バカな家族が多くて助かるわぁ…
ペットショップで自身が育てた猫が売られていったのを確認した優美はほくそ笑む。
優美は働くのが嫌いでその癖して金遣いは荒い女だ。
身に付けてるものは全てブランド品だし美容には手を抜きたくはない。
でも風俗なんかで男のイチモツを咥えるなんて汚くて嫌。
そこで手を出した職業はブリーダーだった。
「ただいまー」
車を駐車場に停めて鍵を回して家に入るとムワッと獣臭と何日も洗ってない公衆便所の臭いと生ゴミの臭いをミキサーにかけてシャッフルしたような猛烈な悪臭がした。
おもわず一瞬足を止めて顔を顰める。
「くっせーなぁ」
低く呟けばそれが聞こえたらしい猫と犬がビクッとして檻の中で震え、怯えた目で見上げて来る。
無性にそれが愉快になり、タバコを出して火を付けて大きく吸う。
日が沈んだせいか暗くて電気を付ければ蛍光灯に照らされ驚いた蝿が何匹かブウゥン…と飛び出した。
「コイツもそのうち処分しねーとな」
咥えタバコでため息つく。
視線の先にはやせ細って息絶えた猫の死骸があり、腹は破れて白い蛆が無数に蠢き今も尚数匹の蝿が新たに卵を産み付けていた。
フン、と鼻を鳴らして近くの檻の猫にタバコを押し付けて火を消す。
ギャーッと悲鳴が上がったが知るもんか。
そのままタバコを檻の中に落とすととある檻を覗き込む。
グルルルッ!
中に居た毛が絡まって灰色になった何の犬種だかわからない犬が睨んできた。
あら?自分の身の程がまだわからないのかしら?
バカな犬だわ。まぁ、良いけど
優美はその犬の足元にいるまだ毛も生えてない小さな子犬を見てニヤリと笑う。
子犬は2週間後には金になる。
子犬は幼ければ幼い程可愛くて高く売れる。
本来3週間は授乳期間が必要らしいがペットショップでは例え引き取られた子に疾患があってもこちらに請求しないという書類に新たに飼い主になる人間はサインするんだもの。
なら授乳期間とか守るだけバッカみたいだと思わない?
ワンワンワンワン……キャンッ
バカみたいに吠えてる母犬に檻越しにスタンガンを喰らわせると悲鳴があがった。
ざまぁ見ろ。
優美は冷蔵庫から注射器を取り出すとまだ痛みに震えてる母犬の首を鷲掴みにして引き寄せ、膣に強引に注射器をねじ込み、精液を注ぐ。
こうすれば子犬が売れる頃にはまた子犬が産まれて無駄が無い。
ぐったりした母犬を離し、注射器をゴミ箱に放り投げると優美は餌を持ち上げ、天井まで山積みになった檻を見上げて愉快そうに笑う。
使えなくなったら捨てればいい。
餌なんて栄養バランスが悪かろうが1番安いやつを与えればいいし、解凍した精液さえ入れれば勝手にポンポン金が出来るんだ。
なんて美味しい仕事なんだろう。
そんな優美を見る冷たい金色の目。
優美はそれに気付かなかった。
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ある日の事だ。
優美は子猫を競りに出した帰り、車を走らせる。
もうどっぷり暗くなり、小雨が降ってる為白く靄がかかったようになり、普段下のみにむいてる蛍光灯の光が雨に反射して円がかかったようにぼんやり光ってる。
意外に遅くなっちゃった…
ため息つき、車から出てバンッとドアを閉めて時間を確認する。
19時半…
もうお笑い始まってるじゃない。
慌てて鍵を開けて中に入り、片足で立ってパンプスを脱
「ーーーーえ?」
にゃぁん。
外灯に照らされた暗い玄関に黒い猫がいて踵を返して奥に逃げていった。
檻が壊れて脱走したんだろうか?そんな事を考えながら
「ちょっと!あんた待ちなさいよ!」
と廊下に足を踏み出すとピシャリと水音がし、ジワリと液体が靴下に染みる感じがした。
おしっこでもされたかしら?
