全ての物事には始まりがある。
交差点の真ん中に立つ、頭の半分潰れた少女。
自販機の横に立つ、くたびれた様子のサラリーマン。
ちょっとチャラチャラした男の後ろに、ぴったりとくっつく女。
彼らがそこに存在するようになってしまったのにも、始まりが、理由がある。
死して尚、この世界に縛り付けられるほどの理由とは---
そして、そんな彼らの事を見ていると、幼き頃を思い出す。
「視える」ようになったきっかけを。
そう、全てが始まったあの夏を---
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照りつける太陽、五月蝿いくらいの蝉の鳴き声、そして公園ではしゃぐ子供の声。
引っ込み試案だった為、その中には混じらずに1人、砂場で遊んでいた。
ふと、影が差し込む。
1人の少年が、目の前に立っていた。
大人しそうに見える彼もまた、みんなの輪に入れないのだろう。
「一緒に遊ぶ?」
何故か、そう声をかけてしまっていた。
彼は微かに、首を縦に振った。
ツヨシと名乗った彼は他校の生徒のようだ。
向こうの学校では友達が出来ず、こっちまで遊びにきたようだが。
此方でも声を掛ける事が出来なかったようだ。
しかし、似た物同士だったのもあるのか、仲良くなる事ができた。
次の日から、2人で一緒に遊ぶことが多くなった。
一緒に図書館に行って勉強、駄菓子屋でお菓子食べたり。
初めて夏休みらしい夏休みを過ごした気がする。
しかし、そんな夏休みも終わりを告げる。
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勿論夏休みが終わってからも一緒に遊んだ。
けれど、進級し学年が変わって、同じクラスに友達が出来た。
それからはその子達と遊びまわっていた。
たまに、あの公園も覗いてみたけど、彼はいなかった。
きっと彼にも友達ができたのだろう。
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時は流れ、小学校最後の夏休みとなる。
あの男の子の事も記憶から薄れていた。
毎日のように、仲の良い友達と遊び回っていた。
「なぁ!探検しようぜ!」
1人の男子がそんな事を言い出した。
如何にもわんぱくそうな子だ。
この公園から少し歩いた住宅街の外れ、そこに廃屋がある。
真偽の方はわからないけど、そこで一家心中があったそうだ。
それ以来廃屋と化し、近づく人間もいない。
夏、廃墟が近くにあるとくれば、もう肝試ししかない。
流石に子供の身分であるので、夜集まる事は出来ない。
昼過ぎではあったが、このまま数人でその廃屋に向かう事になった。
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廃屋の中は、時間の割には薄暗く感じる。
太陽の光が差し込んでいるので、雰囲気がそうさせているだけなのかもしれないが。
お化けなんかよりも、扉を開ける度に人間の気配を感じて隠れ出す虫の方がよっぽど気持ちが悪い。
「うへー、気持ちわりー。」
「なら帰ろうよぉ・・・」
「お前ビビってるのかぁ?」
煽るな!もう・・・
何人かは面白がりながら、もう何人かは怖気づきながら探索を続ける。
この家が生きていた頃のままなのだろう。
ほぼ全ての家具類はそのまま残っている。
けれども、特になにもないまま2階への階段を上る。
階段を上りきってすぐ手前の扉を開けると、そこは子供部屋だった。
勉強机、その周りに置かれたプラモデルや玩具。
「うおー!V2バスターがあるぞ!F91もある!」
プラモデルに興奮する男子達、おいおい・・・
机に並べられたノート類、何の気なしに手に取った1冊。
書かれた名前は「若松 剛志」
剛志・・・ツヨシ?
ふと、数年前の夏休み、一緒に遊んだ男の子を思い出す。
偶然か・・・
そう思い、ノート置いた時、ふと横に気配を感じた。
彼が、あの時の姿のまま、横に立っている。
時間はあの時で止まっているのか、身長はもう此方の方が高い。
ソレに気付いた周りの子達は一斉に逃げてしまった。
「一緒に遊ぶ?」
何故か、本当に何故なのだろうか、そう声をかけてしまっていた。
だが、あの時とは違い、彼は首を横に振る。
「なんで?いこうよ!」
手を取る、触れた事にびっくりしたが、恐怖心は何故かなかった。
彼は困った顔をして、引っ張られて着いてきたのだが。
もう少しで玄関に辿り着く所で、ガクンと彼が重くなった気がした。
どうしたのかと振り返ると、彼を抱え込むかのように女が立っていた。
此方を恨めしそうな眼で見つめる女。母親なのだろうか。
彼はちょっと寂しそうな顔をして、此方の手を振り払った。
「僕は、もういけないんだ。」
そう、聞こえた気がした---
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何故あの一家が心中したのか、母親が何故彼を離さないのかは解らない。
けど、彼はまだあの家にいるのだろうか・・・
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それ以来だ、色々と視えるようになってしまったのは。
そして彼らにもまた、ツヨシのように此方に縛り付けられている理由があるのだろう。
興味がある、そう、不謹慎かも知れないけれども気になるのだ。
同時に、彼らが抱える物を想像してしまうと、ツヨシの事を思い出すと、少し悲しくなる。
だから、だから私はーーー
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「てんちょー!明けまして!おめでとうごじゃーます!」
だから私は、そんな思考をあまり持たないように明るく生きてみる事にした。
「あー、おめでとさん。今年は程々によろしく頼む。」
そして、去年の春先出会ったこのダルそうに新年の挨拶を返して来た彼は、私よりも色々な物が視える。
気になる、彼に視える世界が。
どうしてそんなに視えるようになってしまったのか。
「んふふ~!今年は容赦しませんよー!」
いつか、話してくれると良いな---
作者フレール
10話!
もうちょっと長めに書こうかと思いましたが、断念。
あんまりしんみりしたくないのですよ(´・ω・`)
追記
倉科の過去話になります。
過去回想に1人称入れなかったりとミスリードっぽくしちゃいましたので・・・
頭良いハズの倉科がちょっとアフォの子炸裂にはこんな過去がありました!
みたいな感じで書きたかったのです(´・ω・`)