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長編14
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【5話】導き【店長】

海面がキラキラと、刺すような夏の日差しを反射させている。

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海を見ていると人間は心が落ち着くと言う。

一定の間隔で押し寄せる波を見ていると、脳がα波を発しリラックスできるだとか。

母親の羊水の中に居た時の記憶だとか。

海から生まれた生命体としての遺伝子的なものだとか、所説諸々あるが。

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これから起こる事を考えると、俺は落ち着く事などできなかった。

「これより、当船は発進します。尚、安全の為-----」

と言う、アナウンスを聞きながら、俺はシートに深く腰掛けるのだった。

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「マスターは除霊が出来るんだろう?」

常連の鈴木さんが、カウンター越しにその様な事を言ってくる。

はて、その様な事実はこれっぽちも存在しないのだが。

「紅茶を入れる事なら出来ますけども、除霊なんて出来ませんよ。」

「あれ?そうなのかい?でも沙希ちゃんがねぇ・・・」

と言い、鈴木さんが顔を向けた先。テーブル席に座るカップルに注文の品を持って行った倉科がいる。

何やら楽しそうに談笑しているのだが。

「本当ですよ~、ウチの店長は除霊が出来るのです!オオヤマツミを片手で倒したらしいです!」

等と聞こえて来た、どうやらアイツが原因のようだ。

それにオオヤマツミは神様だ、倒すわけないだろう。

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俺は「はぁ・・・」と溜め息を吐き。

「除霊等は出来ませんが、何かお困りならお話くらいなら聞きますよ?」

我ながら早死にしそうな性格であると思う。

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鈴木さんはポツリポツリと話始める。

彼は、県内の離島出身なのだが、その島で民宿を営む親戚から、不可解な現象が起こると相談されている。

全域が国定公園に指定されているその島は、それなりに観光客も訪れる場所なのだが。

島民しか通らないような路地に、今は使われていない古井戸がある。

その古井戸で不可思議な現象が起きているのだと言う。

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具体的には、前日雨も降っていないのに、朝になると井戸の周辺が水浸しになっていたり

深夜、水に濡れたなにかを引き摺るような音が聞こえたり

井戸の周りで人影を見た。等と言うものだ。

本職の人にお祓いを頼んでみたそうだが、どの坊さんや霊能力者もおかしなモノは何も見えないと言うらしい。

だが、いつまで経っても怪奇現象は収まらないので、本島にいる鈴木さんに誰かツテはないか?と相談が来たとの事だ。

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「わっかりました!その因果私達が断ち切りましょう!」

いつの間にか俺の隣に立っていた倉科がそんな事を言い出した。

「安請け合いをするな、そもそもお前は金色にもなれないぞ。」

本職の人間にすら解決出来なかった事を俺がどうにか出来るはずもない。

「しかしだねぇ、私には他に相談できるアテもないし。

旅費は負担するし、宿泊先はその親戚の所を使えるようにするから、様子を見るだけでもお願いできるかな?」

そこまで言われれば断りにくいというものだ。

斯くして俺は、古井戸の謎を調査する羽目になったのだった。

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「て、てんちょ~・・・きもちわるい~」

隣に座る倉科の声によって、俺は現実へと引き戻された。

船酔いでもしたのだろう、口元を抑えている。

「全くお前は・・・席変わるか?」

窓際の席を譲ってやったのだが。

「波がおしよせてくるぅ~・・・うえぇぇ・・・」

逆効果だったみたいだ。

世話の焼けるヤツだ、頼むからリバースだけはしないでくれと、背中をさすってやる。

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出発してから20分程が経っただろうか。

俺達の乗った高速船は目的の島に到着した。

太平洋側に浮かぶ、人口2,000人程の、夏はタコ、冬はフグが名物の小さな島だ。

「うわー!夏だー!海だー!ビーチだー!」

島の西側にある港に降りた途端、倉科のテンションが上がり出す。

さっきまで波に揺られて気持ち悪そうにしていただろうに、コイツの切り替えの早さはなんなんだ。

「遊びに来たわけじゃないからな。あんまりはしゃぐな。」

「見て見て!店長!タコ!タコだよ!」

島の名物でもあるタコのオブジェに向かって走り出す。

やはりコイツを連れて来たのは失敗だったのか?

