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私はおじいちゃんのことが大好き♪
小さい頃からおじいちゃんといる時間が多く、離れたくない気持ちでいっぱいだった。
世間でいう「おじいちゃんっ子」ってやつ?(笑)
毎朝ランドセルを背負って「行ってきます」を言い、手をふりながら家を出る。
帰ってきたらおじいちゃんの部屋へ行き、学校の授業や友達とした話などを話すのが毎日の日課だった。
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脳卒中の後遺症で左半身が麻痺して以来ベッド生活をすごすおじいちゃんは、私の話を聞きながらハッキリと話せない声で「そうかそうか」と頷いてくれた。
私がじゃあねと部屋から出るときも、なんとか動かせる右手で一生懸命手をふりかえしてくれた。
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中学生になり、友達とすごす時間の方が多くなった。
おじいちゃんには「おはよう」や「ただいま」と挨拶くらいしかしなくなっていた。
「ただいま~」
玄関をあけて家に入るとなんだか妙な雰囲気を感じた。
暗い……?というか重い……?というか。
日が沈みはじめていたのも理由かも知れないが、明らかにいつもとは違う雰囲気。
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帰宅した私の声に気づいた父が居間から出てきた。
頭をカリカリ掻きながら、何かを言いたそうにしている。
うつむいたり、頬を触ったりしてなかなか目を合わせてくれない。
……。
……。
「どうしたの?」
いつまでも黙っている父に少し苛立ち、私から聞いた。
口調が強かったのか一瞬ピクッと驚いた父は、やっと私に目を合わせて一言。
「おじいちゃんが死んだ」
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その一言で時が止まったかのように周りがシーンとなる。
心臓の鼓動だけが大きく聞こえ次第に呼吸が荒くなる。
……。
……。
ドクン……、ドクン……、ドクン……、ドクン……。
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父を力任せで押し倒しおじいちゃんの部屋へつづく襖を開けると、ベッドで仰向けになり静かに眠るおじいちゃんがいた。
お腹の上で両手を組み、顔には白い布がかけられている。
「おじいちゃん!!」
転びそうになりながらベッドに駆けより、荒くなった息を必死でととのえようとするが体がいうことを聞いてくれない。
冷たい涙が頬をつたう。
父が後ろから強く抱きしめてくれたが私はただただ涙をながすだけだった。
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おじいちゃんがいなくなった部屋はいつしか物置きになっていた。
受け入れきれない現実が1日1日と過ぎていくが、少しずつこれが現実なんだと思えるようになってきた。
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高校生になってから不思議なことが起こるようになる。
不思議といっても気になるほどではない小さなことばかりだが……。
おじいちゃんの部屋の隣には仏間がある。
ある朝、お供えものを持っていこうと仏間に入るとカタンッと何かの音がした。
仏壇を見るとおじいちゃんの遺影が倒れている。
はじめは何で?と思ったが、私の家は何十年も前からある古い家だからすきま風で倒れたということにして遺影を元に戻した。
…………
1人で留守番していたある日。
居間でお昼ご飯を食べていると、飼っている猫モモの鳴き声が聞こえた。
「モモ?どうしたの?」
探すとモモは仏間にいた。
おじいちゃんの部屋に向かって鳴いている。
耳をすますと微かにカサカサと音が聞こえたので、虫でもいるのだろうと思い居間に戻った。
…………
学校が休みの日。
自分の部屋や居間の掃除をしていると、またモモがおじいちゃんの部屋に向かって鳴きはじめた。
よく見ると襖が少し開いている。
「誰か入ったのかな?」
襖を開けても変わったところはない。
物置きになっているので部屋のものは埃かぶってしまっている。
モモがずっと鳴きつづける。
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部屋のなかを眺めていると1つだけ全然埃かぶっていない綺麗な棚があるのに気づいた。
あれは確かおじいちゃんが使っていた棚……。
何でこの棚だけ綺麗なんだろう?
そう思いながら引き出しを開けると中には小さく折りたたまれた紙が……。
1枚じゃなく数枚あり、ガタガタと震えたような線が書いてある。
きれいに広げてよく見るとその紙に書かれていたのは誰かの下手な文字だった。
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『ごめんな、いつまでも元気なおじいちゃんでいてやれなくて……。
可愛いお前の笑顔だけがわしの宝物だった……。
もう何の悔いもなく死ねる……そう思いたかったが……。
1つだけ悔しく思うことがある。
成人を迎えたお前を見てやれなかったことだ。
お前の美しい着物姿、死ぬ前に1度見てやりたかった……。
ごめんな……。』
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紙の裏には私の名前とおじいちゃんの名前が書いてあった……。
「おじいちゃん……」
私はその場で泣き崩れ動けなくなった……。
頬を濡らす涙はおじいちゃんが死んだ日の冷たい涙とは違い、とても暖かく感じた。
にゃん?
涙をながす私の顔をモモが元気づけてくれているかのように見上げている。
私はモモを抱いていつまでも泣きつづけた……。
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…………
20歳の成人式。
着慣れない着物姿をみて親戚と家族が祝ってくれた。
「表情がぎこちないよ!ほらほら笑顔笑顔!」
写真屋さんが緊張している私に言いながらシャッターを押す。
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私は今、仕事に追われた毎日をおくっている。
疲れのせいで嫌気がさしたり、うまくいかない人間関係でくじけそうになる日がたまにある。
けれどそう思うたびに私はおじいちゃんの部屋へ行く。
物置きになっていた部屋は今、綺麗に片付けてある。
おじいちゃんの棚、おじいちゃんが笑顔の写真、その隣に私が着物を着ている写真を並べて……。
写真を眺めて部屋を出ようとしたときに誰かの声が聞こえた。
ハッキリと話せなくても一生懸命伝えようとする私が大好きな声……。
私は部屋を出てゆっくり襖を閉める。
また声が聞こえた。
『ありがとう』
作者退会会員
新作です。
怖くはないかもしれませんが楽しんでもらえるとありがたいです。