俺がまだ二十歳かそこらだった頃、引っ越しを機に吊り下げ式のアンティーク照明を購入した。
値段は確か7万ぐらいだっただろうか。
年代物でかなり古い感じはしたが、大した傷も無く、4色のステンドグラスがいい感じのお洒落な照明だった。
取り付けてみると、思った通り格好良く部屋にマッチしていた。
その日俺はうっとりとそれを見つめながら眠りに就いた。
…
…
俺はどこかの街中を全力で走っていた。
街並みからいってどうやら日本ではなさそうだ。
隣りを見ると俺と一緒に数人の若い外国人が横並びで走っている。
何やらとてもワクワクした楽しい気分だ。
俺を含め、皆んなの手にはバットやらマチューテが握られている。
全員の目は少し前を走る黒人に向けられていた。
どうやら彼は、必死で俺たちから逃げているようだった。
迷彩服を着たデカい白人が何やら前を走る男に叫んでいるが、日本語ではないのでさっぱり分からない。
恐らくは「待て!この野郎!」的な事を叫んでいるのだろう。
黒人の足は速い。
みるみる俺たちとの距離が広がっていく。
しかし、ある路地に逃げ込もうとした所で黒人は足を滑らせて転倒してしまった。
すると先程叫んでいた迷彩服の白人が、黒人の顔目掛けて金属製のバットをフルスイングした。
パアアアアアン!!!
まるで水風船が弾けるかのように頭が爆発した。
楽しい、なぜか楽しい!!
続いて、残りの白人達も笑いながらマチューテで男を斬りつける。
ザク ザク ザク ザク ザク
彼らの足の間から僅かに見える黒人の右脚はびくびくと痙攣していた。
俺は込み上げてくる笑いを堪える事が出来ずに、腹を抱えて笑った。
…
…
自分の笑い声で目が覚めた。
もう朝だ。
嫌な夢を見たな、やけにリアルな夢だった。
まだ耳の奥底から白人達の笑い声や、黒人の頭が破裂する生々しい音が聞こえてくるようだ。
最初に目に入ってきたのは、昨日天井に設置した吊り下げ式の照明だった。
ギシ ギシ ギシ
なぜかそれは左右に揺れていた。
部屋には俺一人、誰が触った訳でもないのに地震でもあったかのようにずっと揺れている。
触ると揺れは止まったが、改めて照明を見てみると、周りを囲む傘の部分の硝子に、点々と黒いシミのような塊が無数にへばり付いていた。
「こ、これって血かもしれない…」
俺は買った事を後悔し始めていた。
…
その夜、仕事が終わりテレビを見ながら1人寂しくコンビニ弁当を突いていると、9時頃だったか急にテレビの電源が何の前触れもなく落ちた。
ギシ ギシ ギシ ギシ
そしてまた頭上から電気の揺れ動く音がした時、上からアタマを軽く撫でられる感触があった。
俺はすぐに妹の夏美(霊感強)に電話を入れて、部屋まで来てもらった。
夏美は俺の部屋に入った瞬間、きゃ!と軽い悲鳴をあげて俺をギッ!とにらんできた。
「兄貴、これはダメなやつだね」
…
…
翌日、夏美の勧めでアンティークショップに電話をすると、意外にもあっさりと返品を承諾してくれた。
返す時に嫌味を込めて「これって事件モノですよね?」って言ってやったら、女店員は「…すいません」と返してきた。
夏美は怒った顔をしていたが、何も言わなかった。
その帰り道に、ヤマ◯電気で5千円の丸い照明を買って帰った。
やはり見た目よりも質だ。
安くても最新型は明るくて最高!
夢の話を夏美にすると「ああやっぱりね!」という返事が返ってきた。
夏美が部屋に入った時、ステンドグラスの中から黒い腕が一本伸びており、それは何かを探すようにウネウネと動き回っていたらしい。
ギシギシと音を立てていたのは多分そのせいだろう。
更に、大きな刃物(多分マチューテ)を持った男が窓の外から部屋の中を覗き込んでいたそうだ。
あのステンド照明は人の血と念を含んだかなり危険なモノだったらしい。
多分、お祓いしても無理なレベルだそうだ。
そんな危ないモノを平気な顔をして高値で売りつけているあの店に、ある意味恐怖を感じてしまった。
もう、あの店で物を買う事はないだろう。
因みに、あれ以来外国人の夢は一度も見ていない…
以上だ。
【了】
作者ロビンⓂ︎
実話なのでオチはありません…ひひ…