しかし鈴木さんは2人分の旅費と宿泊を手配してくれたのだ。

どうにも彼は俺と倉科の関係を勘違いしているフシがある。

元々俺1人でやっていた店なのだ、そこにバイトとして突然倉科を雇い入れたのだから、勘違いされても仕方ないのかもしれない。

誠に遺憾ではあるが・・・もう一度言おう、誠に遺憾だ。

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宿泊先である鈴木さんの親戚が営業する民宿に向かう途中の看板には、地元の小学生が書いたのであろう「希望」や「未来」等の文字が書かれた習字の作品が張り出されている。

生徒達の苗字も大半が鈴木だ、小さな島なのだ、住民の苗字が同じなのはよくある事だ。

うむ、少年少女よ大志を抱け。決して隣の女みたいに成長するでないぞ。

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暫く漁港沿いに歩いていると、目的の民宿が見えて来た。

鈴木さんの親戚が営む民宿である、経営者の方々も例にも漏れず、鈴木さんだ。

玄関をくぐるとすぐに、女将さんであろう女性が裏から顔を出す。

「こんにちは、鈴木健三さんのご紹介で伺いました。浅葱と申します。コイツは付き添いの倉科です。」

「はい!倉科です!助手です!よろしくお願いします!」

と、2人揃って挨拶をする。いつの間にか助手になってるヤツがいるが、気にしたら負けだ。

「こんにちは、ようこそいらっしゃいました。突然の事で申し訳ないですが、どうぞよろしくお願いします。」

とても柔和な方だった。

民宿はご主人と女将さん、息子さん夫婦で経営しているらしい。

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1階にはロビーと宿泊客共同の風呂。

2階には和室1部屋と、宴会場。

3,4階には和室が4部屋ずつある。

部屋にトイレはないので各階にあるトイレを使用との事。

俺達は2階の和室に通された。

お盆明けなので他に利用客はいないらしい。

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ふと思ったのだが、俺はコイツと同じ部屋で寝泊りしなければならないのか。

年頃の女としてそれはどうなのだ?と思い倉科を見るが。

「うめー、タコせんまじうめー。」

遠慮もせずにお茶請けのタコせんべいをポリポリと齧っていた。

心配した俺が馬鹿だったようだ。

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荷物を置いてしばらくゆっくりした後、件の古井戸まで女将さんに案内して貰った。

民宿の裏の道を少し歩くと、ソレはあった。

石垣で囲われた小さな井戸だ、もう使われていないので転落防止の為、銅蓋をしてある。

「蓋を開けて中を覗いても構いませんか?」

「ええ、大丈夫です。」

恐らくは何かを再利用して作られたであろうか、所々に溶けて伸びた金が張り付いているその蓋は、俺程重くもなく、俺の力だけでも持ち上げられた。

もう埋められているのだろう、深さは3m程しかない。

「どうですか?なにか感じたりしますか?」

と、女将さんに聞かれるが。特に何も嫌な感じなどはしない。

「おい、倉科は何か感じるか?」

後ろにいる倉科に声を掛けるが。

「うりうり~、ここかぁ?ここがええんやろぉ?」

野良ネコとじゃれ合っていた。ダメだコイツ。

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怪奇現象が起こる夜まではまだまだ時間がある。

近所の人達に詳しい状況を聞いてみようと、少しの違和感を感じつつ井戸を後にする。

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井戸周辺に何かを引き摺ったような水跡が残っていたり。

それと関係があるのか、深夜何かを引き摺るような音が聞こえたりと。

事前に聞いていた情報ばかりであったが。

興味深い話も聞けた。

と、言うのも人影を見た。と言う情報があるのだが。

見た人達によって差異があるのだ。

深夜、井戸の前に立つ女が居たが、フッと消えた。

井戸の周辺でフラフラと歩く男の子を見た、それも深夜にだ。

漁師の恰好をした男が井戸の前でぼーっと立ち尽くして居た。

等々、皆違ったモノを見ていた。

集団パニックの類か?と仮説を一応立てておく。

聞き込みはここまでにして、宿に戻り夜まで待機する事にした。

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夕飯を用意して頂いたのだが、此方が恐縮してしまうような豪華なものだった。

