今日こそは一番乗りだろうと、来てみればすでに、待合は大勢の人でごった返していた。
フウと溜息をつき、やれやれ長くなりそうだと、座る場所を探してキョロキョロしていると、見知った顔が満面の笑顔で手招きをしていた。
「こっちこっち、山田さん。」
そう言いながら、田中さんが、自分の横に置いたバッグを膝に抱えて、長椅子を叩いた。
「座りぃ、座りぃ。」
「早いねえ、田中さん。どうな、調子は。」
「ようならんよ。全くだめじゃ。」
「どこが悪かったんじゃったっけ?」
「わしゃあ、膝じゃ。あんたは?」
「わしは腰を痛めてねえ。」
「そうな、いけんねえ。わしゃあ、こねえ膝が痛うてかなわんのに、うちの嫁ときたら、痛いわけなかろうがね、いったい何回病院に行きゃあ気が済むんかね、って言うんよ。」
「そりゃあ、酷いねえ。」
「そうよ、鬼嫁じゃけえ。ほいじゃけど、息子夫婦に同居して面倒見てもらいよるけえ、わしも肩身が狭いわ。」
「うちも似たようなもんよ。ほいで、ここの先生ときたら、わしがこんなに痛いち言いよるのに、痛み止めの一つも出してくれんのよ。ひたすら、リハビリせえじゃのなんだの。リハビリしても、一つも良くならんの。」
「たなかさーん、たなかひでとしさーん。」
「あ、山田さん、わし呼ばれたけえ。ほいじゃあ気をつけんさいよ。お先にね。」
「はいはい、ありがとうね。」
どこのご家庭も年寄りに冷たいものだ。
「田中さん、まだ痛みますか?」
「ええ、痛みます。特にこの辺が。」
白衣を着た男が、老人にズボンを脱ぐように促すと、プラスドライバーを取り出した。
慣れた手つきで、小ネジを回すと、外したネジを失くさないようにシャーレに慎重に乗せ、膝を開け、クレCRCをひと吹きした。
「動かしてみてください。」
ベアリングのシャアシャア言う音が響く。
「動くのは動くんじゃけどね、やっぱ痛いね。」
「そうですか。いつもの湿布出しておきますね。」
そう言うと、男はまた慣れた手つきで膝を閉じて、小ネジで固定した。
「お大事に。」
半ば不満そうな老人は一礼すると、メンテナンス室を出て行った。
「痛いわけないのに、どうしてお年よりは痛いというんでしょうね。」
看護士は溜息をつく。
「記憶だよ。以前、そこにあった膝の痛みの記憶がそう感じさせるんだよ。もう膝どころか、体中機械なのにね。人の脳ってのは、複雑だからね。」
白衣の男は有能な修理技師である。
「やまださーん、やまだかずあきさーん。」
「はい。」
「診察室へどうぞ。」
作者よもつひらさか
山口弁で読みづらいかもしれません。
追記 最初自分が肩が痛いので、間違って上半身を脱ぐと表記していましたが、膝が悪いのならズボンでした。
リハビリします。