やばい逃げろ!
慌てて武器を仕舞ってRボタンを押して逃げる。
ぐぉおぉおお!
モンスターが追いかけて来る。
来なくて良いから!まじ全力で来なくていいから!お願い、アイルー相手にしてて!!
あ、やばい!もう体力ない!あぁあぁ!
もう少しで隣のフィールドで行ける所だったのにたまたま同じフィールドに来てたゲリョスがぺカーッと閃光を放ち、主人公がクワァンクワァンと気絶状態なってイビルジョーに突進された。
主人公は呆気なく倒れ、アイルー達の手によってキャンプに放り投げられる。
くそぉ、ゲリョスぅうぅっ!俺はお前になんて興味はないんだぁあ!ただ凶暴竜の宝玉とついでに竜仙花が欲しいだけなんだぁあ!
「あぁ、もう!」
モンハン4の上位未開エリアにてコテンパンにされた俺は3DSを閉じて放り投げ、ゴロンと仰向けになった。
ゲームを閉じればブゥウゥンと熱風をかき回す扇風機の音とミーンミーンミンミーと遠くでセミが鳴くリアルな世界に戻る。
顎を反らし、網戸を見れば絵の具をぶちまけたような青い空とぽっかり浮かぶ白い入道雲、これでもか!とばかりにサンサンと光り、熱を浴びせる太陽と青々と広がる山裾と所々収穫された畑が逆さまに見えた。
the田舎☆
俺はお盆で母ちゃんの実家、築60年のお婆ちゃんちに来ていた。
「うぅん…暇だよー」
友達の1人でもいればクワガタとかカブトムシとか一緒に山に取りに行くが1人で行くのはなんとなくダルいし虚しい。
そもそも母ちゃんが危ないからって行かせてくれる訳もない。
両腕をバンザイの形に上げてゴロゴローゴロゴローと転がる。
学校の友達は羨ましい。
お盆だからってサマーランドに連れて行って貰ったりグアムとか連れて行って貰ったりしてるのだ。
「なんで俺はお婆ちゃんちなんだよー!」
叫んでバシバシ畳を叩いたら1階にいた母ちゃんに「大地、静かにしなさい!!」と怒鳴られた。
理不尽な!!!誰のせいで騒いでると思ってるんだ!!!
モンハンでぼろ負けした事もあってすっかり不貞腐れた俺はため息ついて起き上がり
「ぎゃあ!」
至近距離でジーと見てた赤い着物の女の子にギョッとして小さく跳ねた。
「だ、だ、誰!?いつの間に!?」
扉開いた音はしてなかったぞ!!と言うと女の子はにっこり笑って
「窓開いてた。」
と言う。
見れば網戸が開いてカーテンがフワフワと風に押されてはためいていた。
あれ?網戸開いてたっけ?閉まってたような気がするけど
首を傾げつつ網戸を閉めようと立ち上がるも女の子が周り混んで来て下の方から覗き込んで来た。
「お前、見た事ない顔だな。誰だ?」
勝手に不法侵入した癖に誰だ?と聞いて来るのに対してムッとして
「平坂大地。この家のお婆ちゃんの孫。」
とりあえず睨み付ける
が
「お前、あやねの孫か〜!」
どうやらガン付け攻撃は効かなかったようで、嬉しそうに笑い出した。ちくしょう
「あたしはアキ!昔からこの辺に住んでるんだ。」
アキと名乗った女の子は後ろ手に手を組み、小首を傾げて笑う。
その笑顔を見てオカッパな髪型のせいか、赤っぽい着物の色のせいかなんとなく婆ちゃんの部屋のこけしを思い出した。
「へぇ……どこら辺に住んでるの?窓から見える距離?」
正直なんとなく胡散臭さを感じてたがお爺ちゃんお婆ちゃんと大人しかいない環境にうんざりしてたところなのでちょうど良かったと言えばちょうど良かった。
「んっとねー、窓からは見えない。こっちの方」
アキはピッと右側を指さす。