鯛の尾頭付き、名産の蛸の刺身に、伊勢エビのグラタン等々。

普通の宿泊客の料理より豪華なんじゃないか・・・と思えるような物が並んだ。

味の方は言うまでもない。倉科に至っては、感動の余り泣きそうな顔で食している。

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「夜は長いからなぁ、先に風呂行ってくるわ。」

素晴らしい夕食に舌鼓を打った後、席を立つ。勿論夕飯は完食だ。

「一緒に入ります?」

ニコニコしながら言われた。寝言は寝てから言え。

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風呂から上がると1階のロビーで、倉科と息子さん夫婦が談笑していた。

俺と入れ違いで倉科が風呂に向かったので、彼等にも井戸の事を聞いて見る事にする。

既に得た情報が大半であるが、怪異が起こり出したのは春先からだと言う。

比較的最近の出来事だ。

では、その異変の起こる以前、井戸の周囲で事件、もしくはそれに準ずる事は?

その様な事はなかったと言う。

強いて挙げるとすれば、それまでは落下防止の為にネットを被せてあったのだが、あの銅蓋に変えた事くらいだと言う。

ふむ、さっぱりわからん。

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変な話は早々に切り上げ、淹れて戴いたコーヒーを飲みながら世間話をしていると。

程なくして倉科が戻って来た。

礼を言ってから部屋に戻ったのだが。

襖を開けると布団が並べて二つ敷いてある。

「お・・・おぉぉぉ・・・」

倉科が唸っている。

「て、てんちょー!もしかして一緒に寝るんですか!」

コイツ今更気付いたのか。さっきは一緒に風呂入るか?とか言ってきた癖に。

「此処!!この線が国境ですからね!」

布団を引き離し、畳の節目を指さす。

それが正しい反応なのだろうが、露骨にやれられると腹が立つのも事実だ。

「お前の方が領土が広いだろうが!此処を国境にしろ!」

「ギャー!領土侵犯!防衛だ。ヴァリアント!てぇー!」

ブォン!と枕が飛んできた。

すかさずキャッチして投げ返す。あ、被弾した。

「くっそー!左舷、弾幕薄いよ、なにやってんの!」

コイツはネタの宝庫か。

ちなみに、艦長は本編でこの言葉を1回も発していないと補足しておこう。

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修学旅行生の醍醐味である、枕投げの戦果は倉科の轟沈と言う形で幕を閉じた。

2人でお茶を啜りながら、今日得た井戸に関する話を纏めて意見を言い合う。

「あの井戸に落ちて亡くなった人が這い出てきてるとか!」

「それはないな。」

異変が起き出したのは春先から。

その時期に人が井戸に落ちた事実は存在していないし、ましてや多種多様の人影が確認されている。

どれだけの人が井戸で亡くなっているんだ?と言う話になってしまう。

「じゃあ誰かが井戸の中に曰く付きの物を捨てた!」

それならば、以前本職の人間が見に来た時に解決しているものだと思うのだがな。

俺が覗いた時にも何も見えなかったが。

「井戸が霊道になっている!」

それも無いだろう、もし霊道になってるならもっと以前から確認されているだろう。

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日付が変わったくらいだろうか、隣では倉科が「う~ん・・・う~ん」と無い頭を酷使している。

その時だ、遠くの方から微かにだが、ズルリ・・・ズルリ・・・と、何かを引き摺る様な音が聞こえてきた。

これか・・・

「店長・・・音が」

どうやら倉科にも聞こえたみたいだ。

俺達は音の発生元を確認すべく、井戸に向かう為、部屋を後にした。

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宿を出た時には既に音は聞こえなくなってしまっていたが、調査の為に井戸には向かう。

深夜の静まり返った路地をしばらく歩くと、件の井戸にはたどり着く。

話で聞いた通りの惨状だった。

井戸の周辺は水浸しになっている。

しかし、井戸の蓋が開いていたりはしない、ここから這い出て来ているわけではないのか・・・

「これ、水の跡続いてますよ?」

倉科の言葉で気付いたのだが、井戸から水浸しの何かを引き摺った様な跡が路地へと続いている。

なるほど、これが音の原因か。

水跡を辿りしばらく路地を歩くと、漁港に出た。

そして水跡は、海に向かっていた。

一体どういう事なのだ、井戸に居るナニカは海に思い入れでもあるのか?

