気がつけば、いつも和也がそばにいた。
こいつとはもう、小学校時代からの友人で
いつも一緒だから兄弟みたいだって言われた。
実際に俺たちは他人の空似なのに本当に良く似ていた。
ただ、違うのは和也は女の子からすごくモテた。
同じような容姿だけど、和也は活発で
俺はどちらかと言えば内向的。
でも、和也は女の子との付き合いが長続きしなかった。
モテるのに、なんて勿体無いんだ。
俺はちょっと嫉妬した。
でも、和也はいつも俺と一緒につるんでた。
女の子と付き合い始めても、俺といる時間のほうが長いので
「彼女、放っておいて平気なの?」
と心配するほどだった。
和也は呑気なもので、「大丈夫、大丈夫!」と笑っていた。
小中高とずっと一緒に過ごしてきたんだけど、
和也と俺の決定的な違いは学力。
和也は頭も良かった。
俺はまったく勉強ができず、いつも和也のノートを写させてもらっていたり。
ほんと、俺は和也なしでは何もできないのかよ。
そんな調子だから、大学は別々の大学になった。
和也と離れ離れになるなんて、最初は寂しかった。
だけど、いつまでも頼ってばかりは居られないな。
俺なりにこっちで頑張らなきゃ。
和也は上京した。
俺は地元の大学に進学し、しばらくして、俺にも春が来た。
彼女ができたのだ。
しかも、その彼女は俺が、中学のときに片思いしていた
和也の彼女。
そしてその彼女から、意外な話を聞いた。
「私ね、本当は、中学のとき最初は、あなたが好きだったのよ。」
そんな話は初耳だ。
「でもね、和也君に話したら、私に告白してきて、猛烈にアタックされちゃって。
なんだか、そんな風に毎日猛アピールされると、私もその気になっちゃって。
ごめんね、今更こんな話。」
何故?和也。
俺が彼女が好きだったことは、ずっと前から知っているはずなのに。
何故、邪魔した?
俺は和也に対して小さな不信感を抱いた。
「あなた、結構、女子の間で人気だったんだよ。
でも、何故かあなたを好きな子はみんな、
和也君と付き合うようになっていったんだよね。不思議だね。」
何故?どうしてなんだ。和也。
実は俺のことが嫌いだったのか?
俺は大学を卒業して、彼女と婚約をした。
和也にもこのことを報告しなくちゃ。
俺は和也に彼女と結婚することを報告した。
婚約を急いだのは、もうすでに彼女のお腹には子供が宿っていたからだ。
ある日、俺が会社から帰宅すると、俺の部屋の前に男が膝を抱えて座っていた。
「か、和也か?どうしたんだよ、急に。久しぶりだな。
そんなところに座ってないで、まああがれよ。」
和也は虚ろな目で俺を見上げた。
俺はその顔を見て驚愕した。
顔一面、真っ赤になっている。
まるで赤いペンキを浴びせかけられたように。
これは・・・・もしかして、血?
「おい!どうしたんだよ!血が出てるぞ!」
和也はブツブツ独り言を言っている。
「・・・・・なんであの女なんだよ、なんでだよ。なんで。」
俺は和也の手当てをしようと、部屋に入った。
玄関に何か液体が大量にこぼれていて、俺は一瞬ヌルっとすべりそうになった。
なんなんだ、この液体は。赤い。ま、まさか・・・・・血?
生暖かい感触を確かめてみる。
「何が、何があったんだ、和也!」
俺は台所の水道でタオルを濡らして、和也の血を拭いた。
和也はどこにも怪我をしていなかった。
「和也、何があった。何でお前は血だらけなんだ。」
和也は呪詛のように言葉を吐き続けた。
「あの女が悪いんだ。あの女が。あの女、あの女、あの女。」
ま、まさか!
俺は嫌な予感がして、家の中を見た。
よく見ると玄関から、ポツポツと血痕がベランダまで続いている。
俺はベランダに走った。
そこには、彼女が血まみれでぐったりと横たわっていた。
俺は彼女の名前を呼び、反応がないので、すぐさま救急車を呼んだ。
「和也!お前がやったのか!」
俺は和也の胸ぐらを掴んだ。
「俺がいったい何をした?お前に何をしたっていうんだ?
何故彼女を刺した!」
「苦しかったから」
和也はぽつりと言った。
「結婚なんてするって言うから」
和也はそう言い涙した。
「お前、彼女のこと。好きだったのか・・・・・。」
和也は泣きながら俺を見上げ言った。
「お前に近づく女がみんな許せなかった。
お前は俺のものなんだ。
だから、お前に近づく女はみんな俺が盗ってやった。」
な、何を言ってるんだ?
「わかっている。男が男を好きになるなんて。
異常だろ。お前に気付かれたくなかった。
でも、お前に彼女ができるのは許せなかった。
彼女は俺にはできないことをやってのけた。
許せなかった。彼女を許せなかったんだ。
俺は、お前が好きだ。この気持ちはどうしても、変えられない。」
俺は突然のカミングアウトに動揺した。
今まで俺がモテなかったのは、お前のせいなのか。
和也の手が俺の首に伸びてきた。
その瞬間すごい力で締め上げてきた。
「女に生まれたかった。。。俺と一緒に、死んで。
魂までお前に寄り添いたいんだ。」
俺は意識が遠のいてきた。
突然呼吸が楽になった。
和也が頭から血を流して倒れている。
その後ろには先程までぐったりしていた彼女が
ゴルフクラブを構えて立っていたのだ。
和也は死んだ。
彼女は正当防衛ということで、罪には問われなかった。
彼女は助かったが子供はダメだった。
1年後、俺と彼女は結婚した。
俺と彼女は公園のベンチに座っている。
彼女は俺の肩に頭を乗せて言った。
「今度こそ、ちゃんと、気付いてよね。
もう、苦しいのは、いやだよ。」
彼女が俺の目を見つめて言った。
彼なのか?
作者よもつひらさか