僕の兄はちょっと変な仕事をしている。
其れは、一言で説明するならば《なんか幽霊とかをどうにかする仕事》らしい。アバウトにも程がある。というか、説明になっていない。
兄曰く、
「まぁまぁまぁまぁ、組合っていうか会社の社員だからね。サラリーマンみたいなものだよ。」
なのだそうだが、其れすら胡散臭い。何故かというと、もし、兄の言うことが正しいならば、今現在この日本に《なんか幽霊をどうにかする会社》なんて現実味の無いこと甚だしい会社が存在することになってしまうからだ。
然しながら、兄は何処からかキチンと給料を貰い、酒を飲み、アニメグッズを購入し、ペットに兎まで飼っている。全く、謎が謎を呼ぶ兄である。
そして、此れから僕が話すのは、そんな兄の体験談・・・らしい。
追記:兄の口調がなんだか変なことについてはどうぞお気になさらず。そういう人なのだ。
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この間の仕事は久々にヒヤッとしたよ。なに、大した話ではないんだけどね。
単独の仕事でね、依頼人は若い男性だった。
初めて会った時から何だか妙な感じはしていたんだよ。こう、顔が青白くって、無闇矢鱈と辺りをキョロキョロ見回してさ。なんだったら、彼自身が幽霊みたいに見えたと言っても過言じゃなかった。
取り憑かれてるとかそんな感じもしないのに、妙だなと思った。
・・・まぁ、私もまだ新米のぺーぺーだからね。其の時は自分の実力不足なんだろうと思って、何も気付かなかったのさ。
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依頼人が言うには、毎晩布団の下から虫が沢山涌いて来て身体中を這い回り、部屋の収納の隙間から痩せこけた女がニタニタ笑いながら覗いて来るとのことだった。
部屋はワンルームの新築。怪しい事故とかは無かった筈だそうだ。連れて行かれて私も実際に見たけど、別に可笑しな点は見付けられなかった。
土地自体が曰く付きなのかも知れないと思い調べてみたが、そういう訳でもなかった。ならば本人の行動や人間関係かと思うと、此れも心当たりが無い、と。
其れなら、道端とかで面倒なものでも連れて来ちゃったのかとも考えたんだけどさ。其れにしちゃあんまりにも気配っていうかなんていうか・・・何かに何かされてる感が無いんだよね。
ほら、何の関係も無いやつに直接干渉出来るくらいなら、本体にそこそこパワーがなきゃ駄目だから。
正に八方塞がりどん詰まり。
厄介な仕事請けちゃったなあって。
こういう仕事柄、狂言とかもよくされるし、日常の自業自得な失敗を霊にこじつけてたりするケースとかも有るんだけどさ。何かに怯えてるのは本当らしかったから、何もしない訳にもいかないだろう?
精神病ならちゃんと納得させるなり宥めすかすなりして、病院行くようにさせなきゃならないし。
もうどうにも困ってしまってね。
すると、依頼人が、誰かの視線を感じて家に居たくないと言うんだ。私は何も感じなかったけど。
まあでも少し落ち着いて貰いたかったし、適当に喫茶店に入ったんだ。
甘いものや茶を頼んでさ。
熱い珈琲を飲んだら、彼も少し落ち着いたようだったよ。けど、其の内、依頼人がガタガタ震えだしたんだ。
どうしたんですか、と尋ねても一向に要領を得ない。何かうわ言のようなことをブツブツと言うと、急に目の前の物をひっくり返し始めたんだ。
えーと、確か、あんみつと珈琲とつまようじ入れだったかな。
あんみつはまだ良いんだけど珈琲とつまようじは後始末が大変だった。店の人にも随分と叱られてしまったよ。
彼が言うには、つまようじ入れやあんみつから虫が涌いて来たように見えたということでね。じゃあ珈琲はどうしてひっくり返したのかって言うと・・・妙な言い様だけど、中に女が入ってたと、こう言ってたのさ。
・・・私には、何も見えなかったのだけどね。
そう言っても聞かなくて、挙げ句の果てには泣き出してしまってね。此れまた宥めるのが大変だったよ。
其れでね、依頼人も大分興奮しているようだし、此れは駄目だと。後日改めて伺うと言って、其の場は一旦帰らせてもらったんだ。
で、今度は先輩連れて改めて依頼人の家に行ったんだけどね・・・・・・
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兄は其処で一旦話を止め、茶を啜った。
「行ったんだけど・・・どうしたんですか。」
「依頼人が居なくてね。調べてみると、病院に入院してたんだ。」
「入院?」
何か怪我をしたか、はたまた、精神を病んでしまったのだろうか。
僕がそう聞くと、兄は可笑しそうに笑った。
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「どうりで私には何も見えなかった筈だよ。其の依頼人は、覚醒剤の依存者だったんだ。」
作者紺野
絶対。
どうも。紺野です。
久し振りの短編です。
次から兄達の話に戻ります。
宜しければ、お付き合いください。