大広間の方角か、今度行ってみるか。
「ねぇねぇ、大地!これなに?」
ワクワクした顔で3DSを指さすアキ。
「3DSだよ。え、なに?見た事ないの?」
驚いて聞くと
「CMで見た事はあるけどやった事はない!ねぇ、やってもいい?」
と来た。
3DSをした事が無いなんて可哀想な奴だ。
「壊さないなら良いよ。えっと、この武器はガンランスっていってここで武器を出してここで砲撃を撃ったりここ押して突いたりしてモンスターを攻撃するんだ。」
「こうか?」
「そうそう。それでこのボタンでガード。あとボタン連打で連続攻撃が出来るから隙を見て連続攻撃して…」
操作方法を教えつつアキを観察する。
クリクリした目をしていて髪は黒のストレートのオカッパ。
まぁ、クリクリした目といえば人形のように可愛い顔を連想するもんだけどアキはどちらかと言えば子供の日本猿みたいな印象だ。
歳は10歳くらいで俺とタメくらいかな。
肌は東北人だからか雪みたいに白くて、ゴボウみたいに真っ黒な俺とは大間違えだ。
「ぎゃああぁあ!大地、なんか来たぁあぁ!」
ジャギィを攻撃して練習をしてたらイビルジョーが来てアキが大絶叫した。
さすがに初心者にイビルジョーは荷が重い。慌てて3DSを受け取って操作する。
結果
食事効果が付いてない俺はあっさりぼろ負けしたうえに逃げられた。
「イビルジョーやべぇー」
「イビルジョーつぇー」
疲れてグッタリした俺とケラケラ愉快そうに笑ってるアキ。
どうやら見てるだけで楽しめるタイプらしい。
「アキ、俺水取ってくるけどなんかいる?」
一段落つくと猛烈な喉の渇きを自覚してきて汗で張り付いて来るシャツをパタパタしつつ聞くと
「いいや、いらない」
と言われた。
そういえば着物着てて俺よりも着込んでるのに汗一つかいてない。
体温が元より低い奴なのかな?
汗ビッチャリな俺としては羨ましい限りだ。
そう思いつつ頷いて部屋を出た。
1階に行くと御先祖さまが乗ってくるという馬を作る為にキュウリに爪楊枝刺してる婆ちゃんと夕飯の支度をしてる母ちゃんがいた。
コップに水を入れてると
「あんた1人の癖にさっきから煩いわよ。もう少し静かにしなさい。」と注意された。
「1人じゃないよ。アキっていう近所の子が来てるんだ、婆ちゃんの名前も知ってた。」
膨れっ面しつつ水をグビグビ飲む。喉が渇いてたせいか水が甘く感じた。
「誰も玄関通ってないわよ。」
母ちゃんがしつこく言ってくる。
「窓から入って来たんだよ、着物の癖に」
コップを洗いつつ唇を尖らす。
「はぁ?あんたがいる部屋2階でしょ……着物で入って来るなんて危ないわね。親御さんに注意して貰わないと」
母ちゃんは火を止めてお婆ちゃんに近寄り
「お母さん、アキちゃんっていう子知ってる?」
ゆっくり婆ちゃんに話し掛けた。
「あぁ?イマはアキじゃなぐてなづだろ? 」
「違くてアキちゃんっていう子供、知ってます?」
「アギ!?」
「アキちゃん!子供です!」
「あぁ、アギぢャンならコドボノごろがらよぐアゾンでだだぁ。で、アギぢャンがドゲンしたと?」
「アキちゃんっていう子供が着物で2階に上がって来て危ないので親に注意したいんだけどアキちゃんのお家はどこ?」
「アギぢゃんはココの家のゴだがらんなごと必要ねぇ」
キュウリを置いて婆ちゃんは立ち上り、曲がった腰でえっちらおっちら歩き出した。
「???」
母ちゃんが婆ちゃんについて行き、俺も不思議に思ってついて行く。
