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これは実話です。
怖くもなければ感動するお話でもありません。
今まであった出来事のなかでなんとなく不思議に思った出来事です。
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3ヶ月ちょっとの間、私は精神病院に入院することになった。
数年前に精神障害と診断され、薬の調整をするためだった。
病状が悪化していたことが理由で生活に支障がでてたことも理由だった。
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隔離病棟とよばれるところで入院することになった。
一般的な隔離室は一人で入るが、私が入院した隔離病棟は数人で入る病棟で、いわばシェアハウスやグループホームのようなところ。
男性棟と女性棟があり、間に全員が集まって食事をする大部屋がある。
患者は皆、精神障害を持っているため、悪影響を与えないようにとTVや本は一切置いてない。
音楽やラジオを聴きたくても、長いコードで危ない行動に出てしまう可能性があるからと、持ち込み禁止。
着替えを身内から受け取る際も、紐やゴムがついていないことを確認しなければならない。
窓や時計が無いせいで一日一日を長く感じ、ベッドで横になるか、大部屋で患者同士仲良く話すことくらいしかすることがなかった。
夜九時には消灯し、男性棟と女性棟にはカギがかけられる。
寝たくても一日中のんびりしていれば疲れが溜まるわけもなく、睡魔が来てくれることはない。
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「あ~ぁ、今夜も眠れない……」
白い天井を見つめながら毎晩つぶやいていた。
隔離病棟に入るのは心を落ち着かせるためだ、と主治医は言っていたけど、あまりにも暇すぎてすることが見つからないというのも逆にイライラする。
何度も寝返りをうちながら、重くない瞼を無理矢理とじて朝になるのを待った。
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隔離病棟には毎日、廊下で体育座りをしているおばあさんがいる。
山田さん(仮名)といって、もう七十歳を越えている人。
精神障害の他に認知症もあるらしく、自分の年齢を二十五歳と勘違いしているそうだ。
その証拠に、誰かが山田さんの前を通ると、
「私は二十五歳だ!」
と必ず叫んでいた。
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私が通るときにも叫ばれた。
相変わらずだなぁ……
そう思いながら自分の病室に戻った。
ある日もまたあの言葉。
ベッドで横になっていると聞こえてきた。
誰かが前を通ったんだろう……
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しばらくして、え?と思う。
私がいる病室は廊下の一番先にある。
山田さんは毎日、私がいる病室の出入口そばで体育座りをしているため、誰かが山田さんの前を通ったのだとしたら私と同じ病室の人はず。
体をベッドから起こして四人部屋のベッドを見るが、私以外の三人は大部屋にいるのか姿はない。
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「私が戻って来たときと入れ違いで誰かが出ていったのかな?」
首を傾げながら、そう思うことにした。
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またある時、私は喉が乾いたので大部屋でお茶をもらって来ようとベッドから降りた。
部屋をでる際、病室を眺めると一人ベッドで寝ている人がいた。
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廊下にでて山田さんの前を通るといつもの言葉。
お茶を飲んで病室へ戻る際も言われた。
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「こうして毎日言われてると、イライラするというよりコントみたいで面白いな(笑)」
山田さんを少し見下した感じでチラッと見た。
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あれ?
私が病室を出る時にベッドで寝ていたはずの人がいなくなってる。
大部屋に行ったのか?
だけど私がお茶を飲んでいるときに山田さんの声は聞こえなかった。
通る人全員に必ずあの言葉を言うわけじゃないのかな?
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多少気になりながらも気にするほどの事ではないよね(笑)と考えるのをやめた。
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翌朝、朝食を済ませた私は大部屋にいた。
そろそろ病室に戻ろうと椅子から立ち上がると、また山田さんの言葉。
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もう廊下にいるのか……(笑)
体育座りをしている山田さんの前を通る私にもあの言葉が来た。
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あれ?
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病室には誰もいない。
廊下で誰ともすれ違ってないのに……
山田さんは誰に言ったんだ?
認知症や病気のせいで幻覚の症状でもあるのかな?
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いろいろ頭のなかで疑問が広がった。
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そんな出来事がつづき、やっと退院できる日を告げられた。
家に帰れる喜びがあふれた。
帰ってまず何をしようかな?
何を食べようかな?
楽しみがありすぎて、早く退院日になってくれ!と心のなかで願っていた。
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退院日の前日、起床してトイレへ行こうと大部屋へ向かう。
山田さんの姿がない。
まだ寝てるのか?
アクビしながらトイレを済ませ、しばらくすると朝食の時間が来た。
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「ここの食事とももうすぐお別れか……」
少し名残惜しく感じながら朝食を済ませ、自分の病室に戻った。
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あれ?
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やっぱり山田さんの姿がない。
具合でも悪いのかな?
別にいいけど……
明日の退院日が待ち遠しくてついニヤけてしまう。
入院最後の一日はとても短く感じた。
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そして退院日。
看護師と一緒に忘れ物がないことを確認して、隔離病棟を出た。
山田さんの姿は昨日から見ていない。
病院の玄関まで一緒に来てくれた看護師に質問してみた。
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「あ~、山田さんはもう隔離病棟にはいませんよ」
詳しく聞きたかったが、プライバシーの侵害にあたるからと看護師は何も言わなかった。
作者退会会員
実話です。
怖くもなければ感動するお話でもありません(笑)
昔あった出来事のなかでなんとなく不思議に思った出来事を紹介してます。