その後、しばらく井戸の前で待機していたが、これ以上は何も起こらず初日は終わった。

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2日目だ、日中は特にやる事もないので、昨日の事を整理しながら島を観光していた。

倉科とは別行動だ、ビーチに行ったか、また野良ネコと遊んでいるのだろう。

完全に観光気分だ。

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島の反対側まで来ると、この島に来て初めて信号機を見た。

両側とも黄色の点滅だ、これでは信号の意味がないではないか。

島民に詳しい話を聞くと、これは島に唯一の信号で。

なんと小学校の授業で信号の授業があるのだと言う。

子供達が本島に赴いた時に、困らない様にするための事だと言う。

その時だけは、青と赤に変わり、それ以外では黄色なのだそうだ。

なるほど、面白い話だ。

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世間話ばかりで、昨日の事に関する収穫はなにもなかった。

2泊3日なので、明日の昼には島を発たなければならない。

ここまで至れり尽くせりなのだ、せめて何か手掛かりは手にしておきたいものだが。

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夕方になり、部屋でゴロゴロしながら頭を捻らせていると。

「ただいまー!」

元気な声で倉科が戻ってくるが。

はて、俺の目が腐っているのだろうか、件の井戸に被せてあった銅蓋の様な物を持っているのだが。

「なんだそれは。」

「蓋」

蓋だった。

異変が起き出した時期と、蓋を取り付けた時期が被っているので。

蓋を被せた事により霊が怒った!

だから、蓋を持って来た!

ふむ、一理あるな、蓋に原因があると仮定すればの話だが。

コイツにしては頭が回る。

しかし、わざわざ部屋に持って来なくても、どこかに置いておけばいいだろうが。

これ以上は特にする事もないので、昨日と同様に豪華な夕飯をいただき、夜まで待機していた。

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昨日と同じくらいの時間になったので、井戸を見に行こうと、部屋の扉を開けた時だ。

ズルリ・・・ズルリ・・・と、昨日聞いた音が聞こえて来た。

今日も来たか・・・と思うと同時、異変に気付く。

音が、此方に近づいてきているのだ。

倉科が蓋を持って来た事と原因があるのか・・・

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その時だ、バンッ!と何かを叩く音がした。

音の発生した方を見る、倉科の後ろの窓だ。

そこに手形が1つ付いている。

「うひゃ」倉科が間の抜けた声を出すと同時。

ババババン!と、無数に窓に手形が現れた。

ここは2階だぞ・・・

動けないまま、しばらく立ち尽くしていると音が止まった。

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一体なんだったんだ・・・

「一体なんだったんでしょうね・・・」

俺の思考と全く同じ事を、口に出しながら倉科が此方に顔を向ける。

と、同時に、倉科の表情が凍り付く。

彼女の視線は俺に・・・いや、俺の後ろを見ている。

恐る恐ると視線を背後に向けた。

部屋の外の廊下、俺のすぐ後ろに男が立っていた。

宿のご主人ではない。

ボロボロになった木綿の作業着を着た中年の男だ。

格好からしてひと昔前の漁師だろうか。

ソレはフラフラと、動けない俺の横を通り過ぎ、部屋の中に入っていく。

倉科は部屋の隅に逃げ、震えている。

ソレが向かう先には、倉科が持って来たあの銅蓋がある。

やはりあの蓋になにかあるのだろうか・・・

蓋の前に立った男は、フッっと姿を消した。

男の顔は、心なしか安心しているように見えた。

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今しがた起きた現象を整理しようと、部屋に戻り倉科を呼ぼうとした時だ。

