ザァァァァァァァ......
ザァァァァァァァ......
キュッ......
キュッ......
ギュッ......
キュッ......
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叩きつけるような土砂降りの雨。
車体にぶち当たる雨粒の音と、フロントガラスを流れ落ちる雨水を払うワイパーの音だけが車内を満たしていた。
数十分前、俺は上司からの電話で叩き起こされた。
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「もしもし。。。」
『おう、杉本か。夜中に済まないな。』
「。。。どうしたんすか。。。」
まだ半分眠りこけている頭で、かろうじて訊く。
『夜勤メンバーに木村入ってただろ?まだ現場入ってないらしいんだけどよ。』
「。。。はぁ。。」
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『何度電話しても、連絡つかねぇんだよ。
お前、なんか知らねぇか?』
「。。。いや、俺は知らねぇっすけど。。。」
俺は今日は日勤だ。
夜勤のメンバーの所在なんぞ、知るわけがない。
そんな事で起こされた不満で、俺はすこぶる不機嫌になった。
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『すまねぇんだけどよ、お前ちょっと木村のアパート見てきてくんねぇか。』
「は?今からっすか?」
時計を見る。
もうすぐ23時になろうとしている。
マジかよ。俺明日も朝早えんだけど。。。
しかし上司に逆らうわけにもいかない。
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「わかりました。ちょっと見てきますよ。」
『おう、すまんな。俺も今現場に向かってるとこでよ、お前しか頼めねぇんだ。よろしく頼むわ。』
ブツッ。
俺はガシガシと頭を掻きながら部屋を出た。
外は傘も役に立ちそうにないほど土砂降りの雨。
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「マジかょ。。。」
なるべく濡れずに済むように、小走りで車に乗り込むと、暗い夜道に走りだした。
ワイパーをMAXでかけても前が見えないほど激しく降る雨に、俺はほとんど徐行状態で進んでいった。
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木村のアパートは、辺鄙なところに建っている。
酒とギャンブルで宵越しの金を持たない主義の木村は、
安さ重視でそのアパートに引っ越したそうだ。
俺達の住んでいる街ももともとが田舎だが、木村のアパートのある場所は更に田舎だ。
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山をしばらく登った、街灯も民家もないような、不気味な場所だ。
こんな夜中に、できることなら行きたくないような場所なのだ。
そこに今、俺は上司の命令で向かっていた。
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どれくらい走っただろうか。
真っ暗な山道をヘッドライトの明かりだけを頼りに進んでいると。
かなり前方に、ぼんやりとした赤い光が揺れているのが見えた。
「ん?なんだ工事か?」
つい独り言を呟く。
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外は土砂降りの雨。
ヘッドライトがあると言っても、街灯もない山道で、
濡れたアスファルトにライトが反射して、あまり視界は良くない。
道から逸れないように慎重に走りながら、
ゆっくりとそれに近づいていった。
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雨合羽を着こみ、俯いて誘導棒を振る、交通警備員。
「こんな夜中に、ご苦労様だな。」
ボソリと呟くと。
ゆっくり弧を描くように警備員を避けながら通り過ぎた。
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ザァァァァァァァ......
ザァァァァァァァ......
キュッ......
キュッ......
ギュッ......
キュッ......
この辺だったっけか?
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確か、山道をしばらく走っていると左手に横道があるはずだ。
そこを登り切ったところに、木村のアパートはある。
しかしこんなに走ったっけ?
朧気な記憶を辿る。
はるか前方に赤い光が揺れている。
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「?また工事か?」
近づいていくと、雨合羽を着こみ俯いて誘導棒を振る交通警備員。
俺は無言で横を通り過ぎた。
なんとなく、気味が悪い。
ていうか、警備員はいるのに、工事している様子もない。
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真っ暗な土砂降りの山の中、何もない場所で誘導しているようにしか見えない。
俺は沸々と湧き上がる嫌な想像を振り払うように頭を振った。
また、前方に赤い光。
俯いて誘導棒を振る警備員。
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なんでだ。
工事現場なんてどこにもない。
アイツは何の為に誘導してるんだ。
木村のアパートに続く横道はどこだ。
なんでいくら走っても辿り着かない。
俺はどこを走ってるんだ。
俺はどこを。。。
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shake
「ああぁぁあぁあぁぁあ―――――!!!」
俺の中の何かが弾けた。
絶叫しながらハンドルを握りしめ、アクセルを踏む。
繰り返し繰り返し現れる警備員に、もう気が狂いそうだった。
その時。
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前方に、オレンジ色の2つの光が規則的に点滅しているのが見えた。
―――車?
藁をも縋る思いで後ろに停車した。
見覚えのある、ボロい軽自動車。
―――これ、木村の。。。?
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恐る恐る車を降り、近づいていく。
エンジンはかかっていなかった。
運転席側の窓から体を折り曲げるようにして中を覗くと、
「ひっ。。。」
小さな悲鳴が漏れてしまった。
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焦点の合わない目で前を見据え、ハンドルを握りしめたまま微動だにしない木村がそこにいた。
あまりに異様な様子に悲鳴が出てしまったが、
相手が木村である事を認識すると、
安堵する気持ちと共に怒りがこみ上げる。
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窓を激しく叩きながら名前を呼ぶ。
「木村!おい!お前何やってんだよ!仕事行かねぇのか!おい!」
反応がない。
真夜中に叩き起こされて、こんな土砂降りの山ン中延々走らされ、恐ろしい目に遭ってきた怒りで、
俺はキレまくっていた。
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「てんめぇ!返事ぐらいしろや!」
勢いよくドアを開ける。
「!!!!」
そこには。。。
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びしょ濡れの雨合羽を着て、誘導棒を握りしめた警備員が座っていた。
その顔が、ゆっくりと俺の方に向き始めていた。。。
作者まりか
山の中でポツンと立つ警備員さん。
ギョエーーーー!と思ったら、電動のお人形でした。。。
あぁ怖かった。。。(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
いつも怖いやコメントをくださる皆様、そして拙い作品を最後まで読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
毎回嬉しく思っています(*´艸`*)
今回も画像をお借りしています。感謝です(人ˇωˇ )