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「ったく!最悪だよ!いきなり別れろだぞ!」
「そんなに落ち込むなって、今日は俺が奢ってやるから(笑)」
俺は交際してまだ3ヶ月の彼女にフラれ、酒に溺れた毎日をおくっていた。
無断欠勤がつづけたせいで会社もクビになり、何もかもが嫌になっていた。
そんな俺を心配して会社の元同僚が俺を飲みに連れ出してくれていた。
もうどれくらいの時間店にいただろうか?
机には空のジョッキがいくつも並んでいる。
同僚「もう気は済んだか?……な訳ねえよな(笑)俺は明日仕事だから帰るよ。じゃあな。」
ため息をつき、店主に御馳走様を言うと俺も店を出た。
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ポケットに手をつっこんだり頭をかいたりしながら自宅までの道を歩く。
分かってるんだ、自分がダメなことくらい……。
彼女にフラれ、会社クビになり、元同僚にまで迷惑かけて……昔からダメなんだよ。
学生時代はいろんな部活動に入部したけど結局はどれもつづかず、卒業後もしばらくは就職に就かず朝から夜まで遊び回り家に帰らないことも。
はじめはいろいろと言ってた親もいつしか呆れてたっけ。
もう何年も実家に帰ってねえなぁ、親は元気にしてるかなぁ?
まぁ俺が帰ってきても喜ばねえだろうけど……。
そんなことを考えてるうちに俺は帰宅した。
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次の日、昼前に起床した俺は渇いたノドを潤そうと冷蔵庫に手を伸ばす。
が、飲み物が何もない。
「チッ、面倒くせえな。」
冷蔵庫をバン!と閉め近くのコンビニへ向かうことに。
昨日飲みすぎたせいか頭が痛い。
ミネラルウォーターで我慢しとくか、と買い物を済ませコンビニを出た。
ノドを潤しながら、帰る途中にある公園を見ると一軒の家が目に入った。
「あんな家あったっけ?」
俺は引き寄せられるかのようにその家に足を進めた。
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門の前まできて、庭や家を眺める。
表札は無いが、人は住んでいるようだ。
洋風の造りで庭や壁には緑の植物がはっている。
確か、アイビー?って植物だったと思う。
ボーッと眺めていると声が聞こえた。
「何か用ですか?」
声が聞こえた方を見ると若い女性がいた。
黒の長い髪を1つに束ねて赤いカーディガンを羽織っている。
20代後半くらいだろうか?
俺を不思議そうに見る女性に戸惑いながら笑ってごまかす俺。
「あ、とても素敵な家だなぁと思って、ハハハ……」
うまくごまかせていない自分を恥ずかしく思っている俺に、女性は優しく微笑む。
「ありがとう。アイビーが好きで育ててるんです、気に入ってもらえて良かったわ。」
女性は軽く頭をさげて家に入って行った。
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帰宅した俺は女性のことが頭から離れなくなっていた。
透き通るような澄んだ瞳と優しく微笑んだ姿で恋におちていた。
次の日も女性の家へ向かった。
いつもはダサい服しか着ないのに、勝負服?みたいなの着て逢いに行ったんだよ。
変だよな、昨日逢って挨拶くらいしかしてない女性に必死でアピールしてるんだぜ(笑)
そんなことしてでも距離を縮めたかったんだろうな(笑)
やがて俺と女性は少しずつ仲良くなっていった。
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女性はアイという名前で一人暮らしだと言う。
ガーデニングが趣味で花屋でアルバイトしてるそうだ。
俺とアイはあまり年が離れていないこともあって、共通の話題が多く一緒にいる時間が楽しかった。
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半年が経った。
相変わらずの毎日だが、1つだけ俺はアイに対して疑問を抱きはじめていた。
出逢って半年が経つというのにアイは家に1度も入れてくれないのだ。
何度かアイの家に行ってもいいか?と聞いてはみたがダメだと断られた。
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そんな疑問を抱きながら、1日1日が過ぎていったある日アイが入院した。
仕事中に倒れたそうだ。
医師に話を聞くと、アイは生まれつき心臓が弱いらしく入退院をくりかえすことがあったらしい。
アイは1週間病院で様子をみることになった。
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日が暮れて病院から帰る途中、ふとアイの家へ行きたいと思った。
アイが今まで家に入れてくれなかった理由をどうしても知りたくなってしまったのだ。
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アイの家の庭や壁には相変わらずアイビーがたくさんはっている。
玄関に手を伸ばすと鍵をかけ忘れていたのか簡単に開いた。
……カチャッ。
不法侵入とかで訴えられたら終わりだな……。
多少、罪悪感はあったがアイの家の秘密を知りたい気持ちの方が大きかった。
玄関を閉めて靴を脱ぎ、暗い廊下を歩く。
壁に手をあてながら1歩1歩進むたび、カサカサと足に何かが当たるのを感じた。
リビング?っぽい部屋にたどり着き、手探りで電気のスイッチを見つけて灯りをつけた途端、俺は驚いた。
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家中にアイビーがビッシリはっていたのだ。
窓、壁、天井……床が全く見えないほどに。
「何だよコレ……」
その異様な光景に驚いていると急に妙な匂いが鼻をついた。
袖で鼻を押さえながら周りを見ると、
『ベッドルーム』
と書かれた扉が目に入った。
指先を震わせながらドアノブを回し、思いきり扉を開けた。
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「うわあぁぁあぁあ!!」
部屋のなかにはベッドの上に横たわった白骨化した遺体が並んでいたのだ。
1体じゃない、5体も……。
遺体はクマのヌイグルミを抱いてそれぞれには男性と思われる名前が刺繍してある。
遺体のまわりにもアイビーがビッシリ……。
あまりの恐怖に動けないでいると空のベッドがあるのに気づき、そのベッドのヌイグルミを見た。
そのヌイグルミにも刺繍がしてある。
……俺の名前だ……!!
「殺される!」
俺は頭が真っ白になり無我夢中で家から飛び出した。
逃げなきゃ!
殺される!!
勘弁してくれ!!!
何がなんだか分からず走りつづけた。
アイから逃げなきゃ!ただそれだけを考えて……。
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………………。
………………。
………………。
俺は今実家にいる。
数年が経ち、ふとネットでアイビーについて調べてみた。
逃げてきて本当に良かった安心感とあの時の恐怖感が俺の胸を押さえつけた。
アイビーの花言葉……
『死んでも離れない永遠の愛』
作者退会会員
新作です。
読んでもらえると嬉しいです。