「狂気とは妄想を現実だと信じてしまうことで、
宗教とは他人の妄想を現実だと信じてしまうことである」
そう言ったのは誰であったか・・・
では、俺達の見ているモノ。
どこまでが現実で、どこまでが妄想なのか-----
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12月24日、クリスマスイヴ。
生憎とキリスト教徒でもなければ、共に過ごす相手も居ない俺は、
イルミネーションに彩られた街を、1人歩いていた。
周りには腕を組み、仲睦まじそうに歩くカップルの群れ。
爆発しろ・・・と、思うほど寂しい生活は送っていないのだが。
そうだな・・・「爆ぜてしまえ」小さく呟く。
同じ意味だと?知らん。
自分が少しばかり惨めに感じてきたので、速足で目的地に向かう。
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辿り着いたのは、とあるバーだ。
雑居ビルの2階に店を構えるそこは、海外を渡り歩いたマスターが経営しており。
多種多様の酒が用意してある。
店内もそれ程広くなく、店内に響くシェイキングの音と、BGMのクラシックが心地良い空間を提供してくれる。
俺の行きつけの店だ。
扉を開けて、店内を見まわすが、Xmasイヴなのもあり他に客は居ない。
待ち合わせの時間まであと10分はある。
少し早く来過ぎたか。
「お、浅葱さんどうも~、1人?」
マスターである黒木さんに声をかけられる。
知った顔だ、かなりフランクではあるが気にもしてない。
「いや、もう一人来る。」
「そ、じゃあ待ってる?」
「先にやってるさ、カミカゼ、スピリタスで。」
出されたカクテルをチビチビと飲みながら、黒木さんと互いの店の世間話で時間を潰す。
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待ち人が現れたのは、俺が店に入ってから40分後、つまり待ち合わせの時間を30分オーバーしてからだった。
「よう、待たせたな。」
全く悪びれる気も見せないこの野郎は、江崎 司狼。
ブラピ演じる、タイラーダーデンの様な見た目に、なぜかスーツと言う意味不明な格好をした男だ。
それなりに男前なのだが、如何せん恰好のせいで怖い。本当に日本人なのか・・・
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なぜ、俺がこんな男と知り合いなのかと言うとだ。
幼い頃に母を亡くし、中学入学と同時に父を亡くした俺を、引き取ってくれた親戚の長男だ。
引き取るだけ引き取って、後は放置されていた俺を気にかけて世話してくれたのがコイツだ。
勿論感謝もしている。
「で?今日は何の用だ?」
店に来てから3杯目となる、空になったカミカゼの入っていたグラスを置き、尋ねる。
どうせロクな事ではない。
「あー、その前にマスター、ギブソン頼む。」
中々良い趣味してやがる。
「かしこまりました。浅葱さんは?」
「ルシアンで。」
クリスマスイヴに男2人でバーとは、なんとも寂しいものである。
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「店の方はどうなんだ?もう少しで2年経つだろ?」
世間話を振られた。
「ぼちぼちだ、常連さんもそれなりに出来たし、遠方から来て下さる方もいる。」
「その年で良くやってんな、俺なんてまだ学生気分だったぜ?・・・で?あのバイトの子はなんなんだ?コレか?」
小指を立てながら言われる。アホか。
「そんなんじゃねぇよ、ただのバイトだ。手のかかる妹みたいなもんだ。」
「ばっ・・・おめーそんなんだからモテねぇんだよ・・・素材はいいんだからよぉ、俺なんか今年でもう三十路になっちまったぜ。」
そうか、コイツももうそんな年か。
出会った時は18歳のイケメン兄貴だったのにな・・・
「話が進まねぇだろ、要件はなんだよ。」
「おぉ、すまんすまん。これを見てくれ。」
そう言ってカウンターの上に置かれたのは、1枚の写真。
どこかの建物の中だろうか、暗い室内で4人の男女がポーズを決めて写っている。
・・・いや、5人か。彼らの背後、白い和服を着た髪の長い女が、脱力したかのように両手をだらりと垂らし、俯いて立っている。
表情は髪に隠れて見えない。
「これは、群馬にある廃ホテル群、そこの中の部屋で取られた写真だ。」
「心霊写真ってやつか?これがどうかしたのか?」
「まぁ待て、次はこれだ」
また1枚写真を渡される。
不通橋か、これも群馬にある心霊スポットだ。
如何にもヤンチャそうな男2人の後ろ、白いワンピースを着た髪の長い女が、先程の女と同じように俯き加減で立っている。
「まだまだあるぜ。」
そう言って大量の写真を取り出した。
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東京、奥多摩の心霊スポット、ロープウェイでの写真だ、此方には白い和服の女。
同じく東京、旧吹上トンネル、白い和服の女。
神奈川、田浦の廃住宅街、白いワンピースの女。
新潟、ブラックハウス、白い和服の女。
果ては沖縄、南城にある廃墟、白い和服の女。
出るわ出るわ、日本各地の心霊スポットで撮られた写真。
古い物から、新しい物まで、デジカメ、フィルムカメラ、撮影方法、撮影者もバラバラだ。
そして、ソレに写り込む白い和服、ワンピースの2種類の女。
「な?面白いだろ。ツテの悪徳坊主に貰ったんだけどよ。」
ちっとも面白くねぇよ。そのクソ坊主連れて来い。
「色々な写真に写る、この2人女の事、調べてくれないか?
