人は死んだら電柱になるって話。
そんなバカな、って思ってた。単なるおもしろおかしく創作された都市伝説。
気がつけば俺は電柱になってた。自分が死んだってところまでは覚えている。
目覚めると俺は高見からこの町を見下ろしていた。いつも通り、この街が動いている。
車の騒音や、木々のざわめき、道行く人の喧騒。
ただ、夜や早朝ともなると、長い静寂が俺を包む。永遠に続くのではないかとも思われる静寂。
先週の土曜日は俺に寄りかかって、酔っ払いがゲロを吐いた。
俺はこんな不愉快な状況にも耐えなければならない。
いつになったらこれを誰が片付けてくれるのだ。その汚物は次の大雨までそこに放置された。
あと、大きな鳥が俺にとまると恐怖だ。ああ、ほら、こんなに大量に汚物が。小さい鳥のならまだマシだ。
大型の猛禽類のそれは、俺の体を大いに汚してくれる。俺は雨を心待ちにするようになった。
そして、今日とて、俺の足元から勝手にオッサンがしがみついてきた。どんどん俺に
昇ってきたのだ。やめろ、俺はそんな趣味はない。
オッサンの股間が目の前にせまる。まったく、迷惑な話だ。
電気の工事があるたびに俺はこうして、見知らぬオッサンに体を蹂躙される。
そして、毎日、俺は同じ犬に、足元に小便をかけられるのだ。
なんで電柱なんだよ。電柱でなくてもいいだろう!
俺はこんなにも、いろんなものから馬鹿にされ、人権なんて無い。
そもそも電柱だから人権ではない。電権?それじゃあ電気の権利みたいだ。
そもそも、俺、何で死んだんだっけ?そこが思い出せない。
確か、すごく痛くて怖かったような。そんなことを考えていると、俺の側を
男が通った。そして、男はふと何気なしに上を見上げたのだ。
空気が変わったから、たぶん雨が降る。男は俺ではなく空を見上げたのだ。
その瞬間、俺に電撃が走った。お前、見たことあるぞ。
振りかざす銀色のナイフ。俺に吸い込まれる熱い痛み。
そうだ、思い出した。俺、お前に殺されたんだ。
たぶん俺の死体は、あの山の中だ。俺は遠くに見える山を見上げる。
よくも、よくも、俺をこんな目に。お前のせいで、俺はこんな姿になっちまった。
オッサンにゲロを吐かれ、犬に小便をかけられ、知らないオッサンによじ登られ
鳥にさえ、クソをかけられる。
俺は怒りに震えた。でも、いくら怒りに震えたところで、俺は電柱。
俺は動けないジレンマに打ち震え、声にならない咆哮をした。
そのとたんに、俺の足元に衝撃があった。なんと、車が俺の足にめり込んでいる。
俺はゆっくりと、足元から倒れた。そして、目の前には俺を殺したあいつが迫る。
神様!
俺の願いが通じた!
俺は驚くあいつの顔面をめがけて、あいつを押しつぶした。
「で、電柱が吼えたんです。ホントです。余所見しちゃって。その電柱に突っ込んでしまって。」
「そんな言い訳が通ると思ってんの?」
「ホ、ホントなんです・・・。」
警官二人は溜息をついた。
「しかし、なんでこの方向に倒れたんだろうね、この電柱。普通、車を直撃だろ。」
作者よもつひらさか