「ここでの生活は最高です。みんな助け合って生きています。
老いも若きも協力し合って、最低限自分たちの生活に必要なものを
すべてこの中で賄っているんです。」
額に汗して、畑仕事をしながら、若者がいきいきとテレビカメラに向かって話している。
テレビインタビューを受けている若者を、遠くから老人たちがニコニコしながら見守っている。
少子高齢化もいよいよ末期症状の昨今、十分な保障も年金もなく、世の中は
こういった過疎化の進んだ村では老人たちが独自の自治区を形成して暮らしていた。
生活はほぼ自給自足。生活するのに最低限のものを自分たちの力で全て賄う。
国の保障が薄い近年、生きるための選択である。
また高齢化と同時に、就職難で社会から溢れた若者、いわゆるニートやワーキングプアーの
増加も著しく、行き場を失った若者たちがこういった自治区に流れ込んでくるのも珍しくなかった。
食えないよりは食えるほうがマシ、生活の知恵は老人から、労働力は若者から。
こういった自治区のことを老連と呼び、全国各地方に点在していた。
「はい、OKです。本日はご協力ありがとうございました。」
撮影隊は引き上げて行った。
老人たちは、ニコニコしながら手を振り、それを見送った。
そして、自治区の入り口をゲートキーパーが封鎖した。
「なかなかええ塩梅だったよ、中野君。いらんことは一切言わんかったしのぅ。」
俺は無理やり演技で笑顔を作っていたので疲れてしまった。
「まぁいらんことは考えんほうがええよ。あんたぁ、行くところなんてなかろうがの?」
じいさんはシシシと笑った。
俺たちは家畜同然に働いている。
社会でつまはじきにされた若者たちは行き場はない。
ニートも親が死ねばただの無職、収入も働き口もない。
誰もニートなんて雇わないし、近年オートメーション化が著しく、人件費を払うよりも
マシーンを購入するほうが得、徹底した合理化が進められ仕方なくこういうところに流れ着くのだ。
別の老人が来て言った。
「まぁここから逃げようなどとは思わないこっちゃ。アンタらから来たんじゃからの。
ここにおったほうがええ。国がアンタらに何をしてくれるっちゅうこともないからの。」
その通り、全く異論は無い。
しかし、ここは老連が法律なのだ。
先日、俺たちばかりが重労働させられるので、キレたやつが突然老人に暴力を働こうとした時も
そいつは猟銃で足を打たれた。普通なら警察沙汰だ。
しかし、ここには外界との通信手段は一切遮断されている。
自治区は狭い集落で仕切られていて、高い壁に囲まれた建物が点在し、各集落では
かならずゲートキーパーが居るのだ。ほぼ刑務所と一緒だ。
しかも逃げおおせたところで、俺たちに生活の保障はない。
俺たちはここで飼われるしかないのだ。
それも仕方ない。
でも、あの忌まわしい物だけは見たくない。
老人ばかりなんだから、当然死人は出る。
「あぁ、そろそろ山田さんが、ええ塩梅になっとるんじゃないかね?」
「おお、そうじゃった。もうええころじゃのう。」
「きょうはご馳走じゃのう。シシシ。」
俺は身の毛がよだった。
山は蛋白源が少ないのだ。
猪や鹿などの動物はもうとっくに食い尽くされて絶滅危惧種となっており、滅多にお目にかかれなくなっているのだ。
老人たちはぞろぞろと乾燥室へ向かう。
先日亡くなった、山田のおじいちゃんの干し肉をとりこむためだ。
俺はまだ、一度も人を口にしたことがない。
人間として終わるような気がするから。
かえるや蛇を食うほうが、まだマシだ。
作者よもつひらさか