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椿はとっても美しい。
白い雪で化粧して、真っ赤な花で咲き誇る。
緑の葉っぱに包まれて、凍える冬を乗り越える。
だけど実はちょっと不気味。
昔は縁起の悪い花と言われ、庭に植える人はいなかった。
枯れるとガクごと落ちることから、斬首に例えられたらしい。
あんなに美しい花なのに。
だけど今の時代は関係ない。
美しく咲き、儚く散っていく。
冬を代表する赤い花。
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私の家は何十年も前からたつ古い家。
私が生まれる前に亡くなった曾祖母が、椿の花は美しいと庭にたくさん植えたらしい。
毎年椿が咲き誇り、それを眺めるのが私の楽しみだった。
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「綺麗だねぇ……」
私が椿を眺めていると、祖父が来た。
私の頭をポンとなでる。
「おじいちゃんも椿好き?」
祖父は優しく微笑む。
「あぁ好きだよ、美しいから。
昔は縁起の悪い花と言われたそうだが、私はそうは思わない。
こうして美しく色づくのだから」
祖父はもう一度、私の頭をポンとなでた。
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ある日、友達の家から帰ってくると庭に一人の女性がいた。
女性は椿を見つめている。
藍色の着物を着た細身の女性は、私がいるのに気づいたらしく軽くお辞儀をして立ち去った。
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居間にいる祖父と祖母に女性の話をすると、祖父はそうかと笑顔になった。
祖母は真顔で祖父を見ていた。
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夜、自分の部屋に入ろうとしたとき祖母に呼び止められた。
私を見るなり祖母は真顔で言う。
「いいかい?
今日のことは二度と言うんじゃないよ。
もう忘れなさい、いいね?」
いつもとは明らかに違う祖母を、私は怖く感じてしまった。
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朝トイレへ行こうと廊下を歩く。
途中、祖父の部屋の前に来たとき変な音が。
「?」
足音を立てないようにゆっくり近づき、襖を少し開けて覗いてみる。
明かりがついていないせいで朝なのに薄暗い。
よく目を凝らして見ると、誰かが座ってる。
後ろ姿だけれど服や髪型で祖母だと分かった。
祖父の部屋で何を?
ずっと覗いてると祖母の声が。
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「いつまでも覗いていたら
アンタも同じ目に遭うよ…………」
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祖母がスッと立ち上がり、振り向こうとしたのがあまりにも怖くて私はその場から逃げた。
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自分の部屋で震えていると、玄関を開け閉めする音が。
カーテンを開けて外を見ると、祖母が大きな袋をもってどこかへ歩いていく。
一時間後、帰ってきた祖母の手に大きな袋はなかった。
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昼食の時間になり居間へ行くと、父、母、祖母がいた。
祖父は体調が悪いから部屋で寝ていると、祖母が父と母に言っている。
朝の出来事で私は祖母に違和感を感じはじめていた。
この祖母は何かおかしいと。
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夜になり家中が騒がしくなりはじめた。
どうしたのか父に聞くと、祖父がいないと言う。
年寄りだからそう遠くへは行けないはずだと、警察に捜索願いを出す。
家族みんな眠れないまま、朝がきた。
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私はある場所へ向かった。
小学校のゴミ焼却炉。
もうゴミは燃やされた後だったが、足元に何かが風で飛んできた。
焼却炉の中から飛んできたのか、ところどころに燃えた跡がある。
「これは…………」
足元に飛んできたのは、祖父が好んで着ていた服だった。
よく見ると赤い何かが滲んでいる。
焼却炉の中を覗くと、燃え残ったブルーシートがあるのに気づいた。
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ため息と一緒に、やっぱりだ……と声がもれる。
涙が流れる。
泣きながら家に帰った私は、泣き顔を見られないようにと涙を袖で拭い、鼻をすする。
椿が咲くところにまたあの女性。
今度は椿ではなく私を見ている。
真顔で私を見つめる女性に何も言わず、唇を噛みしめて家に入った。
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結局祖父は行方不明のまま一週間後、警察は捜査を打ち切ることを決めた。
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祖父がいなくなったのは祖母のせいだ。
それが分かっているのに……。
心のモヤモヤが消えないまま、私は椿を眺めていた。
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ポトッ……
椿が一つ地面に落ちた。
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ポトッ…… ポトトッ……
椿が一つ、また一つと落ちていく。
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ポトッ…… ポトトッ……
椿と一緒に涙もあふれる。
気づけば椿の下を掘りはじめていた。
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私の名前を母が後ろから呼ぶが、私は黙って掘りつづける。
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雪がだんだんピンクに染まり、私の手も赤くなる。
私の温かい手に、シワシワの冷たい皮膚があたる。
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もう少しだ……!
息をきらして掘りつづけ、母が後ろで悲鳴をあげた。
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赤く染まった雪の中には、冷たく固まり息絶えた祖父がいた。
打ち首にでもされたかのように、頭と体が別れた状態で。
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しばらくして祖母が逮捕された。
私は誰もいない祖父の部屋に入って灯りをつける。
部屋の隅にある机の上に写真立てが一枚。
写真にはあの女性がうつっていた。
藍色の着物を着て、椿の前にたつ姿。
父に写真を見せると懐かしいなぁ、と言って話し出した。
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女性は祖父の娘で、父の姉にあたる人らしい。
祖父は一度離婚していて、女性は祖父が離婚する前に生まれたらしい。
父は祖父が再婚して生まれたため、実の姉ではないそうだ。
女性は生まれつき体が弱く、若くして亡くなったらしい。
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祖母が祖父を殺した理由は、娘が亡くなったことをいつまでも悔やんでいることに嫌気がさしたかららしい。
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私は父に、女性が椿を見つめているのを見たと話す。
父は不思議がることなく、姉さんも椿が好きだったからと言った。
祖父がいなくなった後にも見たことと、その時は私を見つめていたことも話した。
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「お前に探してほしかったんだろうな……
おじいちゃんはここにいるよって……」
父が私を強く抱きしめる。
手をつないで父と一緒に椿を見つめる。
女性の写真を見ながら私が父に聞く。
「綺麗なお姉さんだね、名前は?」
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父は私の手を強く握って、
「椿」と言った。
作者退会会員
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