玄関のドアを閉めると真っ暗になるので蛍光灯を点け、おもわず「きゃ!」と声を漏らす。
真っ赤な液体の中に白い蛆がピチピチと鮮魚のように跳ねており、点々と赤い足跡が奥に奥にと続いてた。
猫の中には優美が作った傷や自傷の傷に蝿が卵を産み付けて蛆がわき、生きながら食われてる猫もいる。
その中の1匹が脱走したんだろう。
優美は猫の足跡を踏まないように奥に進む。
足跡は少し開いた襖の奥、和室へと続いていた。
襖を開き、見るとまっすぐ開いたクローゼットの中に続いてる。
優美はふつふつと怒りが込み上げて来るのを感じた。
あのクソ猫、クローゼットを汚しやがって。
そのクローゼットの中にテメェよりも価値のある服が沢山あるんだ。
ふざけんじゃねぇ!
ズカズカとクローゼットに近寄り、閉まってたもう片方の扉をバンッと開けて中を睨みつける。
だがクローゼットの中は茶色の綺麗な板に色とりどりの服
猫どころか足跡すらも無かった。
「あれ?確かに足跡あったはず…」
キョロキョロと優美は視線を巡らせる。
その時
「きゃっ!」
大きな塊が優美に突進して来た。
尻餅ついてその塊を見て優美は息を飲む。
濁った目はグルリと上を向き、舌がダランと出た口からはダラダラと黄色みがかった透明な液体が床にぽたぽたと溢れ、ポッカリ開いたアバラからは赤黒く腐った肉が見えてる、元はラブラドールレトリバーだった物体だ。
「な、な……な、え?な…!?」
明らかに死んでる動く訳がない物体が動いてる現状に意味がわからな過ぎて優美は混乱していた。
スゥー………
微かな音をたて、自動ドアのようにスライドした押入れ。
「ひぃ……っ!!」
音につられて恐る恐る押入れに視線を向け、ゆっくり姿を現したモノに優美は引き攣った声をあげて床を蹴って後ろに後ずさるもすぐにクローゼットに背中が当たってにげられなくなる。
にゃあぁん…うにゃー……あ〜……うにゃあぁあん…
片目がポッカリ空いた犬、肋骨が見えてる猫、やせ細った猫、傷ついた犬……
どれも目は濁り、肉は腐り、傷口からボタボタと蛆虫を零して内臓を引き摺っていた。
「いやぁ……!来ないで…おねがい来ないで…!」
近付いて来たそれらにこれ以上後ろに下がれない癖に必死に床を蹴る優美
腐った犬と猫は逃げれない優美を馬鹿にするようにゆっくりと囲む。
にゃあん
クローゼットの中で金色の目の黒猫が鳴いた。
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「警部、この事件何だと思います?」
それから1週間後、新米刑事は訳のわからない事件に頭を悩ませていた。
「祟られたんだよ」
この道45年のベテラン警部が苦笑しつつ答えてやる。
数年前から悪臭がすると周りの住人から苦情が出てた家に区役所の人間が押し入ったところ、まともに餌も与えられず水には藻が生え、糞尿の上で生活させられて虐待されてた弱った犬猫と和室で10数匹の犬猫の死体に囲まれて死んでいた住人の女を発見した。
犬猫の死体の歯や爪には女の皮膚や血が付着していたが不思議な事に犬猫の死骸は女の死骸よりも早く死んだものだった。
「こいつらは長い間この女に苦しめられたんだ。祟り殺されても不思議じゃない。」
警部と呼ばれた男はそう呟いて子犬や子猫の死骸がつめられたゴミ袋を一瞥する。
「またまたぁ。死んだ動物はそのまま腐るだけですよ、変な事言わないで下さいよ」
新米刑事はそう笑ったが
同意するように廊下を横切った金の瞳の黒猫が
にゃあん
と鳴いた。
作者黒うさぎ
パピーミルという存在を知った時から1度こういう話を書いてみたいと思ってました。
その場のノリで書いちゃいましたが満足です(* Ŏ∀Ŏ)・;゙.:’;、
皆さん、ペットショップでペットを買う時には気をつけて下さいね