俺は再び戦慄する事になる。

先程まで激しく叩かれ、無数の手形の付いた窓。

そこに女が貼り付いている。

もう一度言おう、ここは2階だ。

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先程の中年男とは違い、此方は若い、倉科と同じくらいだろうか。

服装は・・・窓に貼り付いているので、全体像は見えないが・・・ニュートラか?70年代の人間か。

それなりに美人だが・・・まんまホラーである、ぶっちゃけ怖い。

しばらく見つめていると、女は窓から姿を消した。

同時に何かを引き摺る様な音が遠ざかっていく。

行ったか・・・思うと同時力が抜けた。

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先程男がいた廊下を見ると、水で濡れている。

これは掃除が大変そうだな、と思い外にでると。

2階の窓からも水が垂れている。

2つの水跡は、共に海へと続いていた。

倉科を一人部屋に残すのも可哀想だ、頭の中を整理しながら戻る。

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2つの水跡は恐らく海から来たものだ。

と言う事は、井戸から海へ続いていると思っていたアレも、海から来たものなのだろうか。

ならば、やはり原因は井戸ではなくて、蓋なのか。

だとしても、以前本職の人間が気付くはずだが・・・

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部屋に戻ると

「てんちょぉぉぉぉ・・・」

倉科が泣きそうだ、いや、泣いていた。

最初に来た男は、この蓋の前で消えたな・・・何故だ。

「え?無視?私のこと無視ですかぁ~?」

うるせぇ、元気じゃねぇか。

昨日聞こえた音も、直に消えてしまっていたし、昨日のヤツも井戸の前に着いて消えたのだろうか・・・

この銅蓋に一体なにが・・・

「南無阿弥陀仏!うわー怖いー!」

全然怖そうじゃねぇぞ。

南無阿弥陀仏?ふむ・・・かなり荒唐無稽ではあるが、1つだけ仮説が出来た。

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俺が何か思いついた事に気付いたのだろう。

倉科が近寄ってくる。

「なになに!何かわかりました?」

「あぁ・・・恐らくだが、この現象は-----」

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俺が話終えると倉科は目をパチクリさせ

「えー、そんな事あるんですか~?」

全く以って信じてくれていないみたいだ。ムカツク。

「ブルースパーティントン設計書さ。」

「ほへ?店長なにか作るの?」

「ちげーよ!シャーロック・ホームズシリーズのタイトルだ。

作中で『不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる』

って言葉がある。」

そう、どれだけ荒唐無稽であろうとも、これしかないのだ。

答え合わせは朝、島の人々を交えてしよう。

その前に、井戸に蓋を返して置く。

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朝、俺は島の人達を集めて井戸の前にいた。

答え合わせをするためだ。

「今までに起こった現象ですが。

原因は井戸ではありません、この蓋にあります。

これを発注したのはどなたが?」

と、聞くと一人の男性が名乗り出た。

井戸の蓋を注文したところ、廃材が丁度あるので格安で作って頂ける。との事だったそうだ。

「おそらくですが、その廃材とは仏像かなにかのご神体だったのだと思われます。

銅蓋には所々に金が貼り付いているのがわかります。

かなり格式高い物も混ぜられているのではないかと。」

各地から集められた銅製の仏像を然るべき所に送らず、工場にでも横流ししたのだろうか。

なんとも罰当たりな事をするものだと思うのだが。

そう、アレらはきっと、これに引き寄せられてきているのだと俺は思う。

海難事故等で亡くなった者達が救いを求めて。

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電話で業者を問い詰めてやろうかとも思ったが。

きっとまともな返答も帰って来ないだろう。

結局、真実を確認する事も出来ないが、俺はこれでほぼ間違いないと思っている。

こうして、俺達の奇妙な夏のバカンスは幕を閉じた。

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後日、鈴木さんから話を聞いたのだが、あれ以来井戸に異変は起きていないようだ。

蓋については、処分するかと話も出たのだが。

属島である無人島に、施設を建て、そこに奉る事になったそうだ。

なんとも奇妙なご神体である。

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きっとあれは今も、海で彷徨える者達を導いているのだろう。

薄暗い海を照らす灯台のように。

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