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「なぁ、病院って色々と起こるっていうやん?お前んとこなんかそんな話し無いの?」
キッチンで洗い物をしてる彼女に聞いた…
彼女の名前は葵…
この辺りでは一番大きな総合病院に勤務する看護士だ…
「怖い系の話し?それなら…」
色々と噂はあるんだけど…
そう言いながら、葵はコーヒーを俺の前に置き、向かいの椅子に座る…
「今、体験中の話しがあるんだけど…」
そう言って話し始めた…
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今の病院で働き始めた時の話し…
初めての夜勤の時だった…
その夜は、かなり忙しかった…
連続してナースコールが鳴った…
どれも特に緊急性のあるものでは無かった…
氷枕が冷たくないから変えてくれ
鼻血が出たから綿球くれ
とか…
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一段落ついて、時計を見る…
深夜の1時半を過ぎたところだった…
ナースセンターには先輩ナースと二人きり…
『結構忙しいですね… 夜勤っていつもこんな感じですか?』
声をかける…
「う~ン、今日は忙しい方かな… でももっと忙しい日もあるし、全くコールが鳴らない日もあるし…」
そんな会話をしてる時だった…
またナースコールが鳴り響く…
先輩ナースは鳴っている部屋を表示しているボックスの前に行き、コールを切る……
普通なら、
「どうかしましたか?」
とか
「今、行きます。」
って言うものだが、この時は違った…
普通に会話の続きを始めた…
『今、ナースコールありましたよね?行かなくていいんですか?』
「あぁ、もう一回鳴ってからで大丈夫…」
『はぁ…』
しばらくすると、またナースコール…
先輩ナースはボックスにチラッと目をやり、
「ごめん、そこのコップにお茶入れてくれる?」
『あっ、はい…』
いつの間にか、カウンターの上にコップが置いてある…
先輩は何も言わずにコールを切る…
「行くよ… お茶持ってね…」
黙って頷く…
先輩について歩き、向かったのはある大部屋…
四人部屋だが、今は二人しかいない…
二つは空きベッド…
そのうちの1つ、入って左側の廊下側のカーテンを開ける…
(あれ?ここは空きベッドじゃないの?)
やはりベッドには誰も居ない…
「そのお茶、そこに置いてくれる。」
黙って従う…
先輩の方に目をやると、ベッドに向かい手を合わせていた…
慌ててそれを真似る…
カーテンを閉め、ナースセンターに帰る…
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『あれって…?』
聞こうと口を開くと、
「ビックリしたよね。誰も最初は驚くの、私もそうだった。」
「私の勤務する前の話だから、出会ったこと無いんだけど、あそこにはあるおじいちゃんが入院してたんだって。」
「とてもやさしい人で看護士も他の患者さんもそのおじいちゃんと話しをするのが大好きだったんだって」
「でも、ある夜に急変してね。亡くなっちゃったらしいの。それがあの時間…」
「それ以来、あの時間にナースコールがなるとお茶を持っていって手を合わせるってわけ…」
「そうすると、その日のおじいちゃんからのナースコールは鳴らなくなる。」
そこまで聞いて、疑問を口にする…
『でも、少し前に一回鳴りましたよね?』
「なんか一回目に行くとダメ何だって、あの時は一回で来なかったクセに…って怒られるらしいよ」
『えっ、1回目で行かなかったんですか?」
「う~ン、1回鳴った形跡は無かったらしいんだけどねぇ」
『おじいちゃんの勘違いってことですか?』
「多分ね。」
『そんなことって…
でもなんでお茶なんですか?』
「生前におじいちゃんと話しをするときはいつもお茶を持っていって、話しをしてたんだって。その時の担当のナースが言ってた。だからお茶を持っていったらナースコール鳴らなくなったんでそれを続けてるみたい。」
『それっていつぐらいから?』
「私がここに来る前だから、少なくても3年以上前だろうね」
『そんなに…』
「だからあのベッドはいつも空いてるの…」
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次の夜勤の日、またナースコールが鳴った…
2回目のナースコールの後、お茶と一緒に用意しておいた一口サイズの羊羹を持って行った…
カーテンを閉めるとき
(ありがとうな…)
そう聞こえた気がした…
作者烏賊サマ師
二十歳過ぎの頃に付き合ってた彼女に聞いた話です。
それからもこのベッドは空いてるのか?
いまだにこのお茶を持っていく行為が続いてるのか?
それは知りません(^_^;)
彼女とは1年ももたずに別れたんで(^_^;)