婆ちゃんは一歩一歩踏み締めるように階段を登り、自室に行く。
婆ちゃんの部屋はなんだかすえた臭いがし、黴のような臭いがした。
視線を巡らせれば敷っぱなしの布団は微かに黄ばんでて閉められたカーテンの間から漏れる太陽光にキラキラ反射して光りながら埃が渦を巻いている。
「これこれこれ。」
お婆ちゃんはタンスの上のこけしを手に取って持って来ておもわず俺は「あっ」と声を漏らした。
どおりでアキを見てこけしを思い出す筈だ。
こけしの服の部分の模様がアキと同じものだった。
「ゴレはココにすむ座敷童子と仲良くなった御先祖様がづぐっだものだぁ。オラもむがじはみえでだんだけんどもとしとったらみえなぐなっだぁ」
「座敷童子?」
何それ?と母ちゃんを見上げると
「妖怪で、住み着いた家の人達を幸せにしてくれるのよ。」
と教えてくれた。
「え?あんな猿みたいな顔の奴がようか……いってーー!」
猿だなんて言うでねぇ、座敷童子は神様だ!と婆ちゃんに拳骨された。
殴る事はないじゃんか。くっそー
涙目で頭をさすってると母ちゃんに笑われた。腹立つ。
「きっと大地が暇ぞうにしてたから遊んでやったんだろうなぁ。えがったなぁ」
婆ちゃんが笑いかけてくるが正直俺的には3DSに釣られたとしか思えない。
………………………………………………それにしても……
「お婆ちゃんの部屋っていつも思ってたんだけど人形多いよね。もしかして座敷童子のオモチャ?」
棚や布団の端に所狭しとばかりに置かれたぬいぐるみや人形に首を傾げる。
「んだ」
婆ちゃんが頷いた。
アキ、婆ちゃんお前の好きなもんわかってねぇぞ、ドンマイだな
「お婆ちゃん、アキ3DSのゲームしたいって。買ってあげたら?モンハンとか喜ぶかも」
「スリーdeathのハンハン?」
何じゃそりゃ
「あんたねー、座敷童子が3DSなんてする訳ないでしょ。」
母ちゃんが余計な口を出して来た。
「でもしたいって言ったんだもん」
「いつ言ったの?」
「さっき」
「さっきっていつ?」
「上にいた時だよ!」
ガンガン攻めて来る母ちゃんに俺は膨れっ面する。
「まぁまぁ、とりあえずスリーdeathのハンペンを買えば良いんだろ。そげな喧嘩しよんな」
婆ちゃんが俺を信じないで攻めて来る母ちゃんを諌めてくれた。
婆ちゃん、ありがとう。でも原型留めてない……。
そうして……
部屋に戻ると誰もおらず、帰る前前日の夜になってまたアキは出てきた。
「なんで消えたんだ」と怒ると「いやぁ、座敷童子ってバレたからなんとなく気まずくてさ…」と苦笑いされた。
追い掛けて来てたのか…。
座敷童子には座敷童子なりの苦労があるのかもしれないな…
少し同情した。
その後色々下らない事を話した。
アキは物知りで蛇やトカゲが隠れてる所の見つけ方や猫とすぐ仲良くなる方法とか教えてくれた。
俺もそのお礼という訳ではないが本人の希望もあってなんとか婆ちゃんを言いくるめて3DSとモンハン4を買ってもらい、こけしの横に供えた。
一月後に婆ちゃんから電話があって話を聞くと時々勝手に動いてて確認する度クエストがクリアされていってると嬉しそうに報告された。
しめしめ……
これでお正月行った時には通信で一緒に戦える。
でも…
この時俺はあんな事になるだなんて予想もしてなかったんだ。
続く
作者黒うさぎ
ちょっとトータルで書くと長いので区切ります。
出会い編はモンハン知らない人にはちょっときついかもしれません^^;
次回はグロ&怖く行きますよ٩(。•ω•。)و