私の兄から聞いた話です。これは貴重な体験をしたなー、と思いました。
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15年ほど前の9月某日、兄とその連れ達4人でちょいと離れた温泉旅館に泊まった時の話。
その連れ達は高校からの付き合いで、丁度皆んなの都合が会い、旅行に行く事になったと。
皆んなヤローばっかですがね!笑
で、地元から旅館まで車で4時間程かかるので その途中で休憩を何度か入れたそうです。
その休憩の度に兄が「なんかステレオと違う音が聞こえ出した…」と言うのです。
その旅館に近づくにつれて言葉数が増えてきたと。
初めは「…ち…つ…た…な」と若い男の声が聞こえて来て、旅館に着いた時には「長月の……な」までハッキリと兄の耳元で聞こえて来たそうです。
ステレオを消しても止まず、2〜3分おきに繰り返し聞こえたと。
もう、わけわからんとか思いながらも無視し旅館に到着。
連れは前からの兄の「体験」を知っているので「おい!k男!また、怖がらせようと思ってからに!」と少し怖いのか、冗談と本気を混ぜた言葉を連呼しながら旅館に入ったと。
しかし、当の本人は至って本気。
「あー、また始まったとか思ってんだろ?これ、マジだから。聞こえないやついいなー。」と。最後尾のk男兄が旅館に一歩踏み入れた瞬間、真後ろから「長月の月がみたかったんだよ!!」
と大きな声で怒鳴られ、「うわっ!」と、咄嗟に振り向くが誰も居ない……。
「おいおい!!k男、役者やのー。そんな事せんでよかよ!」と冗談混じりで連れが言ったと同時にk男兄は分かったんだと。
よく見ると、旅館の玄関口の右側に兵隊姿のキリリとした男の人の写真が掛けてあるのがみえた。それを見てすかさずk男は出迎えてくれた女将さんに「すみませんが、この写真の方は戦争で亡くなられた方ですか?」と聞くと、女将さん「そうです。私の祖父が戦争で亡くなりました。特攻隊に居ましたので、招集が掛かれば もう戻れないと祖母には言っていたそうです…。」
「それは八月の事ですか?」と尋ねると女将さん「そうです。昭和20年八月三日の事です。よくお分かりに…」
k男「此処に向かう前から声が聞こえて来たんです。おそらくですが、貴方のお祖父さんが私に聞いて貰いたくて 長月の月がみたかった。と、おっしゃっていますが…」と言うと女将さん「あ!!毎年、九月になったら祖父の遺影の向いに「月」の写真を飾るんですが、此処のところ忙しくて忘れておりました。」だって。
そして、お祖母さんの元に届いたお祖父さんの最後の手紙にはこう書いてあったという…。
「志半ばで有るが、お国の為行かなくてはなりません。◯子【女将さんの母上】の事はよろしく頼む。
せめて、長月の月まで見たかったが。
昭和二十年 八月一日
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それから女将さんの母上は毎年、九月になるとお祖父さんの遺影の向いに長月の月の写真を飾っていたと。その後は女将さんが引き継ぎ、やっていたがここ最近の忙しさに負けて 忘れていたそうです。
k男「無理にとは言いませんが、仏壇か何かあるのならば 線香など挙げさせていただけますか?」と聞くと、「それはそれは!ありがとうございます!祖父も喜ぶと思いますのでよろしくお願いします!」と、仏間に案内される途中、k男「来たいやつだけ、来たらいいよ」と言うと、全員来たそうで皆んなで参ったそうです。
この方達のお陰で、今の私達が有ると言う事。
人が 忘れてはならないのがそういう所なのでは無いのかと思いました。
作者マコさん