私のお父さんはしがない自営業のおじさん。
中年太りの目元に笑い皺のある、しがないおじさんだ。
変わった事といえば左目が壊死していて本来の瞼の膨らみは無く、やけに歪んで濁った黒目と黄色い白目が左目には納まってる事と右手の親指が潰れてる事。
本人が言うには目は仕事してたら窓からフォークが飛んで来て刺さり、右手の親指は幼かった兄が仕事道具に手を出して手をプレスしそうになってるのに気付いて慌てて防いだ結果らしい。
右手の親指の事は兄も覚えていて申し訳なさそうな顔をしていたがフォークに関しては正直想像もつかない。仕事してて外から飛んで来たフォークが目に刺さるとかどんな状況だ、それ。
もちろん本人に何度聞いても「飛んで来たもんは飛んで来たんだ」の一点張りだ。
そして最も不明なのがその人脈。
私が幼稚園年長さんの時父と一緒に近くの銭湯に行った時の事。
父が「古い友人が居るんだ。少し寄っていいか?」と言うので上手くすればおやつが貰えると判断した私は「いいよー」と答えた。
きっとマッサージマシンで揺られてるおっさんとかと少し話すだけだろう。
そう思ってた。
父は幼い私の手を握り、マッサージマシンの前を通り過ぎた。
あれ?違うの?
利用者が座るソファを通り抜け、人気の無い方に行く。
廊下の先には宴会場の入口とトイレのみしかなく、戸惑う私をよそに父は宴会場の扉に向かう。
「?ここなの?」
「あぁ。」
「ふぅん」
きっと宴会場にコソッ入って知り合いに挨拶するんだな
その時はそう思った。
ガラリ
父が戸を開け、暗い廊下に眩しい明かりが射し込む。
いたのは
や く ざ
背中と顔に脂汗ブワワワ!一気に焦りというか恐怖がゾワワワ!
正直場違いですみません!!申し訳ありませんでしたぁあぁ!と叫んで扉をバンッと閉めて逃げ帰りたくなった。
が、そんな私の動揺を親父は華麗にスルー
スリッパを脱いでズカズカと筋肉隆々、刺青と髪型ビシッ、目付きの鋭い人達の中心を堂々と歩き出す。
「「「今日もお務めお疲れ様です、あにきぃ!」」」
一斉に親父に土下座するヤクザ
私の精神のバロメーター吹っ切れた。
「お父さんこの人達に何したの!?この状況なに!?新手の脅し!?何かしたなら謝った方がいいよ!」
「は?いや、何もしてないよ。ただの友達」
「友達は会ってコンマ1秒で土下座しないよ!」
「友達は友達だしなぁ」
苦笑するクソ親父
「おぉ、久々だなぁ。元気にしてたか?」
前の方で偉そうに寛いでたアロハシャツなおじさんが手をあげる。
「おう、今日は娘も一緒だ」
親父は私を抱き上げて胡座をかいてたアロハのおっさんの膝に置く。
え?超嫌なんですけど。
そういう顔で父を見たが無視された。
「可愛いなぁ、将来べっぴんさんになるんだろうな」
私を見てニコニコ、
「おいテメェ、早くお菓子買ってこい!気が効かねぇな!」
傍らにいた目付きの鋭い厳つい兄ちゃんに一喝するアロハ。
「へ、へい!」
慌てて買いに行く兄ちゃん。
腕っ節だったらアロハに勝てそうなのに…ヤクザの世界も腕っ節のみでどうにかなるもんじゃないんだな…
ちょっと厳つい兄ちゃんを哀れに感じた。
その後父とアロハは簡単に談笑し、15分もしないうちに私のビビリ具合に同情したのか父が私を抱き上げて帰路についた。
因みにおやつはプリッツで当時一番嫌いなおやつだった。
それから約10年後
それから色々あって児童養護施設に住んでた私にある日父から電話が来た。
「おまえも昔会った事あるだろ、俺の友達。宴会場でお前がビビりまくってた」
「…………………うん」
ぶっちゃけ言うとあまりに否現実的過ぎて夢だと思ってました。
とは言えず
私は黙って頷いた。
「あれがな、温泉入ってくも膜下出血起こして死んじまったんだ。」
「へぇ…」
いや、正直興味ないんですけど。
「……………ヤクザの人達跡取りに困ってな」
「……うん」
「お父さんにヤクザの組長になってくれ!て土下座しに来た」
「へぇ……えぇええ!?」
「もちろん断ったけどな(`・v・´)」
「断ったの!?」
「あぁ、上下関係面倒臭いし。」
「へ、へぇ……」
「お父さん凄いだろ、組長だぞ組長( ¯﹀¯ )ドヤ」
「自慢したいのか落ち込みたいのかハッキリしろ、クソ親父」
「連れねーなぁ、お前。もちろん慰めて欲しいに決まってんだろ」
「………………(ため息)」
自分の知ってる人には自分が知らないよ裏の顔があるかもしれません。
気を付けて下さいね。
作者黒うさぎ
怖い系というよりびっくりした事を書いてみました。
本気で突拍子も無さ過ぎて夢だと思ってたのに高1の時にどんでん返しされました。
私の父、正直謎です(笑)