中編5
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エレベーター

music:4

昔、私は塾講師をしていました

その塾は5階建てビルの

3階〜5階まであり

講師も生徒もエレベーターを使って

3階の受付へと来る

ちゃんと説明しておきます

1階と2階は会社

3階〜5階が塾

地下は存在しない

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当時の私は不眠症が酷く

だったら仕事をしていようと

寝ずに職場で仕事をしていた

それが祟ったのか

ドンドンと役職は

若くして上がっていき

面倒な役職にまでなった

今、考えると

相当なブラックな職場でした

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その日も

どうせ眠れないと

仕事をしていて

気がつくと

時計は24時になっていた

ちょうど上司から

「早く帰らないと

1時過ぎたら電気止めるぞ!」

と叱られていた私は

急いでタクシーを止めて帰ろうと

荷物をまとめた

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10メートルもない廊下を歩き

エレベーターに向かう

ボタンを押して

ボーっとしながら

エレベーターが来るのを待つ

1階

2階

3階

きたな〜

4階

あれ?

5階

一番上の階?

これは帰る前に

見回ったほうが良いかもしれない

…………

仕方ない行くか

パネルを見ると

sound:18

7階!?

このビルは5階までだ

故障?

誤作動かな?

朝一で業者呼ばないとなぁ

なんて考えてた

パネルには

6階

5階

4階

3階

チーン

扉が開いた

誰も乗っていない

ちゃんと降りれるのか不安になった

誤作動で閉じ込められないか?

階段で降りるか?

1度でも疑ったら

エレベーターは乗れない

いいや

階段で降りよう

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エレベーターの正面に

ちょうど向かい合うようにして

非常口があり

その奥に階段がある

非常灯の薄明かりに

ぼんやりと階段が浮き出てるような

なんとも言えない不気味な雰囲気

はぁ〜

深いため息を吐き

思考を停止させて

ボーっとしながら

階段を降り始めた

カツカツカツ

2階に着くと

非常口が開いていて

「ったく下の階は不用心だなぁ」と

横目に何気なく中を見ると

エレベーターが口を開けてて

明かりがついて

そこにあった

そのまま階段を降りていく

カツカツカツカツカツカツ

すぐ下の階に着くと

同じように

エレベーターが口を開けて

そこにあった

また階段を

降りていく

カツカツカツカツカツカツ

下の階に着くと

先ほどと同じように

エレベーターが口を開けていた

カツカツカツ

sound:22

うん?

あれ?

なにかおかしくないか?

ボーっとしていた

頭の中が途端にフル回転し始めた

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私はいま

何度

階段を降りた?

何階降りた?

今は?

何階にいる?

3階から降りて

2回、エレベーターを見た

2回見たってことは

もうその時は1階じゃないか

今は何階にいるんだよ

このビルは地下はない

じゃあ今いるのは?

それに

あのエレベーターは?

普通なら呼んだ階で止まるはず

降りた場所に

必ず

しかも口を開けているのは

明らかにおかしい

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頭の中で疑問が

堂々めぐりして

嫌な汗が噴き出してくる

なんだこれは?

落ち着こう

落ち着こう落ち着こう

階段の踊り場で

5分ほど考えても

答えはでてこなかった

とりあえず

現状を確認しよう

階段の隙間から

下を覗いて見ると

階段は無限に続いてるように見えた

上は?

上も同じであった

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とりあえず

階段から出てみよう

非常口を通ると

見覚えのある場所だった

さっき自分が

エレベーターを呼んだ階

3階にいた

階段では降りれない?

エレベーターに乗るしかないのか?

誤作動してるエレベーターに?

しかし

階段では帰れない

仕方なくエレベーターに乗る

1階を押して

閉じるボタンを押した

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閉じない

なぜだ

私は閉じるボタンを

何度も押した

「いい加減にしろよ」

誰にともなく私は怒鳴った

ゴーっという音がして

エレベーターが閉まった

よし!

これで帰れる

身体に重力がかかる

終わった

疲れたなぁ〜

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sound:22

ガコン

無慈悲な音をたてて

エレベーターは途中で止まる

階下には到達していない

もちろんドアも開かない

「やっぱりかよ

なんなんだよー」

もはや半泣きで叫んだ

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非常ボタンを押しても

反応はない

ボー然とした

その時

明かりが消えた

もう何も見えない

どうしよう

自分の周囲が暗黒になっている

膝を抱えて座り込み

静かに泣いてしまった

困ったどころではない

このまま朝まで

この中にいるのか

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……

……

……

しばらくすると

暗闇に慣れてきて

落ち着いてられるようになった

どうしたものか

時間は沢山ある

エレベーターの

狭い中で1人

そもそもが

今は自分の

慣れ親しんだ世界なのか

それすらもわからない

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そういえば

このエレベーターは

なぜ

7階などという

存在しない階を

表示したのだろうか

もし

本当に

存在しない7階に行ってたとしたら

そこで誰かを乗せてきていたら

途端に冷や汗が流れた

sound:18

music:6

ガタン

背後で音がした

エレベーターには

誰も乗ってなかったはず

自分以外には

じゃあこの音はどこから?

「ゔゔゔゔ〜」

どこからか

絞り出すような呻き声が聞こえる

もういやだ

ホントにいやだ

なんでこんな目に合わなきゃいけないんだ

エレベーターは動かない

この狭い空間の中に

正体の分からない何かと

一緒にいる

怖い

怖い

怖い

ブチン

私の中で何かが音を立てて切れた

「ふざけんじゃねぇよ

いい加減にしろよゴラァ」

途端に音が

ピタッッと止まった

エレベーターの天井から

叩く音が

バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン

とした

そこで私は気を失った

music:5

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エレベーターの中で

気を失って倒れてるところを

上司に起されて目が覚めた

起きた瞬間に

「うわ〜〜〜」と

情けない声をあげた私を

上司はなだめ

話を聞いてくれた

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7階を表示したパネル

階段のこと

エレベーターが止まったこと

エレベーターの天井

全てを真剣に聞いてくれた上司が

教えてくれた

このビルは立て直す前は

7階だったこと

そしてエレベーターの誤作動で

7階から3階にあったエレベーターの天井に

ぶつかって亡くなった人がいたこと

その人が1週間して

異臭騒動があり発見されたこと

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無音の狭いエレベーターには

今でも乗れません

怖いんです

だって

扉が開いたら

そこは自分のいた世界ですか?

分からないじゃないですか

もしかしたら

違う世界になってしまうことが

あるかもしれませんからね

何よりも怖かったのは

閉じ込められた真っ暗闇の

エレベーターです

Concrete
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りこさん
ありがとうございます
次回も頑張りたいと思います

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怖いしすごく引き込まれました。

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