同一人物なのか・・・それとも別々の女が日本中に出没してるのか・・・同じ姿をした女が複数いるのか・・・」
やはり面倒事だ。
司狼は昔から好奇心旺盛で、自分の解らない事はすぐ調べていた。
本人には全く霊感と言うモノがないので、こう言った事は俺に話を持ってくるのだ。
「この女、最後に撮られたのはどこだ?」
「お?調査に行ってくれるのか?白い和服の女が10月、福島の横向きロッジ。」
「福島・・・遠いわ。ワンピースの女の方は?」
「そっちは11月、イエローハウスだ。」
この地方最恐とも言われる廃屋だ、近いな。
「ま、写真は預けておくからよ!気が向いたらやってくれ。」
何故、俺の周りにはこんなヤツしかいないのか・・・
「マスター、ランボルギーニ」
勿論車ではない、カクテルである。
「大丈夫かい?」
マスターに心配されるが、飲まなければやってられん。
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翌日、俺は自室にて大量の心霊写真を広げていた。
世間はクリスマスだと言うのに・・・なんでこうお人よしなのか。
まず、和服の女とワンピースの女は別人だと考えようか。
立ち方は同じ、手をだらりとたらし、俯き加減で立って居る。
2人とも顔は髪に隠れて見えない。
写る場所は不規則だ。
端の方に写っているのもあれば、被写体の後ろ、窓の外、湖の上、トンネルの奥等々。
だが、そのどれもがカメラの方を向いている。
「わかんね・・・」
女の霊が世界中のスポット巡りでもしてるというのか?
昨日の酒のせいで頭もロクに回らないので、昼寝でもしようかとした時。
ピンポーン-----
インターフォンが鳴り響いた。
受話器を上げ、応答する。
「はい?」
「くらしなでーす!」
ブツッ-----取り敢えず即切りしておく。
「えっ!ひどー!クリスマス暇してるかな?と思って遊びにきたのにー!」
外からそんな声が聞こえる。
俺が暇してると勝手に思い込んでるお前の方が酷いわ。
と言うか、お前も暇なんじゃねぇか。
「二日酔いで頭痛いんだよ、なんの用だ。」
渋々と玄関を開けてやるが。
「店長に見せたいものがあってですね!これ!」
と、倉科が俺に掲げて見せたのは1枚の写真だった。
「サークルでスポット行った時に撮ったんですけどぉぉぉぉ・・・」
倉科から写真をひったくる。
「いつだ?これは何時?何処で撮った?」
「おぉ?千歳楼ですけど。」
昨日、イヴに共に過ごす相手も居ない寂しいメンバーで、廃旅館に行った時に撮れたものだそうだ。
写真の倉科の真横、白い和服を着た女が立っている。
昨日から見飽きた姿だ。
「どうしたんですか?」
険しい顔をしていたのだろう。倉科に心配される。
「とりあえず上がれ。」
部屋に上げ、先ほどまで見ていた散乱している写真を見せる。
「なんじゃこりゃぁあ!」
お前は柴田純か。
「昨日から頼まれててな、この写真に写ってるモノがなんなのか調べてる。
で、お前が撮った写真にもソレが写り込んだわけだ。」
まさか、コイツが手掛かりになるかも知れない物を持ってくるとは。
「この女から何か感じたりしなかったか?」
「な~んにもですよぉ。」
「そうか・・・」
やはり簡単には行かないようだ。俺も現地に向かうか?
「う~ん、そうじゃなくてですね。それっぽいものがなんにもありませんでした!」
「どういう事だ?」
はて?また倉科ワールド全開か?
