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「明日のデート、楽しみにしてるからね♡」
彩花からのラインに、思わず顔がほころぶ。
僕と彩花は明日の日曜日で付きあって1年になる。
その日曜日に、大きな花火大会が予定されている。
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僕は前々から1年の記念に、彩花と一万発の花火を見に行こうと決めていた。
まだ彩花には、どこにデートに行くのか言ってないが、色んなイベント事に敏感な彼女だ。
きっともうなんとなく予測は付いているはずだ。
だけど僕の用意したメインイベントは、花火大会の後だ。
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先日購入しておいたプレゼントの入った小さな箱を、そっと撫でる。
以前一緒にペアリングを購入した事もあり、サイズも間違いない。
僕ははやる気持ちを抑えるように、早めに寝る事にした。
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〜♫
早朝、着信音で目が醒めた。
枕元の時計を見ると、まだ午前6時半。
今日は1日デートを予定してはいるが、約束の時間にはまだ全然早い。
「誰だ?こんな時間に。。。」
僕は見慣れぬ番号からの電話を取った。
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「もしもし。。。」
『もしもし、浩明さんの電話でしょうか?』
「はい。。そうですが。。。」
『朝早くごめんなさいね。彩花の母です。実は。。。』
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僕は真っ白になった頭のまま、病院へと車を走らせていた。
そんな。。。なんで。。。
彩花のお母さんは、電話口で震える声で
『今朝早く、病院から電話があって。。。
彩花のアパートの下の階で、火事が起きたらしくて。。。っ』
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そこまで言うと、声を殺して泣いていた。
泣いていて話のできないお母さんから、かろうじて病院の名前を聞き出すと、
僕は部屋から飛び出していた。
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病院へ着き、受付で彼女の名前を告げると、集中治療室にいると告げられた。
急ぎ足で向かいながら、嫌な予感が拭えない。
集中治療室の前の通路に着くと、彩花のお母さんとお父さんが僕の足音にこちらを向いた。
どちらも憔悴しきった顔をしている。
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『浩明君、来てくれてありがとう。。。』
お父さんがゆっくりと頭を下げる。
「彩花さんは。。。」
僕の言葉に、二人とも無言のまま集中治療室の方を向いた。
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窓ガラスの向こうに、体中に包帯を巻かれ、あちこち管で繋がれた彩花がいた。
「彩花。。。」
僕やご両親の前を、慌ただしく看護士が行き来する。
医師や看護士の様子を見れば、かなり危険な状態なのは容易に予想がついた。
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時折、お母さんの啜り泣く声や、お父さんの押し殺した嗚咽が聞こえてくる。
僕は、泣いていなかった。
ただ、現実味がなかった。
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ゆうべラインで話したじゃないか。
明日のデート楽しみにしてるねって、言ってたじゃないか。
一昨日は電話で話したよな?
僕にはわからないよ。
なんで。。。なんでキミがこんな。。。
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どれだけの時間を、そこでそうしていただろうか。
集中治療室から出てきた医師が、お父さんに何かを言っている。
手を、尽くしましたが。。。?
