
そう思い、例の場所へ向かう…
居た…
同じ場所で、黙って目を閉じている…
(寝てんのか?)
近づいてみる…
彼は目を閉じたまま深々と頭を下げた…
(悪いことしたかな… 言い過ぎたか…)
少し罪悪感を感じた俺は、朝御飯の残りでおにぎりを2つ握り、彼のところに持って行き、
「よかったら食って。」
そう言って石段に置く…
彼はまた深々と頭を下げた…
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それからキャンプが終わるまで奴の唄が聴こえることはなかった…
いつも所定の位置に座っているのだけど…
日程を全て終え、帰るとき彼に声をかけた…
「悪かったな、もう帰るから唄ってもいいよ。ありがとな」
そう言って船に向かった…
船に乗り込んだ時、彼の唄声が聴こえ始めた…
作者烏賊サマ師
夏も終わりなので、ライトな話です。
嘘のような話ですが、実話です。
おにぎりを食べたかどうかは知りませんが、昼頃にはもうありませんでした。
お化けもご飯食えるのかな?