「何も見えない、何も感じなかったんですよ。写真見るまで女なんて見えませんでしたよ?」
「お前の真横に写ってるのに、何も見えなかったのか?」
「そうなんですよ。店長に聞けばなにかわかるかな?って。」
倉科もかなり視える人間である。
その彼女がこれ程までにハッキリと写っているモノを見えなかったと。
余計にわからなくなってしまったな。
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「って言うかですね、店長。これ本物なんですか?」
「本職の人間から横流しされてきてるものだから本物だとは思うぞ。
わざわざ合成した物を寺に持ち込むヤツも居ないだろ。」
考えても仕方ないな、俺も現地に行ってみるか。
「なんか、こう・・・典型的な幽霊って感じですよね。白い服、髪の長い女って。」
倉科が呟く。
あぁ、言われてみれば確かにそうか。
典型的な幽霊のイメージだ。
「あぁ、そう言う事か。簡単じゃないか。」
「お?何かわかったんですか?」
「お前のお蔭でな、お前は天使か。」
「ふぁっ!」
たまにはからかっておこう。
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しばらくして、電話で呼び出した司狼が訪ねて来る。
「もう解ったのか~?早いな・・・ってお!デートか!」
一緒に居る倉科を見て茶化してくる。そんなんじゃねぇって言ってんだろ。
「答え合わせの前にだ、ちょっと準備が必要だから紅茶でも飲んでろ。」
そこから少しの間、3人で会話に華を咲かせる。
毎度の倉科ワールド炸裂だ。司狼でさえたじろいでいる。
と、そこで目当てのモノがやって来た。
「なぁ、司狼。お前アソコに何が見える?」
自分の家のベランダを指さす。
「何がってなんだ?」
「その反応は見えないか・・・倉科は見えるか?」
「んん?ベランダですかぁ?・・・ってうっはぁ!なんじゃこry」
ジーパンはもういい。
倉科には見えてるみたいだ。
「なんだよ!ベランダに何かあるのか!?」
「あぁ、居る。俺と、倉科には視える。お前には視えないモノが。」
自分でもわかるくらいに不気味な笑みを浮かべてみた。
ゴクリ、司狼が息を飲む音が聞こえる。
「倉科、アソコには何が居る。」
「女の子ですね、小学校低学年くらいかな?ランドセルも背負ってますし、Tシャツに半ズボンの活発そうな子です!」
「俺にも全く同じモノが視えてる。」
秋の中頃あの子は、家の前の通りをトボトボと歩いていた。
気にかけてやったら、懐かれてしまったのか、ちょくちょくとベランダからのぞき込んで来るのだ。
特に害もないので、たまに家に入れて遊んでやってる。
案の定と言うか、知らん三十路のおっさんが俺の家にいるので、気になって覗きに来たのだろう。
喋らないので、どうしてこうなっているのか解らないが、その内どうにかしてやらなきゃな。
「おっと、話が逸れたな。俺達には、こう言った存在をしっかりと視る事が出来る。
姿形、着ている服から表情まで。
司狼、お前はどうだ?視えないからイメージするしかないよな?
俺と倉科にアソコに何かが居る。と言われた時、お前はどんな姿を思い浮かべた?」
俺は、写真を1つ手に持ち。
「これ、じゃないのか?」
そこに写る女を指挿しながら訪ねる。
ハッと、司狼が息を飲んだ。
それなりに差異はあるだろうが、白い服の髪の長い女、一般的な霊のイメージではないだろうか。
話によっては赤いワンピースだったりもあるが・・・
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きっと、人々の「霊とはこう言うモノではないのか」と言うイメージが、写真に写り込んだのではないのだろうか?
多くの人間の妄想が、現実となって。
それならば、倉科に女が視えなかったのもそれなりに説明出来るはずだ。
「だが、人間の妄想が写真に写り込むなんて、馬鹿げてるだろ。」
納得出来てないようだ、そりゃそうだ、俺だって荒唐無稽だと思う。
「俺が言ってるのは、あくまでも仮説だ。
この世界に0%と100%はない。断言はしないさ。」
そこまで言って、一息吐いた後、こう繋げる、でもな---
「『オカルトって言うのはな、科学でも証明しきれていないんだ。
だからこそ、人は忌避し、恐れ、それでいて言いようのない興味を抱く、それは時として狂おしい程に。 』
俺にそう言ったのは、アンタだろ?司狼?」
そう、明確な答えを出す事なんて出来ないのだ。
それが出来てしまえば人間はこんな事に興味を示さなくなってしまう。
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静まり返った室内に、女の子と遊ぶ倉科の笑い声だけが響き渡っていた-----
作者フレール
てんちょう!店長シリーズの第8話ですよ!
なんか書きたい事がくっちゃくちゃになってますよ!
第9話書いてる場合じゃないですよ!
尚、話に出て来る心霊スポットは全て実在します。
現在は立ち入り禁止になっているものもありますので
物理的等々の理由からも遊び半分ではいかないで下さいまし。
怖いです。