夕方俺は不機嫌だった。
午前中俺はドアを開けておもわず「うわぁあ…」と感嘆の声をあげた。
澄んだ青空にキラキラ輝く一面の雪景色!
夏は青々と生命に満ち溢れてた遠くの山々はすっかり葉が落ちて雪化粧を被り、畑や田んぼはフカフカした雪に包まれていた。
昨日の夜着いた時はうっすら積もってただけの雪が昨夜の吹雪でドカッと30センチは降り積もり、東京生まれ東京育ちの俺は大自然の驚異と美しい雪に一気にテンションが上がり、寒さも冷たさもそっちのけで足跡一つ無い綺麗な雪にダイブしてゴロゴロ転がってその冷たさと柔らかさを堪能し、飽きると母ちゃんが屋根の上から落とす雪をせっせと大きなシャベルでかき集めて積み上げ、かまくらを作ってた。
母ちゃんは俺を見て爆笑し、婆ちゃんも「おだつ(はしゃぐ)大地さ見れてえがった」と始終ニコニコしてた。
やがて母ちゃん休憩に、婆ちゃんは昼食の支度に中に入り、俺は1人遊んでた。
門に背を向け、雪を掘り返してた時
突然後ろから突き飛ばされておれはうつ伏せに倒れて重いものがのしかかって来た。
一瞬何があったかわからずえ?熊??野生動物の逆襲??と混乱してたがすぐに硬くて鋭いものでバシッと叩かれ
「この狐憑きめ!」と怒鳴られて人間だ!と気付いた。
「痛い、やめろ!ーっ、この!痛っ!」
バシバシとトゲトゲしたもので叩かれ、暴れれば拳で殴られた。
「大地!!」
「おめ何さしてるだか!!」
なすすべもなく頭を抱えてると婆ちゃんが俺の上に乗ってた人にタックルして母ちゃんが起こしてくれた。
振り向けば片手に柊の枝を持った80歳くらいのお爺さんだ。
お爺さんは顔を真っ赤にして目をギラギラさせて婆ちゃんを睨み「狐憑きのババァが!おらぃにこげな事してただで済むと思ってるだか!!」
と怒鳴っており、婆ちゃんは婆ちゃんで
「おめこそおらの孫さこげな真似して覚悟は出来てるだか!」と睨み合ってて母ちゃんは慌てて警察警察!と電話をかけに行った。
その後たまたま通りかかった人の手も借りてお爺さんはパトカーで警察に連れて行かれた。
婆ちゃんによると昔から座敷童子を悪霊だの何だのと馬鹿にしている奇人なんだそうだ。
母ちゃんはそれですっかり怯えてしまい、午後からは外出禁止令を出した。
俺だってバカじゃない。
座敷童子を快く思わない人間もいると学習はした。
次はちゃんと注意するし、あのお爺さんを見たら逃げる。
母ちゃんは心配症だ。
俺はぶ厚いオレンジ色の雲がぽっかり浮かぶ夕焼けを部屋の中から眺める事しか出来ない状況に歯嚙みした。
「…………何してるんだ?さっきから外を見て」
カーテンを捲ってずっと外を見てる俺を不思議に思ったのだろう。
いつの間にか背後にアキがいた。
「変な爺ちゃんに柊と拳でしばかれて母ちゃんに外出禁止令出された。」
膨れっ面で呟く。
「なるほど、だから傷だらけなのか。お前、そんな事されるなんていったいどんなイタズラされたんだ?」
「何もしてないよ!!あの爺ちゃん、庭でかまくら作ってたら突然狐憑き!て殴って来たんだ!」
呆れた顔をされ、心外だと俺は声を荒らげる。
だが…
「……狐憑き?まさかあの男、戻ってきたのか……!」
アキは拳を握り、ブルブル震え出し
「昔からそうなんだ、あのジジイは!あやね(婆ちゃんの名前だ)と同じ学校だった時もあやねと同じ学校は嫌だとかまくし立てるわ、円香(母ちゃんだ)を校門前で待ち構えて無理やり連れ去ろうとするわ……!後刑務所に入ってたのにまた戻って来たのか忌々しい!!」
低く吐き捨てるように叫び、まるで怨霊の如くカッと目を見開き鼻にシワを寄せて言い
「……………………」
俺はポカンと口を開けてしまった。
「ぁ……あぁ、ごめん、驚いたよな、ごめんごめん」
それに気付いて慌てて手を振っていつもの表情に戻る。
「あ、あぁ、うん、まぁ……」
なんだか気まずくなってしまい
「えーと……も、モンハンでもする?」
と慌てて話を摩り替えた。
その夜
母ちゃんと一緒に寝てた俺は誰かに揺り起こされて起きた。
「母ちゃん、まだ暗いじゃん…眠らせろよ~…」
眠気に勝てず手を振り払って布団に潜り込むも、手は布団の上から軽く叩いてくるし、ガーガー低い音が聞こえて煩くて寝れず渋々目を開いた。