なんだよそれ。
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お母さんがその場に泣き崩れた。お父さんはお母さんの肩を抱きしめている。
僕は、フラフラと彩花のそばへと近づいていった。
体中包帯と管だらけで、可愛かった僕の彩花は、そこに眠っていた。
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そう。
眠っているようだった。
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僕は放心状態で、その後、ご両親とどんな会話をして、どうやって帰ったのかもわからない状態で、気付くと自分の部屋にいた。
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「彩花、今日は、大切な日だったんだ。。。彩花。。。」
僕はうわ言のように彩花の名前を呼んでいたが、
ふと、あのプレゼントの箱を見るといても立ってもいられなくなり、
箱を握りしめ、車に乗り込んだ。
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時刻は午後6時半。
もうすぐ、花火大会が始まる時間だ。
僕は花火大会の会場へと車を走らせた。
会場に着き、受付でチケットを2枚渡す。
チケットに書かれていた指定席へと向かい、その1つに腰をおろした。
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午後7時。
アナウンスと共に、最初の花火がうち上がる。
流れるように、次々とうち上がる花火。
「彩花、綺麗だな。。。」
僕は自然に声に出していた。
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『ホントだね』
僕は弾かれたように、彩花が座るはずの席を見た。
そこには、浴衣に身を包み、髪の毛を綺麗に結った彩花が、
うっとりと花火を見上げていた。
僕は、それから何も言わず、いないはずの彩花と、一万発の花火を眺めていた。
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3尺玉や2尺玉、1尺玉の大きな花が夜空を飾るたび、
『わぁー!!綺麗!!』
『浩明!見て見て!すごいね!』
と、変わらぬ様子ではしゃぐ彩花。
本当に、生きているように。。。
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「彩花」
僕は意を決して彩花を呼んだ。
『。。。なぁに?』
「彩花に、渡したいものがあるんだ」
『ふふ、どうしたの?改まって』
「今日は、僕達付き合ってちょうど1年だ。覚えてる?」
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『もちろんよ!忘れるわけないじゃない。ふふ、でも浩明、覚えててくれたんだね。ありがとう』
「もちろんさ。花火は、僕達1年の記念。
そしてこれは、これからも、僕達がずっと一緒にいる為の、記念。
受け取ってくれるよね?」
僕は持ってきていた小さな箱を彩花の目の前に差し出した。
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『っ!!』
彩花の大きな瞳が、ひときわ大きく見開かれ、僕を見つめる。
ああ。。。
これが現実ではないなんて。
こんなにも、キミは何も変わらないのに。
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「受け取ってくれるよね?」
僕はもう一度聞いた。
しばらくの沈黙の後、彩花は震える声で絞りだすように話し始めた。
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『浩明、ありがとう。。。
すごく嬉しい。今日の花火も、この指輪も。
もっともっと生きていたかった。浩明のそばにいたかった。
でも。。。
ごめんね浩明、私はもういないの。わかるでしょ?』
彩花の瞳は濡れていた。
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「わかってる。でも、僕の嫁になる人は、彩花しかいないんだ。これを、受け取ってくれ。受け取ってくれるだけで、それだけでいいんだ。」
僕も泣いていた。
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『浩明。。。私浩明に出逢えてよかった。
こんな形でお別れするなんて思ってもみなかったけど、
でも、私幸せだよ?幸せだったよ。
だからね、浩明。。。』
彩花がそっと僕の手に手を重ねる。
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キラキラと花火の火の粉のような光が、彩花を包んでいる。
彩花の体が、薄くなり始めている。
「っ!彩花!僕はっ。。。!」
『。。。浩明。。。』
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『私はもうじゅうぶん幸せだった。
今度は、浩明が幸せになる番。
私祈ってるから。浩明。。。
浩明が幸せになってくれないと、私成仏できないよ?』
「彩花!まだもう少し!もう少しだけ!!」
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一万発の花火のフィナーレなのか、ラストスパートのように次々と連続で花火がうち上がる。
彩花はその最後の打ち上げ花火と一緒に輝きながら、もう、その姿を消そうとしていた。
shake
[[ドンッ!!]]
ひときわ大きな花火が、そのラストを飾りながら消えていく。
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彩花の姿も、その花火と共に、スゥッと消えていった。
ただ、最後にメッセージを残して。
『浩明。。。私の分まで。。。幸せになって。。。』
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FIN
作者まりか
何度やってもエラー出て送信できない。。。(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
5回チャレンジしてやっと送信できました_| ̄|○
今回は悲しいフィクションです。
すこしでも伝わったでしょうか。
最後までお読みくださった皆様、ありがとうございました┏○ペコッ
また画像をお借りしてます。ありがとうございます。