「……………アキ?」
見上げれば布団をしつこく叩いて起こして来たのはアキで横を見ればガーガー喧しいのは母ちゃんのイビキだった。
「面白いもんが見れる。来いよ」
アキがニヤリと笑う。
正直寒いし面白いものとか明日で良いんだけど…
嫌そうな顔をすると「いいからいいから!早く来いってば」
無理やり腕を引っ張られて強制的に上着を着せられ、モコモコした靴下を履かされた。
「こっちこっち」
手を繋がれて廊下を横切り、玄関に来る。
「夜中に外に出たら怒られるよ」
俺はアキを睨んだが
「座敷童子にお願いされた、て言えば許してくれるよ」
と笑われた。
確かに母ちゃんはともかく婆ちゃんは信仰深いから許してくれそうだ。
「それに絶対お前も喜んでくれるから!」
な!と靴を履かされて背中を押されて外に出される。
空は分厚い雲が掛かってて雪がチラホラ降っており、足を踏み出せば昼間溶けた雪が夜の冷気に固まってツルツル滑る氷になってた。
超戻りたい。
「ほら行こう!」
アキは氷の上でもいとも容易く歩いて行く。
俺は渋々凍った地面を慎重に歩き出した。
「ここで立ってろ。」
「は?」
俺は門扉の少し手前で立たされた。
「何も面白そうな事は無さそうなんだけど…」
赤くなった手にはぁ……と白い息を吹きかけて渋面を作れば
「もう少ししたら来るよ!ちょっとここで待ってて」
とアキは消えてしまった。
「はぁー……」
ため息をついて上着についた雪をパッパッと払い、辺りを見回す。
まるで墨汁をぶちまけたような空に、特に黒々しくて不気味なのは門扉の側の大きな古木。風も無く、しん……と静まった世界はまるで異世界じみてて寒さと静けさに研ぎ澄まされた耳は雪が降り積もる微かな音も聞こえるような気がする。
と
サク……サク……微かに足音が聞こえ、俺はビクッとしてそちらを見る。
「アキ?」
塀が邪魔で見えない。
「誰かいるのか?」
嗄れた男の声
アキじゃない!!!
俺は慌てて走ろうとして
「うわ!」
下が氷なのを忘れてて盛大に泥に汚れた雪に転んだ。
痛みに震えつつ勢いよく振り向くと昼間のお爺さん!!
「ーっ!」
ツラツラ滑る氷に苦戦しつつ立ち上がり、比較的滑りにくい雪の積もった部分を選びながら逃げ出そうとすると
「待ってくれ!」と叫ばれた。
待つ訳ない!無視して逃げようとすると
「話を聞いてくれ!あれは……あの座敷童子はけして良いもんではない!あれはいちゃいけない存在なんだ!」
まるで懇願するように言われた。
おもわず足を止めて見つめる。
「あれは危険だ!お前も早く、早くここから逃げて二度と近寄らないべきだ!」
門扉を開けて入って来て俺の所まで十数歩。
俺は慌てて後ずさる
「ほら、来い!」
手を伸ばされた。
と
ふとお爺さんが顔を上げた。
「うわぁ!」
突然視界が赤くなり、温かいものがビシャッと掛かり、冷たいものがバサバサ降って来る。
目を拭って開ければお爺さんの顔から斜めに木が生えてた。
いや、お爺さんの後頭部から顔を丸々貫いた太い枝が斜めに俺の足元を刺している。
心臓がまだ動いてるのか一定のリズムで生暖かい血が噴き出し、それに押し出されるように小さな肉片が下にドバドバ落ちてその振動で血溜りに細かな泡が出来る。
「ぁ……」
お爺さんの太股を黄色い透明なものがジョロロロロッと流れて枝と一緒に落下したのであろう雪の一部を溶かす。
「あ……」
1歩後ろに下がった時丸い、硬い物を踏んだ。
眼球だった。
「ぁ……」
視界の端に赤い着物の裾と素足が見え、縋るような気持ちで視線を上げれば
無邪気な異質な笑顔がちょこんとオカッパを揺らす。
俺は
絶叫した。
作者黒うさぎ
どうも!表紙画像を選ぼうとタップする度にYahoo!が矯正停止して٩(๑`^´๑)۶ムキー!!!となった黒うさぎです。
アキちゃん第2話です(ノ°∀°)ノヒャッホー
正直母ちゃんと喧嘩した大地が母ちゃんなんていらないって言い出してじゃあちょうだい、てアキちゃんが母ちゃんを貰っちゃうのと悩んだのですがとりあえず爺ちゃんが犠牲でおさめてみました。
怖がって頂けたら幸いです。